「隠し事」を残したままでは、どんな相続対策も水の泡
相続対策をするのに一番大切なのは、親子間の協力です。みなさんだけが頑張っても、実際に相続をするのは子どもになりますから、子どもがしなければならないこともたくさんありますし、逆に子どもだけが頑張ろうとしても、みなさんの協力がなければ相続対策はできません。相続対策に親子間の協力は不可欠なのです。
このときに大切なのは、親が子どもに秘密をつくらないということです。相続問題は大きな財産がからみますから、みなさんにとってもお子さんにとっても非常にデリケートな問題だと考えてください。
ですから、些細(ささい)なことで親子間の関係がぎくしゃくしたり、もめごとに発展してしまったりしないよう、親としてみなさんの配慮が必要になります。
財産や借金をすべて子どもに伝えなければ相続対策は進みませんし、みなさんが伝えていない財産があると、子どもは不信感を抱きます。子どもがどのように遺産を分割するかについて話し合っているとき、実は二男の知らないところで長男に大きなお金を贈与していたなどということが発覚すると、兄弟間でのもめごとの火種になります。
また、あまりないかもしれませんが、実は子どもの知らない養子や隠し子がいて、法定相続人がほかにもいたなどということになっては、せっかく行った相続対策が水の泡です。
ですから相続対策は、子どものことを信じて、子どもに自分のことを包み隠さず話をして、秘密をつくらないようにすべきです。
「愛人との間に子どもがいる場合」については、次回詳述します。
「株」でできる賢い相続…急上昇したら贈与のチャンス
家族に黙って株をやっている、という人は意外と多いものです。一般的に男性は株が好きで、女性は株が嫌いといわれます。そのせいか、奥さんに黙ってご主人が株をやっているというのは、実はよく聞く話なのです。
株(ここでは、証券会社で買うような上場会社の株式のことをいいます)は、相続すれば相続財産となります。
では、株の評価額は相続税の計算ではいくらになるでしょうか? 財産の評価は、基本的には亡くなった日の評価額とされていますから、株の評価も亡くなった日の値段じゃないか、と思うかもしれませんが、実は株の評価だけは次の4つの評価方法が定められています。
①相続のあった日の終値
②相続のあった月の終値の平均値
③相続のあった月の前月の終値の平均値
④相続のあった月の前々月の終値の平均
値株だけは、この4つのなかで一番低い額を評価額とすることができるという、うれしい取り扱いになっています。株を"贈与"する場合の評価額も、相続税の評価と同じく、先の「相続」を「贈与」と読み替え、過去の評価額を使って、おトクな贈与をすることができます。
たとえば、2ヵ月前に100万円で買った株が急に値上がりして、2ヵ月後に500万円になったとします。
このように、株価が急上昇したときが贈与のチャンスです。なぜなら、500万円の時価になった株式を贈与した場合、この財産の評価額は2ヵ月前の100万円、つまり、贈与税の計算上は100万円の株を贈与したという取り扱いになり、(110万円以下であることから)贈与税がかからないからです。
2ヵ月で株価が突然5倍になるなんていうことはあまりないかもしれませんが、絶対にない話でもありません。
株をもっている方は、値上がりしたタイミングで贈与をするとおトクであるということをぜひ頭に入れておきつつ、家族に黙って株で儲けていたならば、これもへそくり同様、最後はきちんと家族に伝え、賢い相続をしてください。
五十嵐 明彦
税理士法人・社会保険労務士法人 タックス・アイズ 代表