誰でも一度は経験するであろう相続。しかし、「争続」の言葉が表すように、相続に関連したトラブルは尽きない。なかには、生前の対策によっては避けられたであろうトラブルも多く、相続を見越した行動が求められる。本記事では、行政書士事務所に寄せられた相談事例を紹介する。

後妻の子供から「父親が亡くなった」と連絡が

依頼者は日光市の女性で、仕事帰りのファミレスで待ち合わせしてご相談のうえ、依頼をお受けしました。一度別の弁護士に依頼して途中キャンセルしたことがあり、今回が再依頼とのことでした。

 

●被相続人:父親

●相続人:依頼者(二女)、他長女、養女4人

●対象遺産:土地、建物(ご実家)、預貯金、保険等

 

依頼者は、被相続人の前妻の子供にあたる方でした。被相続人は、依頼者の母親と離婚されたのちに再婚し、後妻の子供4人を養女にされました。その後、後妻が亡くなり、次に被相続人が亡くなったため、前妻の子供である依頼者に養女の1人から電話で相続のご連絡があり、初めて相続の発生を知ったとのことでした。

 

聞くと、養女4人は家庭裁判所で相続放棄をなさった旨の連絡があったとのことで、本来であれば、共同相続人外になるため関係ありません。しかしこのケースでは、単純に関係がないでは見過ごせない問題がいくつかありました。

 

依頼者の父親は、事故で身体に障がいがあり、労災等もあったため高級外車などを所有していたそうです。しかし相続発生の連絡を受けて彼女が久しぶりに実家に行くと、この車がなくなっており、養女の誰かが処分したものと思われました。電話があったのみで、養女4人の現住所はまったくわからない状態です。そのうえ、被相続人の預貯金等、遺産が何があるのかも全然わからない状況でした。

 

そこで、これらの問題を解決したいと思い、東京のある弁護士事務所に、遺産調査等及び相続手続きを依頼したそうです。しかし、その弁護士の遺産調査の報告書があまりに簡素で信用ができず、依頼をキャンセルし、筆者の事務所へ再依頼をされたという経緯がありました。

 

消えた高級外車はどこへ…?
消えた高級外車はどこへ…?

「相続放棄」の真偽でさえ不明な状況

依頼者は、養女4人が相続放棄をしたことを電話で伝えられたのみで、ご相談の時点ではこれが事実かどうかも不明な状態でした。前任の弁護士はこの調査を行っていなかったのです。

 

そこでまず、戸籍謄本を収集して、そもそも4人が本当に養女なのか、相続人が他にいるのかを調査しました。その結果、確かに4人が被相続人の養女となっていることがわかりました。依頼者には実姉がいましたので、相続放棄がされてなければ共同相続人は6人です。

 

次に、家庭裁判所に被相続人の相続について、相続放棄を行った者がいるかの照会を行いました。すると、確かにこの4人は被相続人の死亡後3ヵ月以内に相続放棄の申述を行い、受理されていることがわかりました。家裁の事件番号も判明したため、相続放棄の証明書を4通取得しました。相続放棄により、相続人は元どおり実子2人に戻ったことになります。

 

これと同時に、周辺の金融機関すべてにあらためて被相続人の財産調査を行いました。すると、前任の弁護士が調査していなかった銀行からまとまった額の預金が見つかりました。依頼者が怪しんだとおり、確かに前任の弁護士は綿密な調査を行っていなかったようでした。ただ、これは幸いでした。前任の弁護士の調査結果ではほとんど預貯金もなく、空き家となっている今後処分できるかどうかも分からない田舎の実家だけが主だった遺産と予測していたからです。筆者の個人的な憶測では、この預金は養女4人は把握していなかったものと思われます。なぜなら遺産調査で判明したことですが、他の預貯金については生前にほとんど引き出されてしまっていたからです。

 

また、問題の高級外車については、陸運支局で自動車の登録履歴を確認したところ、被相続人の所有する自動車は、その死後2日後に養女の1人に名義変更されていることがわかりました。通常、相続放棄をした者は、被相続人の遺産を取得することができませんから、死後の名義変更は違法行為と推測されました。

 

そこで、依頼者に同行して、その外車を取得した養女に依頼者から事情を聞いてみることにしました。そこで養女の1人がしてきた話では、被相続人は生前に、養女の1人にその車を贈与する約束をしており、その話を受けて養女が被相続人の印鑑証明書などの必要書類を整えていて、この時点で贈与は成立しており、その贈与契約に従い死後に名義変更を行っただけだという説明でした。

 

亡くなる直前のことですし、贈与契約書もありませんでした。また明らかに死後に名義変更をしていますから、果たしてその説明が真実なのか疑義が残りましたが、不正の証拠もなく、これ以上のことはしなくてよいとの依頼者の意向もあり、やむなくこの高級外車の件は終了することとなりました。弁護士に依頼して争訟にすることはできたでしょうが、依頼者の意向に沿う結果となりました。

 

それから、実家内には養女4人の身の回りの品が多く残されていました。これについては、依頼者の希望により引き取りをお願いする文書を代書・郵送し、処理することができました。

 

その後は、依頼者の実姉と2人で遺産分割協議を行い、共有名義にて実家の不動産を相続することで話がまとまり、名義変更及びその他の預貯金の相続手続き、保険金の受領手続きを行いました。その後、田舎でもあり大した額にはなりませんでしたが、実家の不動産も無事売却することができました。当初はどうなるか予測できませんでしたが、すべて円満に解決することができました。

 

このケースもそうですが、前婚と後婚の相続人で交流が途切れている場合は、両者の間でトラブルになることがあります。不正な名義変更が行われていたケースもたびたび見かけますので、同じ事情を抱えた方は注意が必要です。

 

 

細野 大樹
行政書士法人TRUST 代表
行政書士・宅地建物取引士

 

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