セブン‐イレブンのフランチャイズ店長が、時短営業に踏み切ったニュースは記憶に新しい。世論からの厳しいバッシングを受け、大手コンビニ各社が長時間労働の改善を図るなど、世の中の風潮は変わりつつある。一昔前とは様変わりしたコンビニ業界。コンビニ流通アナリストの渡辺広明氏は、書籍『コンビニが日本から消えたなら』(KKベストセラーズ)にて、店長時代の強烈な経験を綴っている。

暴走族、迷惑行為しても注意すれば普通にやめてくれる

◆コンビニはどんな方でもウェルカム

 

コンビニには、本当にさまざまなお客様がやって来ます。接客においては区別・差別をしないのが原則で、「お客様は神様です」とまでは言いませんが、誰に対してもしっかりと対応するよう指導されていました。

 

私が店長だった1990年代前半は、チーマーやカラーギャングの黎明期。つまり、まだヤンキーと呼ばれる不良少年たちの方が多かった時代で、暴走族なんかも元気に走り回っていました。彼らの活動時間は夜間が中心ですから、24時間営業のコンビニは絶好の溜まり場だったわけです。

 

私が勤務していた店舗もご多分に漏れず、暴走族の集合場所でした。リーゼント頭のニイチャンが、店内のコピー機でせっせと集会の案内を印刷するんです。こちらは許可していないのに、勝手に集合場所にうちの店の名前を書いて「夜8時に集合!」というビラを仲間に配ってしまう。

 

このため、暴走族が買い物に来ることも多かったんですが、たまに釣り銭で揉(も)めることもありました。その場では普通に会計を済ませ、あとになってから「オイ、さっきの釣り、500円足りなかったぞ!」と、嘘のクレームをつけてくる。当然、そんな間違いはないので断ると、駐車場に戻ってバイクに跨(また)がり、再び入口に近づいてくる。そして、バイクのケツを入口に向けると、そのまま爆音で空吹かしして、店内に噴煙を撒き散らしてくるんです。

 

でも、「やめてください」と言えば普通にやめてくれるし、それ以上のことはしてこない。店内で暴れて何かを壊すようなこともなかった。結局のところ、ポーズなんです。

 

現代でも、自分のヤンチャな行動を動画に撮って、SNSでアップしてワル自慢する若者がいるじゃないですか。アレと同じで、あくまでも「俺はこんなことしちゃうんだぜ? スゲーだろ!」という、仲間に対するパフォーマンスなんですよ。

 

実際、集団のときは私に対して「テメー、この野郎!」のノリだったけど、街で一対一のときに会うと、「あ、店長、コンニチハ!」と、ものすごく丁寧に挨拶してくる。集団ならではの気が大きくなる心理というか、まぁ微笑ましかったですね。

コンビニ店長を「敵対する構成員」と勘違い

◆きちんと話せば分かってくれる

 

また、別の店舗ではお隣さんが「暴力団の道場」だったこともありました。暴力団の道場って何だ?という話ですが、ようするに新入りの研修施設です。彼らの世界でも、シノギをする上で礼儀は大切。でも、チンピラ上がりの新入りは態度が大きいので、暴力団の世界で生きていくための常識や礼儀を道場でイチからたたき直すらしいんです。

 

彼らもよく来店しましたが、最初のうちは偉そうな態度で接してくるものの、1週間ほど経つと礼儀正しくなってくる。暴力団の世界にも、人材育成というものが存在するんだなと興味深かったです。

 

ただ、暴力団員から「毎日、店の前を掃除してやってるから」と〝みかじめ料〟を要求されたこともあります。でも、私も店舗前の掃除を毎日していて、ついでに道場前を掃除することもあったので、それを理由に「だったら、私にもみかじめ料をください」と返したら、「じゃあいい」とチャラになりました。まぁ、相手からしたら、ただの冗談だったのかもしれませんけどね。

 

魑魅魍魎のコンビニ
魑魅魍魎のコンビニ

 

一方、こちらのミスでクレームを受けることもありました。アルバイトが弁当の箸を入れ忘れたとき、道場から電話が掛かってきて「いますぐ箸を持ってきてくれ」と。我々の不手際ですから、バックヤードに用意していたスーツに着替え、私が箸を持って伺いました。ところが、私の姿を見るなり「バカ野郎、スーツで来るな!」と怒鳴られてしまった。どうやら、監視カメラでスーツ姿の私を見て、敵対する構成員の〝出入り〟と勘違いしたそうです。

 

ちなみに、この店舗があったエリアは、非指定団体も含めて40団体ほどの暴力団や外国マフィア系が点在する激戦区だったそうです。しかし、幸いと言っていいのか分かりませんが、隣の道場は全国でも有数の指定暴力団。そのおかげか、少なくとも私が店長をしていた期間、店舗付近で抗争などに巻き込まれたことは一度もありませんでした。

野球帽を被ったオッチャンに1000円を貸したら…

困っているのだからと「ホームレス」に廃棄食品をあげてしまうと…

 

さきほど「コンビニの接客において区別・差別をしない」と書きましたが、どうしても区別せざるを得ないのがホームレスの人々です。なぜかというと、お風呂に長期間入っていない人が多いので、店内に何とも言えないニオイが充満してしまうからです。お客様を平等に扱えと言われても、他のお客様の買い物環境に配慮して長時間滞在しないよう、お声掛けすることになります。

 

また、ホームレスが狙う廃棄食品のゴミ出しにも注意しなくてはいけません。コンビニでは毎日10〜15キロ前後の食品を廃棄しています。彼らは、廃棄する時間帯を把握しているので、その時間が近づくと、ゴミ捨て場にどこからともなくやってきて、遠巻きにこちらの様子をうかがっているんです。

 

「食事に困っているのだから、あげてもいいじゃないか」と思う人もいるでしょう。しかし、彼らは持って帰った先で食い散らかして、容器をその辺に捨ててしまう。そうなると、店舗側の責任が問われてしまうんです。

 

このため、ホームレスが多いエリアの店舗では、弁当をはじめとした食品をすべて開封し、中身を出してから廃棄するようにしていました。

 

しかし、ときには彼らに協力してもらうコンビニ店員も当時はいました。かくいう私がその一人でして、どのようにしたかというと〝ダンボールの処理〟です。

 

コンビニでは大量のダンボールが出ますが、業者に回収を頼むと、当時月3万円くらいかかっていました。ところが、神奈川県の某店で店長をしていたとき、ダンボールを回収してくれるホームレスがいました。大洋ホエールズの野球帽を被ったオッチャンで、3日に1度、必ずやってくるんです。

 

彼らにとって、ダンボールは家や寝床として使えたり、引き取り業者に販売できたりする貴重な資材です。こちらとしても無料で処分できるのだから「こりゃラッキーだな」程度に考えていました。

 

そんなある日、この大洋帽のオッチャンから「金を貸してくれ」とお願いされました。どうしてもお金がない。1000円でいいから貸してくれ、簡易宿泊施設に泊まるためにと。1000円だったらいいかと貸したら、二度とコンビニに現れなくなってしまったんです。

 

お金を返すあてがなくて、気まずくなったのかもしれません。でも、こちらが困ったのはお金よりもダンボールです。それまでオッチャン頼みだったので、どんどんダンボールが溜まっていく。結局、2週間待ったところであきらめて、月3万円を払って業者に頼むことにしました。

 

結果的に、たった1000円を貸したことで、月3万円の出費が掛かるようになってしまったわけです。現在は、どこのコンビニでも業者に回収を頼んでいるはずですが、当時は店舗やチェーンによってバラつきがあったんですね。

 

 

渡辺 広明

マーケティングアナリスト/流通アナリスト/コンビニジャーナリスト

 

コンビニが日本から消えたなら

コンビニが日本から消えたなら

渡辺 広明

KKベストセラーズ

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