職場の同僚・知人の「山本さん」、実はとんでもない出自かも

約30万種もあるといわれる名字。貴族の末裔、武家の子孫、地名や職業由来……その起源を辿れば、自分のルーツを知ることができます。本連載では、家系図作成代行センター株式会社代表の渡辺宗貴氏が、様々な名字の起源や分布を解説していきます。今回取り上げるのは、日本で七番目に多い「山本」。

日本全国に跋扈(ばっこ)する「山本さん」

山本という苗字は全国各地にある山本という地名に由来します。山本とは「山のふもと」のことをいい、そういう場所に地名として命名されています。そして山本地名に住み着いた家が、山本という苗字を名乗りました。4位田中姓と並ぶ地名名字の代表です(関連記事:『大阪・兵庫・京都でNO.1!「田中さん」が西日本で多いワケ』)。

 

全国の山本地名から山本氏は発祥していますが、とくに有名なのは安房国(千葉県)の発祥で後に群馬県館林市へ本拠地を移した第56代清和天皇(850~880)の流れをくむ清和源氏里見氏族の子孫という山本氏です。

 

系図によれば里見五郎義胤の子義宣が山本左近将監(さこんしょうげん)と名乗ったことに始まります。

 

ありとあらゆるシーンで登場する「山本さん」
ありとあらゆるシーンで登場する「山本さん」

 

また滋賀県長浜市湖北町山本から発祥した系統も有名で、こちらも清和源氏佐竹氏族の流れをくみ佐竹刑部太郎義業の子義定が山本遠江守(とおとうみのかみ)と称したことに始まります。

 

ほか中国地方では岡山県美作市には天照大神の流れをくむ学問の神様・菅原道真(845~903)の一族という山本氏がいました。この他にも、さらに多数の発祥があります。

 

では、分布を見てみましょう。西日本に特に多いくなかでも関西に多いですが、4位の田中さんと同じく全国にまんべんなく広がっています。

 

出所:2009年 NTT電話帳調べ
都道府県別「山本」の分布 出所:2009年 NTT電話帳調べ

 

青の色が濃いほど、田中姓が多い(出所:筆者作成)
都道府県別「山本」の分布図 青の色が濃いほど、山本姓が多い(出所:筆者作成)

 

それはそうかもしれません。山本とは「山のふもと」のことで日本全国に無数にこの地名があります。農耕国家であった我が国には無数ともいえるほどの田中地名があったのと同じように、無数ともいえる山本地名があったからです。

 

4位の田中姓と同じく全国にある無数の地名から発祥した山本姓。もし自分の名字が「山本」であった場合、ルーツは何なのか? 候補の多さに途方に暮れてしまいそうですが、ルーツを推測する重要な手掛かりの一つは家紋です。

 

清和源氏発祥の山本姓は「巴」「桔梗」「九曜」紋等を愛用する。

宇多源氏発祥の山本姓は「四つ目」「桐」紋等を愛用する。

藤原氏発祥の山本姓は「七曜」「巴」紋等を愛用する。

 

自分の家の家紋がわかっていれば、まずは家紋を参考にしてみましょう。

山本姓…多数の候補から自分のルーツを探すには

家紋だけでは、ルーツ候補の絞り込みはできるかもしれませんが、確定にまでは至りません。日本の代表的な名字辞典『姓氏家系大辞典』を見てみましょう。

 

※『姓氏家系大辞典』をみると同時に、近年の名字辞典をあわせてみると『姓氏家系大辞典』でよくわからない専門的な用語の理解も深まります。おすすめの近年の名字辞典は『姓氏苗字辞典』(金園社 丸山浩一著)『日本姓氏大辞典 解説編』(角川書店 丹羽基二著)『全国名字大辞典』(東京堂出版 森岡浩著)です。

 

『姓氏家系大辞典』で山本の項目を見ると、77項目もあります。ざっと流し見をしてみます。冒頭の解説に「上加茂社」「加茂県主」「大池神主」などという記載が見えます。

 

「なんとなく神社に関係ある姓なのかな?」というイメージがわきます。さらに「もと上加茂の神職…」という記載が見えます。「1、賀茂姓」と「2、藤原姓加藤氏族」から「加茂神社の神主の山本さんは、藤原氏がルーツなのかな?」ということがなんとなく感じられます。

 

次に近年の名字辞典で、山本姓についての記載を見ます。近年の名字辞典では山本のような大姓はだいたい1~2ページにまとめられています。そうすると、

 

・山本は山元に通じる

・山は古代から信仰の対象

・山の神を崇めた山本氏は神職にゆかりを持つ

 

ということがわかり、理解が深まります。さらに

 

・京都の上加茂神社はじめ神職の山本氏は多い

・上加茂神社の山本氏は藤原氏を祖とする

 

ということがわかります。近年の名字辞典は先にあげた3冊をすべてに目を通すことをおすすめします。

 

さて、『姓氏家系大辞典』に戻り読み進めると

 

11、摂津 「多くは清和源氏……」

15、荒木田姓

16、渡会姓

19、清和源氏 「近江国の豪族にして、全国の山本氏の多くはこの裔と称す。……」

23、佐々木姓 「家紋四ツ目結……」

29、菅原姓

36、桓武平氏

40、清和源氏新田氏族

48、清和源氏満政流

58、日下部姓

69、桓武平氏長野氏族

 

などと、ざっと見ただけでも覚えきれないほどの発祥があります。それでは、仮に、静岡県の山本さんとして『姓氏家系大辞典』と『ネット検索』を組み合わせて検証してみましょう。

 

まずは『姓氏家系大辞典』の山本の項目で静岡に関係ありそうなところを見ておきます。

 

33、駿河 今川義元家臣山本左衛門佐義晴・駿河藁科を領し…家紋一巴、柏葉

34、清和源氏吉野氏族 有名なる勘助晴幸は、駿河の源氏吉野冠者の後という……

35、甲斐 巨摩郡の豪族にありて、山本土佐守は駿河の南宮に住す……

37、伊豆 ……又、田子村の士に山本常任あり、北条早雲氏に属す

 

などとあります。33と37に出てくる著名な人物の今川義元は戦国大名、北条早雲は室町時代の武将です。その家臣に山本氏がいたようです。35によると甲斐国(山梨県)に豪族の山本氏も静岡に来ていたようです。自分のゆかりの地にかつていた有力家系を把握することは重要です。この一族が土着していたなら、静岡県内に子孫がいるかもしれません。

 

34の「有名なる勘助晴幸」とはなんでしょうか? ネットで検索すると山本勘助という人物であり、勘助が名前で、晴幸が諱(いみな)ということがわかります。

 

諱や吉野冠者などもネットで調べられます。諱は武士が2つ持っていた名前のうちの1つ。吉野冠者は三河国(愛知県)の土豪山本氏の一族が称したもののようです。山本勘助も著名な人物で戦国武将です。自分のゆかりの地にいた著名人物を把握することも重要です。

 

一方でルーツを推測する際に気を付けなければならないのが、自分のゆかりの地に上記のような有力家系や著名な人物が出てきたときに早計に結びつけて考えてしまうことです。確かに、著名な人物は勢力もあり子孫も多かったはずですので、その子孫も多く、つながる可能性も十分にありますが、まずは客観的に古い時代にどういう人物がいたか把握し、その人物について調べ、その子孫がどうなっているかをひとつずつ見ていきましょう。

 

たとえば山本勘助をネット検索すると、下記が読み取れます。

 

・その子孫は養子を経て徳川氏に仕える

・その後、甲斐国(山梨県)・山城国(京都府)・丹波国(兵庫県)・常陸国(茨城県)・下野国(栃木県)・越後国(新潟県)を経て最終的に上野国(群馬県)高崎藩士となる。

・その後、子孫は静岡県沼津市に移住

ネットで検索した記述は、その信ぴょう性を検証する必要がありますが、上記の記載は

・「真下家所蔵文書」「沼津山本家文書」なる古文書が発見され

・その文書の研究を基に一定の信ぴょう性がある

と、判断されたもので、さらに詳しくは

・「山本勘助の虚像と実像」『武田氏研究 第36号』柴辻俊六

・山梨県立博物館監修・海老沼真治編『「山本菅助」の実像を探る』(戎光祥出版)

 

などの研究結果が発表されているようです。山本勘助のケースは、戦国時代の駿河国(静岡県)の記録に出てきて、その後、移住を繰り返し、子孫が静岡県沼津市に戻ってきたケースで、もし自分の先祖が沼津市であればつながる可能性が十分に考えられたかもしれません。

 

ですが、これはやや稀なケースです。戦国時代など古い時代の記録に出てきた同姓が、その地に子孫を残した(あるいは山本勘助のように戻ってきた)かどうかはやはり一段階調査が必要です。

 

では、もう一段階どのように調査するかというと、『姓氏家系大辞典』の次に見るべきは『角川日本姓氏歴史人物大辞典』です。角川書店が『姓氏家系大辞典』を補足する目的で平成元年から都道府県別に刊行を始めた地域別の苗字辞典です。現在のところ岩手県・宮城県・群馬県・山梨県・長野県・静岡県・神奈川県・富山県・石川県・京都府・山口県・鹿児島県・沖縄県などが刊行されています。調査地域がこれらに該当する場合は必ず見なければなりません。該当しなくとも近隣県のものは見るべきです。

 

例として静岡県の『角川日本姓氏歴史人物大辞典』を見てみましょう。山本の項目を見ると、まずは冒頭に

 

「山本 やまもと 伊豆国賀茂郡田子(西伊豆町)の土豪に山本氏がある。近江国浅井郡(滋賀県)の出身という(小田原編年録)」

 

とあります。土豪(どごう)とは、室町・戦国期の言葉で「土地の小豪族」を指します。 「小田原編年録」は北条氏に関する史書です。『姓氏家系大辞典』にあった

 

37、伊豆 …又、田子村の士に山本常任あり、北条早雲氏に属す。

 

この記載の事のようです。また同じく『姓氏家系大辞典』には

 

19、清和源氏 近江国の豪族にして、全国の山本氏の多くはこの裔と称す。当国浅井郡山本より起こりし……

 

とあるので、これらを合わせてみると

 

・清和源氏を祖とする近江国浅井郡山本の豪族山本氏の一族が、北条早雲に使え田子村(現在の静岡県西伊豆町)に豪族として栄えていた

 

と、いうことが推測されます。こうなると、たとえば自分の先祖が静岡県西伊豆町の出身であれば、「ここにつながるんだ!」「自分のルーツは滋賀県の清和源氏なんだ!」と思ってしまいそうですが、もう一段階慎重に検証してみましょう。

 

実際には、近江国浅井郡山本発祥の山本氏や『角川日本姓氏歴史人物大辞典』の記載の出典となった「小田原編年録」を調べた上で、この2つの記述がつながるかどうかを把握しないとなりません。

 

静岡県の『角川日本姓氏歴史人物大辞典』をもう少し読み進めると

 

■伊豆国那賀郡中村(西伊豆町)に、近江国(滋賀県)の佐々木氏族の末裔という山本氏がある……

 

という記載があります。佐々木氏族とは近江国蒲生郡佐々木から発祥した宇多源氏を祖とする有名な家系です。つい先ほど「滋賀県の清和源氏」が有力なルーツ候補に挙がったところなのに、今度は同じく「滋賀県の宇多源氏」の可能性が浮上しました。

 

ここでもう一度家紋に戻ると、宇多源氏佐々木氏族の代表家紋は「四つ目」なので、もし家紋が「四つ目」であれば「滋賀県の宇多源氏」の可能性がかなり高まります。

 

いずれにせよ、ルーツを推測する際には仮説を立て、それに縛られることなく客観的に検証という手順が必要です。とても手間暇がかかり、気の遠くなるような作業ですが、その作業の際に蓄積されていく知識は大変興味深いものでもあり、先祖のゆかりの地の歴史を学ぶことにもなり、決して無駄ではないように感じます。

 

家系図作成代行センター株式会社代表
行政書士

北海道釧路市生まれ。行政書士として開業当初、たまたま家系図作成という業務があることを知る。興味から自分の戸籍を取って家系図を作ってみたところ、意外な手続きの面倒さ、古い戸籍の文字を読む難しさを知り、以後、専門業務として扱う。

著者紹介

連載自分のルーツを辿る「名字の世界」

※「苗字」「名字」と二通りの呼び方がありますが、本記事では「名字」に統一いたします。

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