円と他国通貨の両替えも「ドル」が仲立ちしている
世界の金融でドルが中心であることは、明々白々ですが、頭の中もドルを中心に考えを切り替えていくことが重要と思います。
日本は貿易国で、海外でもビジネス取引が広がっています。個人レベルでも海外旅行経験者も増えております。海外に行けば、日本円よりもドルが中心、ドルが使用できるということは、すでに実体験されていると思います。ドルが基軸通貨であるということが、海外で日本円から他国の通貨に替える場合にわかります。
たとえばタイ・バーツに替える場合、実は円からドル、そしてドルからバーツに交換されています。窓口では、円を出してバーツが出てくるので、ドルを仲介しているプロセスは見えませんが、交換レートを決めますので、ドルが仲立ちになっています。タイは日本人・日本企業も多いので、日本円が通用する、使えるケースもありますが、通常は他国では自国通貨以外では、ドルが実際に使えます。
またロシアでは、タクシーに乗りますと、支払いを「ドルで支払う」と言いますと、運転手は喜びます。ロシアの通貨・ルーブルは下落していることもあって、自国民でもあまり歓迎していないようです。これはロシアだけでなく、自国の通貨が弱い国では、事実です。
日本円は世界でも強い通貨になりましたが、ドルと対峙しますと、経済的にも政治的にも、アメリカに誘導されます。だいたい1ドル360円と決めたのは、アメリカ主導です。アメリカは400円を主張していて、日本は300円程度を考えていたようですが、円とは丸で360度だから、360円に決まったという説があります。
それが、1971年8月のニクソン・ショックで300円程度にドル安・円高になり、極めつけは1985年9月のプラザ合意です。合意といえば聞こえはよいですが、アメリカからの押し付けで、集まる前から内容はすべて決まっていて、会談も20分程度で済んだということです。
だから、アメリカが決定したことを、日本・西ドイツ・イギリス・フランスに伝えただけのようです。時のベイカー財務長官が日本(時の大蔵大臣・竹下登氏)に「1ドルは200円から200円以下で」と伝えたとのことで、当時230円だったのが一気に200円へ、1年後には150円まで下落=円高になりました。同時に円金利は6%だったのが8%まで上昇しました。銀行から借入れされていた方々は、2%以上も金利が急上昇し大変だったと思います。
ドルはアメリカの通貨であり、世界の通貨
筆者は銀行員時代、プラザ合意の時から為替・資金のディーリング・ルームに在職しておりましたが、「為替介入」といいまして、自国の為替レートを有利に変更するため、中央銀行が市場に介入してくるのです。この時、完全に一方的です。要するに、日本はアメリカの言いなりにならざる得ないということです。であれば、世界の金融の中心であるドルに頭の転換をお勧めします。ドルを中心に世界の金融・通貨が回っていますので、筆者は「ドル天動説」を唱えたいと思います。
もちろん日本で居住・生活していれば、円は必要で円での経済感は必要ですが、こと金融、つまり自分の資産を考える時はドルをベースにするべきだと思います。これからは円安、円高と円をベースに考えるのではなく、ドル高・ドル安とドルをベースに金融・経済思考を変えるべきです。
ひとつ余談を。発展途上国にIMFが資金提供をする場合、実際にお金はどうやって支払われるかご存知でしょうか? 国連の金庫(イギリス・ロンドンにあります)から、実際にドル紙幣で支払われます。筆者はこの目で見たことがありますので、事実です。事ほど左様に、ドルが世界を駆け巡っているのです。そのドルの金融政策を執り行っているのが、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)です。
筆者が銀行勤務時代、アメリカ金利のマンスリーレポートを約2年間担当していたのですが、その時このFRBこそ金融の要で、金利を決定しており、世界の金融市場に影響を及ぼすということで、FRBの政策金利・金融政策を決定する最高意思決定機関であるFOMC(Federal Open Market Committee:連邦公開市場委員会)に注目していました。金融関係者の間では、「FED」と呼ばれています。
日銀がいくら金融政策や金利の上げ・下げを発表しても市場はさほど反応しませんが、FRBの金融政策は、資金市場はむろんのこと、為替市場、株式市場、商品市場、先物市場など、アメリカのみならず、世界中に影響を及ぼします。円は日本の通貨、バーツはタイの通貨、ポンドはイギリスの通貨、ルーブルはロシアの通貨、などなど。では、ドルは? アメリカの通貨ですが世界の通貨です。