誰でも一度は経験するであろう相続。しかし、「争続」の言葉が表すように、相続に関連したトラブルは尽きない。なかには、生前の対策によっては避けられたであろうトラブルも多く、相続を見越した行動が求められる。本記事では、行政書士事務所に寄せられた相談事例を紹介する。

亡くなった母は、生前に遺言書を残していたが…

ご相談者は、お母様が亡くなったことで、遺産相続を行わなければなりませんでした。そこで、対象遺産を確認すると、空き家となってしまっている実家の名義が亡きお父様の名義のままであり、何とかしなければならない状況でした。

 

さらに状況は複雑で、ご相談者の弟(二男)さんは、もう10年近く所在不明であり、住民票も消除されていて、完全な行方不明者となっているということでした。

 

加えて、お母様は二男のことがあるからか、ご生前に自筆で遺言書を残しておられましたが、これの内容が不完全なものでした。

 

手書きで「自分の有する貯金、債券を長男、三男に半分ずつ相続させる」としか書いておらず、それ以外に何も書かれていませんでした。遺言書の要件は満たしていましたが、内容的に遺言書だけでは手続きできない財産が発生することが予測されました。

 

遺言書の要件は満たしていたが…
遺言書の要件は満たしていたが…

 

そのような状況で、どの順番で何をすればいいか全くわからず、筆者のところにご相談された次第でした。

 

●被相続人:母親、父親

●相続人 :依頼者(長男)、他弟2人(うち1人は行方不明)

●対象遺産:不動産(実家)、預貯金、国債、投資信託、県民共済等

 

まず、弟さんが本当に行方不明なのか、現在の戸籍謄本、戸籍の附票(住民票の記録)を取得して確認を取りました。すると確かに、弟さんは10年近く前から住民票がどこにもない状態であることがわかりました。

 

このように、相続人のなかに行方不明者がいる場合は、家庭裁判所で不在者財産管理人(いわば行方不明者の代理人)の選任を行い、この財産管理人が家裁の許可を得れば、本人に代わって相続書類に署名・押印することができます。

遺言書での払い戻しの障壁となった「貯金」の文言

しかし、家裁に申し立てをする前に、まず遺言書の効力がどこまで及ぶのかを確認しなければなりませんでした。

 

そこで、そのためにお母様の遺言書の検認申立を行いました。その後、各銀行にて遺言書に基づいて執行手続きを行いましたが、やはり恐れていたとおり、この遺言書で手続きができない遺産が発生しました。

 

遺言書の文言が「貯金」となっていたため、一部の銀行は遺言書での払い戻しを拒否してきたのです。遺言書に「預金」と書いていないというのがその理由でした。「貯金」と呼称するのはゆうちょ銀行と農協ぐらいですから、「貯金」と書いてある以上、当銀行の「預金」は遺言書の内容に含まれないと考えられるというのが一部銀行の言い分でした。 この遺言書で手続きを受け付けてくれた銀行もありましたが、各銀行内部の判断になるため、これは仕方がないことといえます。

 

また同様に、遺言書には「債券」としか書いてないため、国債はこの遺言書で手続きを受け付けるが、投資信託は手続きできないという回答をしてきた銀行もありました。国債は国庫「債券」ですが、株式や投資信託は「有価証券」であるから「債券」ではないというのがその理由でした。

 

実はこういったことは、我々専門家が関与していない手書きの遺言書ではときどき起きるトラブルです。遺言書の書き方、書くときの言葉の選択は本当に重要なのです。

 

その後、この遺言書で手続きができなかった遺産の相続手続をするために、不在者財産管理人の選任申立を家庭裁判所に行いました。当センター代表の行政書士がこれに就任し、お父様、お母様それぞれの遺産分割協議について、手続書類に署名・押印をする許可を家庭裁判所から受け、無事手続きを行うことができました。

 

一番厄介だったのは、県民共済の共済金、返戻金の手続きでした。共済契約は、保険契約の一種となります。そのため、財産管理人として、この共済金等の受取手続書類に署名・押印するには、遺産分割協議とは別の許可を家庭裁判所で受けなければならず、かなりの時間を要しました。

 

ただ時間はかかりましたが、弟さんは行方不明のままで、無事一切の手続きを終わらせることができました。その後、空き家となっていた不動産も処分することができたそうです。

 

 

細野 大樹

行政書士法人TRUST 代表

行政書士・宅地建物取引士

 

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