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新型コロナウイルスが猛威を振るう中、バイオ医薬品業界が注目を集めています。世界的な大流行(パンデミック)に決定的な打撃を与えることが出来る企業はあるでしょうか?
バイオ医薬品業界は、各種の画期的な技術や大量のデータを活用し、新型コロナウイルスとの闘いの最前線で奮闘しています。
勝利に繋がる最も明らかな道は、ワクチン開発だと思われますが、この点では、ある程度の期待が持てると考えます。恐らく最も有望なのは、「伝令リボ核酸(メッセンジャーRNA)」で、ここでは、実質的に、人体が、ワクチン製造の「バイオ・リアクター(生体触媒を用いて生化学反応を行う装置)」として使われます。ワクチンの製造工程では、ウイルスたんぱくの合成に必要な分子テンプレート、即ち、伝令リボ核酸が細胞に与えられ、合成されたウイルスたんぱくは抗体産生の誘因として作用します。
メッセンジャーRNAは非常に巧妙であることが知られているものの、治験は全く行われていません。最初の難関は十分に強力な抗体反応を創ることであり、現在、フェーズ1治験で検証が行われているところですが、問題は、検証だけをとっても1年を要することです。従来型のワクチンはより短期間で開発される可能性はあるものの、最短でも1年程度かかるかもしれません。
開発規模は小さくとも、より短期間で実現が可能だと考えられるのは抗体治療です。一部のバイオ医薬品企業が新型コロナウイルス抗体を実験室で製造していますが、こうした抗体は、マジックテープなどの面ファスナーのように、ウイルスの表面に付着して、ウイルスが細胞と結合し体内に拡散することを阻止するための中和剤として設計されたものです。抗体が開発されれば、(高齢や既往症がある等、)最もリスクの高い人に予防薬として投与することが可能ですし、患者の治療にも使えるかもしれません。
抗体製造の代替となるのは、新型コロナウイルスから回復した患者の血漿から採取する抗体で、2003年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の治療では一定の効果をあげています。
ウイルスとその影響に焦点を当てた研究開発
ワクチンや抗体の開発と同時に、新型コロナウイルスを抑えるための各種の治療薬の開発あるいは既存薬の適用拡大が検討されています。最も優先順位が高いのは、体内でのウイルスの複製を阻止あるいは抑制する抗ウイルス薬ですが、開発が最も進んだ段階にあるのが、ギリアド・サイエンシズ(米国)のレムデシビルです。当初は静脈注射で投与する、エボラ出血熱の治療薬候補として開発されたものの当局の承認を得るに至らず開発が中断されていたのですが、現在、新型コロナウイルスの感染初期段階の治療薬候補として治験が進んでおり、4月中にも結果が発表される予定です。
ウイルスの感染後期に発症するより重篤な合併症治療には別の分野での研究が行われています。
疾病の早期発見あるいは効果的な予防がなされなかった場合には、免疫システムが過剰反応を起こし、身体を攻撃し始める可能性があります。リジェネロン・ファーマシューティカルズ(米国)のケブザラ(サリルマブ)が一例として挙げられますが、疾病後期の治療薬が目指しているのは、インターロイキン6(IL-6)受容体の阻害を通じた免疫過剰反応の抑制です。
リスクと投資の好機
とはいえ、バイオ医薬品業界がフル稼働できるというわけではありません。他業界と同じく、新型コロナウイルスの封じ込めを図って講じられた様々な施策の影響を被っているからです。人を被験者とした治験は、移動規制のために困難となり、多くの場合、遅れが生じています。対面型のマーケティングが出来ないことから、新薬の商業化にも遅れが生じています。一方、医薬品製造には、工場閉鎖や原料不足の影響が及んでいます。イブプロフェンを例に取ると、主要製造拠点の幾つかは、(武漢を省都とする)中国の湖北省や(ミラノを州都とする)イタリアのロンバルディア州に置かれています。加えて、設立からの日が浅く、事業基盤が確立していないバイオ医薬品企業にとっては特に重要な新規の資金調達が、金融市場の緊張によって困難となる状況が予想されます。
最後に注目されるのが、新型コロナウイルス治療がニュースの見出しを飾り、投資家心理が改善されたとしても、企業側は、薬価設定を可能な限り低位に抑えざるを得ないと感じており、従って、治療薬が、そうあるべきであったとしても、企業利益に貢献する大型新薬にはならないだろうということです。
投資対象としてのバイオ医薬品セクターには、株価が上下に大きく振れる傾向が見られます。医薬品開発は成功することがあると同時に失敗する可能性もあり、特許権(パテント)を取得する企業があれば期限切れが到来する企業もあるからです。とはいえ、過去を振り返ると、バイオ医薬品セクターは市場の動揺時や(2008年~2009年の金融危機時を含む)景気後退(リセッション)局面をうまく乗り切ってきました。これは、医薬品需要が景気循環に左右され難いという特性を有するからです。
※記載されている個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。
※データは将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『バイオ医薬品業界は、パンデミック阻止に向けた対応を強化』を参照)。
(2020年4月24日)
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