自ら学び、自ら人生を切り開くことが求められる時代。本当に必要な子育てとは、「教える」「褒める」「叱る」といったことではなく、子供の「やる気のスイッチ」を入れることが大切だ。本記事は、ヨコミネ式教育法について紹介した書籍『ヨコミネ式 子供の才能を伸ばす4つのスイッチ』(横峯吉文著、日本文芸社)をもとに作成したものである。

2歳から6歳までのヨコミネ式教育法

「すべての子供は天才である。ダメな子なんて一人もいない」をモットーに、将来子供が自律的な人間となることを目的とする、「ヨコミネ式」教育法。「読み・書き・計算」の自学自習をベースとしたオリジナルのスタイルをもち、「どんな子供でも勉強が大好きになる」「すべての子供のすべての夢を叶える」教育法として、その基礎は40年前に作られた。いまや全国で400園以上の保育園・幼稚園が採り入れているカリキュラムである。

 

ヨコミネ式が取り組んでいるのは、「教える」ことを極力減らしたうえで楽しく遊び感覚で学んでもらえるような「仕掛けづくり」のみである。この仕掛けが子供たちのやる気スイッチを押し、スイッチが入れば子供は勝手に伸びていく。

 

横峯氏が発見した子供がやる気になるスイッチとは、

 

1 子供は競争したがる

2 子供は真似をしたがる

3 子供はちょっとだけ難しいことをしたがる

4 子供は認められたがる

 

の4つである。

 

子供の能力は大人が想像するレベルよりはるかに高い。特に2~3歳児の学習能力は極めて高く、親に教わることなく何でもできるようになる。

 

本当に必要な子育てとは、「教える」「褒める」「叱る」といったことではなく、子供の「やる気のスイッチ」を入れることである。まずは「この子は、何をしているとき‎に楽しそうか」「この子は、どうやったら楽しく学習してくれそうか」ということを観察してほしい。

就学前までに身につけさせるべき、4つの能力とは?

「この漢字は小学一年生で学ぶもの」「九九は小学二年生で学ぶもの」という学習指導要領は、大人が勝手に決めたものに過ぎない。実際、園児たちに漢字や九九を学習させてみると、あっという間に覚えてしまう。

 

大切なのは「子供一人ひとりのレベルに合った課題」を与えることである。無理にやらせることなく、子供達が「知りたい」「学びたい」「楽しい」と思える範囲で学ばせることで、やる気のスイッチが入り、自ら興味を持ってどんどん学んでいく「自学自習の習慣」が身につくのである。

 

しかし、小学校の先生はカリキュラムに従って授業を進めるため、生徒一人ひとりに合わせた指導は行われず、落ちこぼれた子に差しのべられる手は少ない。できないことを強いられ続けると、子供は伸びることなく、ただ勉強嫌いになってしまう。


小学校をあてにせず、何でも覚えられる時期から、無理のない範囲で学習させてあげることが必要だ。

 

そこで、子供の就学を見据え、幼児期のうちに身につけさせるべき学力や習慣は、次の4点である。
 

①イスに4時間座っていられること

②五十音をマスターし、本をすらすら読めること

③簡単な作文を書けること

④簡単な計算ができること

幼稚園・保育園の教育が、子供を「問題児」にする

幼児期の家庭教育を考えるときには、まず小学校がどういうところか知っておくことが重要であり、これが家庭教育を始めるときの大前提となる。

 

小学校に入れば当然授業があり、子供たちは机に向かい、集中することを求められる。ところがしばしば、落ち着いて座ることができず、教室内をうろうろと歩き回ってしまう子供がいる。いわゆる「小1プロブレム」とよばれる問題である。

 

これには幼児教育と小学校教育の間にある「ギャップ」が起因する。さらに言えば、この問題は、子供たち自身ではなく、大人が引き起こしているものである。

 

小学校に入れば、1日4時間ほど、机に向かってじっと座ることを求められる。しかし、現在の幼稚園・保育園では、机もおかず、フローリングやカーペットを敷いた教室の床でただ遊ばせているところばかりである。幼稚園・保育園時代はイスに座ることなく、机に向かうこともなく、気の向くまま1日中自由に歩き回ることができたのに、小学校に入った途端、机の前に4時間も座りつづけなくてはならない…。

 

このような急激な変化に対し、子供たちが簡単に順応できるはずがない。従って、いわゆる「小1プロブレム」は当然の帰結であり、「児童による問題行動」と捉えるのは誤りである。

2歳児になったら「イスに座る練習」を開始

とはいえ、机の前に合計4時間じっと座っていられる習慣をつけてあげないと、「1年生のスタートライン」に立つことさえできないというのが現状である。

 

では、いかに習慣をつければよいのか。家庭教育では、子供が2歳になったら、母親の目の前でイスに座らせ、ブロックや粘土で遊ばせてあげるとよい。

 

ヨコミネ式の考案者・横峯吉文氏が運営する園では、2歳児からイスに座る練習を始め、3歳までにイスに座る習慣をつける。

 

2歳児にはフローリングで遊ばせることもあるが、横には机とイスを置いてある。先生が机の上にブロックや粘土を置くと、子供たちはイスに座ってブロックや粘土遊びに夢中になる。また、先生は途中で「ちょっとこっちにおいで」と声をかけて呼び寄せ、2歳児に体を動かす遊びをやらせて、大喜びさせる。その後「じゃあ、またあっちで粘土をやってね」というと、子供は再びイスに座って粘土に熱中する。

 

このように、2歳児には、時々体を動かして楽しませつつ、遊ぶ過程でイスを使わせ、少しずつ座ることに慣れさせていく。

 

3歳児になれば、イスに座りながら集中して遊ぶということに慣れているため、フローリング上では遊ばせない。毎日イスに座らせ、今度はブロックや粘土のかわりに「紙」と「鉛筆」のみを握らせる。すると子供たちは楽しんで塗り絵や文字を書き、「机で作業する」ことを覚えていく。

 

4、5歳児になると、皆あたりまえのように机に向かって勉強できるようになるため、小学校に入っても苦痛なくイスに座り続けることができる。

就学前の「ひらがな・カタカナのマスター」は絶対条件

次に、ひらがな、カタカナの五十音(46音)のマスターについてである。

 

昔と比べ、現在の小学校のカリキュラムは易しくなっていると言われるものの、「文字を使って授業をする場所」であることは変わらない。ひらがな・カタカナの五十音ができない状態で入学させた場合、子供は間違いなく学校嫌いになってしまう。

 

文字をマスターしていなければ、教科書を見てもさっぱり意味がわからず、1年生の段階で勉強が嫌いになる。「小学校に入るときには、ひらがなで自分の名前さえ書ければいい」などというのは、子の苦痛を考えない親が言うきれい事に過ぎない。

 

きちんと学習させてあげれば、どんな子でもマスターできる。就学前にひらがな、カタカナの五十音(46音)のすべてを読み書きできるようにしておくことは、絶対条件である。

2歳児にとって、文字は楽しい「お絵描き」

2歳になるまでは、親が本の読み聞かせをする。感情を込めて読み聞かせることで、子供の情感は豊かになる。読み聞かせをする本は「ひらがな」や「カタカナ」だけで書かれた易しいものを選び、読むときは文字を1つずつ指でさしながら、声に出して読む。簡単そうな文字を1文字ずつ見せながら読み聞かせることで、子供に文字への関心を促す。

 

絵本のほか、手作りの文字カードを作ってあげても良い。カード1枚につき文字を1つ充てたものを、毎日、食事の前に5分ずつ見て遊んでもらう。文字に興味を持ってもらうことが目的であるため、この段階では文字を読めなくとも問題ない。

 

しかし、いつまでも読み聞かせをしていると、子供に「受け身」の姿勢がついてしまい、自分自身で読む気持ちが育たない。2歳になったら、絵本の読み聞かせをやめ、少しずつ文字を覚える段階に移る。

 

2歳児であれば十分に文字を覚えられる。実際、ヨコミネ式の園では2歳児クラスの途中から文字の勉強を始め、卒園時には全員が小学校二年生までの漢字を習得している。

 

文字の勉強といっても、2歳児にとっては「お絵かき」の感覚に近い。よって、楽しく文字を覚えてもらうことができるのだ。

 

まず親が、ます目で仕切られた文字練習帳の上に、薄い色のサインペンを用いて、「一」という字の見本を5つほど書く。次に、子供に鉛筆の持ち方を教え、見本の文字を書き順どおりになぞらせる。「上手だね」などと声を掛けつつ、すべての見本をなぞらせたら、見本のないところに子供自身の力で「一」と書かせてみる。

 

「一」という文字は、大人にとっては横棒を引くだけで書き上がる簡単な文字に思えるが、2、3歳の子供にとっては非常に難しい。脳の中に「線を引く回路」ができていないため、文字の線が大きく波打ったり、練習帳の枠から大きくはみ出たりしてしまう。

 

仕上がり具合に関わらず、5回なぞったら、その日の練習は終わりにする。

 

たくさんやらせるほどよいと考える親もいるが、子供の学びにおいて大事なことは、「やりたくない」という気持ちにさせないことである。無理やり書かせることなく、「子供が嫌にならない量」をお絵描き感覚で楽しく練習してもらえば、自ら取り組むようになる。

 

子供によっては、1文字につき5回程度でも嫌になることがあるが、その場合は3回に減らしても問題ない。子供を観察し、必ず子供の状態に合わせて調節することが大切だ。また、文字によって練習量を変える工夫も必要である。「あ」や「む」等の曲線が多い文字は難しいため、1文字につき3回にするというのもよい。「できない」ことを「無理やり」させる事態にならないよう、とにかく「子供の楽しめる範囲内」で練習させることだ。

焦らず急かさず、「自分でできた!」という瞬間を待つ

子供によっては、横棒の「一」ができるようになるまで、何か月もかかることがある。しかし、時間はかかっても必ずできるようになるため、親は焦ってはいけない。

 

親が手本を書き、手本を数回なぞらせ、最後に自力で書かせてみるという作業を毎日繰り返すことで、脳内に文字を書く回路が形成され、文字を書けるようになっていく。

 

親が取るべき行動は、すぐにできるように「させる」ことではなく、子供が「できた!」という瞬間をじっくり待つことである。子供が楽しくやった上で、「自分の力でできた」と思えることが何よりも大事なのである。

 

子供をやる気にするスイッチの「2 子供は真似をしたがる」で紹介したように、子供は真似をすることが大好きである。親が書いたものを真似するうちに上手に書けるようになる子もいる。生まれて初めて文字を書いたときや子供が上手に書けたときは、「すごいね」「上手だね」と思い切り褒めてあげるとよい。但し、毎度褒めていると子供が慣れてしまい、嬉しさが薄れてしまうため、時々褒めるという程度にとどめておき、その代わり必ず1回ずつ「認める」ことにする。「はい、できた」「よし」等の簡単な言葉でよい。これはスイッチ4の「子供は認められたがる」に応えるものである。

 

「一」を書けるようになると、子供はだんだん飽きてくるので、スイッチ3の「子供はちょっとだけ難しいことをしたがる」という特徴を生かし、少しレベルアップして縦棒の「│」を書かせてみる。

 

「一」が書ける子供でも、縦棒の「│」や、横棒と縦線を交差させた「十」を書くことは難しい一方、「ニ」を書くほうが挑戦しやすいということもある。五十音順やヨコミネ式95音等の「学ぶ順番」にとらわれることなく、子供自身のレベルに合わせて柔軟に進めてほしい。

 

 

参考文献:『ヨコミネ式 子供の才能を伸ばす4つのスイッチ』(横峯吉文著、2019年8月、日本文芸社)

 

※本記事は、著作権者の了解を得て作成しています。

 

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