だれも買い取ってくれない株に「300万円」の相続税
上場企業サーチのデータによると、日本の株式会社数は約217万社にのぼります。これがどのような数字か想像できる人は少ないはず、そこで日本の上場会社の数と比較してみましょう。
日本の上場会社数は約3800社です。つまりざっと計算すると、日本の株式会社の99.8%が非上場会社です(上場企業サーチ「日本の各都道府県の株式会社数と上場会社数」2020年3月調べ)。
この数字は全国津々浦々に大勢の非上場会社の株主がいることを意味します。最初にお伝えしておきますが、非上場会社の株主、特に持株比率が50%以下の「少数株主」の多くは、将来非常に困った事態に直面する可能性があります。まずは、私がこれまでに見てきた典型的な2つの例を紹介していきます。
Aさん 41歳 男性 個人事業主
先日父が亡くなりました。そこで遺産相続の手続きをしていると、父がN社の株式を所有していることがわかりました。N社は機械製造の非上場会社ですが、年商数百億円というそこそこの規模です。
その株式の相続税評価額は約2000万円(5000株)でした。そして納税額は300万円。払えない額ではありませんが、当時の私は新規事業を立ち上げるために現金が必要だったので、できれば預金は1円でも減らしたくなかったのです。
そこで私はN社の総務課に電話をし、評価額(2000万円)以上の価格で買い取ってほしいと打診してみたのです。すると「引き取ることはできるが、値段はつけられません」との回答。つまりタダなら引き取るというのです。
「リーマンショック前に数十億円で購入した工場用地の評価額が暴落し、債務超過になっている。そのため当社の資産総額はゼロ以下です。株価も当然ながらゼロになります」
仕方なく私は300万円の相続税を自腹で納めました。なんとか売却して取り戻したいものですが、非上場会社の株式なんてだれも買ってはくれません…。
Bさん 36歳 男性 会社員
私の父は、祖父が創業したスーパー(非上場会社)の株式の20%(5000株)を相続しています。しかし、経営には一切携わっていません。父の弟である叔父が跡を継ぎ、父は他社で雇われの身として、長年建築関係の仕事を続けていました。父と叔父はだんだん疎遠になり、ここ数年は会話もしていません。
ところが1年ほど前に父がガンを患い、まったく仕事ができない状態になりました。いままで預金と私の稼ぎでなんとかやってきましたが、そろそろ限界が近づいてきました。
このような状況で決断したのが、叔父が経営する会社の株式売却です。実は、私は祖父が創業したスーパーの経営を手伝いたいという思いから、大学院で経営を学びMBA(経営学修士)を取得していました。しかし、当時すでに社長となっていた叔父は、私のことをまったく受け入れてくれなかったのです。叔父の持株比率は51%もあるので、だれも口出しできません。
このような状況なので、将来私が父の持つ株式を相続しても、経営には携われないでしょう。しかも現在の配当金はゼロです。そんな株式なら持っていても仕方がないという結論に至ったわけです。
そこで、会社のなかで唯一つながりのある専務に現在の株価を聞いてみました。すると、顧問税理士が毎年評価をしており、「1株1万円の価値がある」というのです。7年連続黒字であるため、どんどん評価が上がっているとのことでした。
父名義の株式は5000株あります。1株1万円であれば5000万円。これだけあれば十分な治療を受けられます。私は父の代理として叔父に売却の意思を伝えたところ、叔父の回答は「1株800円」でした。
叔父は「うちはそんなに儲かってないよ。それに多店舗展開を続けているから借金も多い。だから800円でもギリギリだよ」と涼しい表情で、計算根拠は配当還元方式だと主張しました。
1万円と評価されていたものが800円になるのはどう考えても納得できません。しかし、叔父以外に株式を買い取ってくれる人はだれもいない…。本当に悔しいです。
このように非上場株式は「換金したいのにだれも買い取ってくれない」「買い取ってくれる人がいても買い叩かれる」といった、悩みの種になっているケースが数多くあります。
一般的に株式は「資産・財産」と思われがちですが、ほとんどの少数株主にとって非上場株式は、まさにお荷物状態なのです。自分の持ち物なのに、自由に売ることができない。しかも、相続時にとんでもない事態を招くこともありえるのです。
次回は、売却困難な株式の種類等について見ていきます。
喜多 洲山
株式会社喜望大地 代表取締役会長