佐藤、鈴木に続いて…三番目に多い名字「高橋」が広がったワケ

約30万種もあるといわれる名字。貴族の末裔、武家の子孫、地名や職業由来……その起源を辿れば、自分のルーツを知ることができます。本連載では、家系図作成代行センター株式会社代表の渡辺宗貴氏が、様々な名字の起源や分布を解説していきます。今回取り上げるのは、日本で三番目に多い「高橋」。

天皇に仕えた一族のほか、地名由来の一族も

日本人の名字の80%以上は同一の地名から発祥したといわれています。とくに訓(くん)読みする名字に関してはほぼすべてが地名発祥です。

 

ちなみに漢字は約4世紀ごろには中国から日本へ伝えられといわれています。中国で生まれた漢字本来の読み方が音読みで、漢字を日本風に読み替えたものが訓読みです。訓読みの起源は原始日本人が日常で使っていた大和言葉といわれ、現在まで残っている地名の大半は大和言葉(訓読み)に漢字をあてて成立しました。そのため地名から発祥した名字も訓読みなのです。

 

このように名字の80%以上が地名発祥でありながら、1位の佐藤さんも2位の鈴木さんも非地名名字でしたが、3位の高橋さんは地名発祥名字ナンバー1として登場します。

 

高橋という名字は全国各地にある「たかはし」という地名に由来します。

 

「たかはし」とは「高台の端」や「高い橋」などのことで、そういう場所に地名として命名されました。そして「たかはし」地名に住み着いた家が、髙橋や高橋という名字を名乗ったといわれています。

 

また高い橋とは天と地をつなぐ架け橋のことで、天にいる神様の言葉を人間に伝える神主が好んだ名字でもありました。

 

全国の「たかはし」地名から高橋氏は発祥していますが、とくに有名なのは奈良県奈良市八条町を本拠とした高橋氏で、古代の名族物部(もののべ)氏の流れをくむ系統と第8代孝元天皇の流れをくむ膳(かしわでの)臣(おみ)の子孫という系統があります。

 

このうち膳臣の系統は天皇の食膳を用意する役目を代々務めました。現在、八条町には高橋神社が鎮座しています。

 

さらにその後全国の高橋地名から様々なルーツの高橋さんが発祥しています。

 

たとえば、岩手県では磐井郡平泉の豪族だった高橋氏があります。この系統は第50代桓武天皇(737~806)の流れをくむ桓武平氏の子孫といわれ、正二位の位階を持つ高橋安麿から始まります。

 

静岡県菊川市高橋と愛知県豊田市高橋町からは、第38代天智天皇の重臣藤原鎌足(614~69)の流れをくむ武家藤原氏の子孫という高橋氏が出ています。

 

岐阜県の近くでは近江国(滋賀県)からは、第59代宇多天皇(867~931)の流れをくむ宇多源氏佐々木一族の子孫という高橋氏が出ており、佐々木一族の京極高氏の子秀宗が髙橋・高橋姓を名乗って初代となりまし

「笠」「「三つ柏」…高橋さんは様々な家紋を使用する

高橋姓の分布を見ていきましょう。

 

出所:2009年 NTT電話帳調べ
都道府県別「高橋」の分布 出所:2009年 NTT電話帳調べ

 

青の色が濃いほど、佐藤姓が多い(出所:筆者作成)
都道府県別「高橋」の分布図 青の色が濃いほど、佐藤姓が多い(出所:筆者作成)

 

高橋姓は東北に多い傾向がありますが、全国にまんべんなく広がっています。なぜ高橋姓がまんべんなく広がったかは、全国に多くの高橋地名があり、そこから発祥したからなのです。具体的には、のちほど名字調査の具体例で見ていきましょう。

 

次に高橋姓の家紋を見ていきます。高橋姓はルーツに関係なく「笠」紋を愛用します。これは高橋の語源である「天と地をつなぐ架け橋」すなわち柱や梯子として竹を用いることが多く、「竹」を「立」てるで「笠」になるからです。

 

高橋姓の家紋でメジャーな「笠」
高橋姓の家紋でメジャーな25年「笠」

 

このような我々の先祖の洒落た感性には、神や先祖に対する敬意とともにユーモアも感じられてあたたかい気持ちになります。

 

また、第8代孝元天皇の流れをくむ家系は「三つ柏」を用いることが多いです。さらに、全国の高橋地名から発祥した様々なルーツの高橋さんは様々な家紋を持ちます。

 

孝元天皇の流れをくむ高橋姓で用いられることの多い「三つ柏」
孝元天皇の流れをくむ高橋姓で用いられることの多い「三つ柏」

 

名字によって、「この名字ならこの家紋をよく使う」ということもありますし、逆に「この名字の人は実にいろんな家紋を使うなぁ」という名字もあります。

 

たとえば、1位の佐藤さんや2位の鈴木さんは前者です。1位の佐藤さんはそのルーツが藤原氏ということで「下がり藤」など藤原氏の代表的な家紋を使うことが多いです。2位の鈴木さんは本姓である穂積氏にちなんだ「稲穂」や「藤」といった家紋を愛用します。

 

3位の高橋さんは後者、多彩な家紋を使う名字です。なぜなのかは、次の名字調査の具体例で検証してみましょう。

 

また名字調査の具体例に進む前に、家紋について基礎知識について学んでおきましょう。

 

【家紋の基礎知識1】家紋の起源

家紋は平安後期(1100年以降頃)に公家の牛車の紋所として生まれました。それが武士にも普及し、武士は戦場で旗印や幕に家紋を描き、自己をアピールしたり、敵味方を区別したりするのに利用しました。さらに江戸時代になると、着物にも家紋を描くようになり、庶民も広く用いるようになりました。

 

【家紋の基礎知識2】家紋はどれくらいあるか

素材の原型は約三五〇種類。それが変化して現在では約二万種類以上に増えました。そのなかには明治以後に創作された新紋も含まれます。家紋は原則として父から子に相続され、分家の際にだけ形を変えました。しかし、その場合も本家の家紋に丸などの外郭を加え、ごく僅かな変化にとどめられました。原型を尊重する配慮がなされたのです。

 

明治以後の新紋はそのルールを無視した家紋です。一見して複雑なものが多く、夫婦の実家の家紋を合体させたり、またそれまでにない素材(カエルや琵琶など)を用いたりするものもありました。

 

【家紋の基礎知識3】名字との関係

家紋は「名字を絵で描いたもの」と言われます。それは家紋がルーツを選択する決め手になるからです。たとえば佐藤氏は源氏車、佐々木氏は目結(めゆい)、渡辺氏は渡辺星(三つ星に一文字)を多用していて、名字が違ってもこれらの家紋を使用している家は、何らか関係があると推測されます。

 

名字調査の具体例③『高橋』を辿る

日本の代表的な名字辞典『姓氏家系大辞典』(太田亮著、角川書店)の高橋の項目を見てみましょう。まず冒頭に「現今此の氏のなき地方は、希なるべし。これ一には、高橋たる地名・天下に多きによるも」とあります。

 

次に何項目たっているか見てみましょう。1位佐藤さんの項目は58、2位鈴木さんの項目は75でした。では3位高橋さんは……

 

113項目も立っています。また、佐藤さん鈴木さんは項目数こそ多いもののそのルーツは、佐藤さんはやはり藤原氏、鈴木さんは穂積に行き当たるものが大半です。

 

しかし高橋さんの項目は1~6までは物部氏、8で高橋臣(「安部氏の族にして~」と記述)、16で高橋忌寸(「秦氏の族にして~」と記述)、20で紀姓、22で橘姓、25で河内天武帝永裔、29で伊勢の源姓、32で藤原北家大森氏族、35で藤原南家狩野氏族、48で佐々木氏族、そして110で清和源氏頼光流と、実に多彩です。

 

では、現代の高橋さんが自分のルーツを探るとき。いったいどうすればいいのでしょうか。ここで重要になるのが、地域と家紋です。

 

まずは、できる限りさかのぼった先祖の住んだ地。これは戸籍でギリギリ江戸末期に住んだ地まで探ることが可能です。たとえば「自分の先祖は三重県に住んでいた」となると「29 伊勢の源姓」が候補に入ります。

 

29の「伊勢の源姓」を読むと、「伊勢の源姓 神宮祠官に高橋氏あり。喜早条を見よ。清和源氏武田氏族という」とあります。

 

多彩なルーツの高橋姓は古くから各地に勢力を伸ばしているので、喜早条の項も見ると「伊勢外宮の社家の一にして」「-武田信虎-信繁-信知(望月、後に吉田)-忠知(望月、後に吉田)-知勝(髙橋と改む)」という記述があります。

 

武田信虎は、かの有名な武田信玄の父です。すなわち、「清和源氏から発祥した武田氏の一族が伊勢で高橋を名乗った」ということなのです。

 

では先の「自分の先祖は三重県に住んでいた」という高橋さんがこの家系につながるかというと、候補ではありますが決め手に欠けます。

 

次に家紋を見てみましょう。たとえば、先の例の三重の高橋さんが「自分は高橋という名字なのに、なぜか家の家紋は代々武田信玄のよく使う武田菱なんだよな」などと、悩んでいたのであれば話は早いです。つながる可能性があるかもしれません。

 

これはあくまでも例なので、毎回こんなにうまくルーツ候補が絞れるとは限りません。しかし自分の名字の発祥が日本全国でどれくらいあるかをざっくりでも把握し、家紋の使用傾向も把握して検証してみると、自分のルーツが見えてくるかもしれません。

 

逆に、「地域でも家紋でもピンとこないなあ」とか「そもそも家紋がわからない……」ということもあるかもしれません。そんな時は1つ1つわかっていることとわかっていないことを把握し、自分の家紋を調べてみたり、各県の名字辞典等でさらに詳しい名字の流れを把握してみたりと、何かしら方法を探してみましょう。

 

名字を愛し家紋を大切にしてきた先人が手掛かりを残してくれていることに感謝しながら調べると楽しいかもしれません。

 

家系図作成代行センター株式会社代表
行政書士

北海道釧路市生まれ。行政書士として開業当初、たまたま家系図作成という業務があることを知る。興味から自分の戸籍を取って家系図を作ってみたところ、意外な手続きの面倒さ、古い戸籍の文字を読む難しさを知り、以後、専門業務として扱う。

著者紹介

連載自分のルーツを辿る「名字の世界」

※「苗字」「名字」と二通りの呼び方がありますが、本記事では「名字」に統一いたします。

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