医療、警察、消防、製造等の「交代勤務」に従事する人の多くは、睡眠トラブルが原因の体調不良に悩んでいます。また、睡眠障害が原因の日本の経済損失は15兆円にものぼるとされ、事態は深刻です。解決の手立てはあるのでしょうか。※本記事は、スタンフォード大学医学部教授・西野精治氏の著書『スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣』(PHP研究所)より抜粋・再編集したものです。

交代勤務で、めまい・消化器系の不調・倦怠感等を発症

日本ではいま、交代勤務で働く人の割合が3割近くになっていると聞いたことがあります。その多くが、睡眠障害、めまい、消化器系等の不調、勤務時間中の眠気、倦怠感などの問題を抱えているといいます。

 

交代勤務に伴うこうした体調不良も、「概日リズム睡眠障害」の一種です。

 

ただ、交代勤務とひとくちにいってもさまざまな勤務体系があり、産業による特徴もあります。2交代や3交代など夜勤のパターンによっても異なりますが、日本では、月に5~8回(週に1〜2度)程度の夜勤が一般的です。

 

救急指定病院や入院患者さんのいる病院では、看護部門は日勤・準夜勤・深夜勤の3交代制、医師・薬剤部・検査部門は宿直勤務が多いです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
日本では、交代勤務で働く人の割合が3割近くにのぼる(※写真はイメージです/PIXTA)

 

消防署、あるいは、警察署(交番)、警備業の施設警備部門などでは、いつ発生するかもしれない火事・事故・事件に備え、当番者が深夜も含めた24時間待機の体制をとっています。消防署・警察ではそのため、2部あるいは3部勤務が導入されており、この勤務体系も、2交代、3交代とよばれることもありますが、看護部門等の勤務体系とはまったく異なります。

 

一方、車の製造業では、昼夜の2交代(連続2交代勤務)を1〜2週間交代で行なっているところもあります。

 

これら2交代制の利点は、深夜勤務手当を節約できること、また連続2交代勤務では需要の変動を残業(最大3時間×2)で吸収できることがあげられますが、これはあくまでも、従業員の健康問題を度外視して表面上の経済性を目的とした交代勤務です。

 

こういった1〜2週間交代の連続2交代勤務による健康被害や、就業中のパフォーマンスの低下により経済性においてもマイナスの影響を与える可能性が高いので、今後その見直しが迫られると思われます。

 

身体本来のリズムにそぐわない時間帯の就業であっても、覚醒度を上げ、パフォーマンスを向上させるにはどうしたらいいか。

 

対策のひとつに、交代勤務の現場でも、「光療法」の活用があります。

 

たとえば、夜間に稼働している職場で高照度のライト、特にブルーライトを使うと、メラトニンの分泌を抑えることになるので、勤務中に眠くならないのです。

 

イメージとして、野球場のナイター照明を思い浮かべてもらえばいいでしょう。ナイター照明は、非常に明るく感じます。暗いと、プレイするほうも、観客もテンションが上がりません。あの煌々とした明るさには、パフォーマンスを上げる効果があるのです。

 

夜にブルーライトを浴びることは、身体が本来もっているリズムのためにはいいこととはいえません。ただ、現代社会で交代勤務をまったくなくすことは不可能です。交代して夜間でも働かなくてはいけないのであれば、眠くなってうっかりミスが起きてしまうよりは、眠くならず、意識が覚醒しやすい環境をつくるべきでしょう。

 

その場合、朝に仕事を終えた後、さらに朝日を浴びてしまうと体内時計は完全に混乱してしまい、眠れなくなります。

 

ある事業所では、夜間勤務を終えた人たちに、日中は室内を意識的に暗くして過ごしてもらうようにしたところ、睡眠が改善されたという報告もあります。生体リズムには反していますが、体内時計を完全に昼夜逆転させてしまうわけです。

 

身体には順応性があります。逆転生活でも、きちんとメリハリをつけて新たなリズムを確立することができれば、睡眠もしっかりとれますし、覚醒時の仕事効率が劣化することもありません。

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スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣

スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣

西野 精治

PHP研究所

睡眠とは単なる休息ではなく、あらゆる生命現象の基盤である―。世界最高峰といわれるスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所所長が、「脳の老廃物を洗い流す『グリンパティック・システム』」などの睡眠研究の最前線から、「…

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