新興国に埋もれた人的資本の解放

ピクテ投信投資顧問株式会社が、日々のマーケット情報を分析・解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報を転載したものです。

 

ポイント

 

世界の全ての新興国が、埋もれたまま殆ど活用されていない資源、即ち、人的資源を有しています。新興国債券に資金を投じる投資家は、このことに留意しておくべきだと考えます。

 

※Mary-Therese Barton/新興国債券チーム・ヘッド

 

人的資本の力の解放は、新興国経済の潜在能力を開拓するための鍵だと考えます。

 

ピクテの分析は、人的資源の改善が一国の生産性と成長性を押し上げ、信用格付けの改善をもたらすことを示唆しています。このことは、新興国債券の投資家にとって重要な意味合いを含んでいます。

 

国連の「人間開発指数(HDI)」は、2001年から2017年にかけて、指数を構成する大半の新興国に状況の改善が見られたことを示していますが、上位50%の構成国の信用格付けが平均2.1ノッチ(2.1段階)引き上げられたのに対し、下位50%の構成国は僅か0.24ノッチの引き上げに留まっています。

 

期間:2001年~2017年 ※横軸:HDI構成国のうち新興国を当該期間における評価の変化別にグループ分け ※縦軸:各グループの当該期間における格付けの変化。例)1ノッチ=A格からAA格 出所:ピクテ・グループ
[図表1]HDIの評価変化の順位別にみた、新興国の格付変化 期間:2001年~2017年
※横軸:HDI構成国のうち新興国を当該期間における評価の変化別にグループ分け
※縦軸:各グループの当該期間における格付けの変化。例)1ノッチ=A格からAA格
出所:ピクテ・グループ

 

にもかかわらず、投資家は新興国の先行きの評価に際して、測定と分析が難しいという理由で、人的資本を無視しがちでした。しかし、このような状況には変化が現れつつあります。世界銀行の「人的資本プロジェクト」ならびに国連の「人間開発指数(HDI)」や「持続可能な開発目標(SDG)」は、いずれも、新しい測定手法を開発・提供することで、人的資本に対する注目を集めています。

 

ピクテの新興国債券チームもこのような指標を投資対象国の分析の一部として用いており、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関連する分析では特に重視しています。

新興国の見通しの鍵とは?

新興国を十分に理解することは、現状、特に重要です。新興国の先行きに対する懸念の一部を払拭することにつながるからです。保護主義の高まり、遅々として進まない構造改革、「コモディティのスーパーサイクル」(2000年代を通じて高騰した国際商品の高騰局面)の終焉等は、従来型の製造業や輸出主導の経済発展を妨げるものと考えられていますが、経済成長の重要な源泉が財から情報の流れに移りつつある世界では、埋もれた人的資本が新興国に大きな可能性を提供しているのです。

 

期間:2001年~2017年 ※横軸:HDI構成国(先進国と新興国)の当該期間における評価変化のパーセンタイル順位 ※縦軸:当該期間における生産性の変化(OECD productivity data) 出所:ピクテ・グループ
[図表2]HDI評価変化の順位と生産性の関係 期間:2001年~2017年
※横軸:HDI構成国(先進国と新興国)の当該期間における評価変化のパーセンタイル順位
※縦軸:当該期間における生産性の変化(OECD productivity data)
出所:ピクテ・グループ

 

このことは、新興国の人材投資が極めて重要であることの理由であり、ピクテの新興国債券チームが各国の政策立案者とのミーティングの場で、「人的資本」を、必ず、議題に載せることとしている理由です。チームは、知見の新たな源泉を探すことで、従来型の新興国投資の精査の手法を一歩先へ進めています。

人的資源の理解、そして開発へ

概念としての人的資本の歴史は、近代経済学の歴史に匹敵します。18世紀を代表する哲学者で経済学者だったアダム・スミスは、人的資本を「すべての住民あるいは社会の構成メンバーが、努力を通じて獲得した有益な能力である」と説明しています。近年では、2018年のノーベル経済学賞が、人的資本とイノベーションを経済成長理論の中核に置いた研究を行ったポール・ローマー教授(スタンフォード大学)に授与されています。

 

議論の焦点は、経済成長にとっての人的資本の重要性から、人的資本が一国の成長にどのような影響を及ぼすのかに移っています。社会が、あらゆる人々を受け入れ、持続的な発展につながる道を辿って行けるかどうかが問題なのです。

 

新興国の人的資本の発展について全容を把握することとは、従来型の投資家にとっては馴染みのある政府や企業との関りを越えた先にあるものだと考えます。政府高官や企業役員とのありきたりのミーティングのために、快適なホテルと冷房の効いた会議室を往復するだけでは足りないということです。

 

ピクテの新興国債券チームが地に足の着いた視点を持って投資対象国の社会的、経済的発展を見るための手段の一つとしているのが、新興国の若者に焦点を当てた革新的な慈善活動を展開し、現地の尊敬を集めている「EMパワー」との連携関係です。主要な地域や国の「EMパワー」の運営責任者との接触が現場の視点を提供し、連携がなかったとしたら不可能だった出会いを可能にしてくれます。

 

「EMパワー」の活動の一例が、南アフリカのマメラニ・プロジェクトです。当プロジェクトは、その多くが孤児あるいはAIDS感染者として施設で育ったケープタウンの多数のホームレスの若者達を支援するために、地域の若い活動家達によって設立されました。

 

ピクテの新興国債券チームのインベストメント・マネージャーの一人であるロバート・シンプソンは、「EMパワー」との連携を通じて、マメラニ・プロジェクトのディレクターを務めるジェラルド・ジェイコブ氏を訪ね、親身溢れる精神面の支援と、教育および(恵まれない若者が独自の支援ネットワークを構築する際の支援を含む)ライフスキルの習得とを統合した、現地の若者の人的資本を構築するための総合的なアプローチを実際に確認してきました。

 

シンプソンは、南アフリカが抱える喫緊の財政上の課題と長期成長の源泉の保護との均衡を図る最善の方法を巡って政府高官と議論した際に、「(ジェイコブ氏と時間を共有したことが)とても役立ちました」と述べています。

 

新興国債券チームの他のメンバーも、「EMパワー」が支援するブラジルやアルゼンチンの慈善団体を訪ねていますが、いずれのミーティングからも投資対象国の分析に資する豊富な知見が得られています。

 

このような知見は、人的資本の開発に影響力を持つ政策担当者や企業幹部とのミーティングの場で、チーム・メンバーが、より多くの情報に基づき、焦点を明確に定めた議論を行うことを可能にします。正しいメッセージを伝えることは、結局のところ、新興国の国民の利益になるのです。一方、運用会社にとっては、投資家から預かった資金のよりよい運用者かつ管理者となることを助けるものとなり、ひいては、長期の投資リターンの改善をもたらすことに繋がると考えます。

 

 

※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。

 

当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『新興国に埋もれた人的資本の解放』を参照)。

 

 

(2019年11月13日)

 

 

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

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