増税よりも「支出のカットと減税」を
ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。2019年3月に、世界三大投資家の1人で、冒険投資家としても有名なジム・ロジャーズ氏のシンガポールの自宅に伺ってインタビューをし、書籍『日本への警告』の監修をしました。
そのインタビューのなかで、ロジャーズ氏は、10月から開始した日本の消費増税は「クレイジー」だと語っていました。
「もし私が日本の首相になり、国のトップとしての責任を果たそうとするなら、何はともあれ支出の削減に取り組む。それも、斧ではなく、チェーンソーで大木を切り倒すような気持ちで無駄な支出を削るだろう」
一般家庭で家計収支が赤字になった場合、まずは支出の見直しを考え、収支をトントンにしようとするはずです。しかし、日本の支出は増える一方で、プライマリーバランス(基礎的財政収支)はなかなか黒字になりません。
「すでに問題を抱えている日本において、防衛費をはじめとする支出を削減することもなく、さらに増税を実施するのであれば、日本人は子どもを増やそうとする気をますますなくしてしまうだろう。これが行き着く先は国の破綻だ」
ロジャーズ氏は続けます。
「あなたのお金をどうすべきか知っているのは誰だろうか。安倍首相のほうがよくわかっていると思うだろうか。
もちろん、そんなことはない。自分のお金をどうすべきかを一番知っているのは、いつだって自分自身なのだ。
日本人が自らお金の使いみちを決められるようにするためにも、日本政府は国の支出を大胆に削減し、減税を実施して日本人の活力を高めなくてはならない」
複雑化する「軽減税率」と「ポイント還元制度」
消費税は所得の多寡に関わらず同じ税率をかけるため、低所得者の負担が増えがちです。そのため、飲食料品や一定の新聞などは軽減税率で8%となります。ただし、テイクアウトや宅配等は8%ですが、酒類や外食やケータリング等(一部を除く)は10%になるなど複雑です。
また、消費税10%増税に伴い、「ポイント還元制度」が始まりました(2020年6月までの期間限定)。キャッシュレス決済にすると、中小の店舗では5%、フランチャイズの加盟店では2%、大企業の店舗では還元なしの3種類が混在していて、こちらも分かりにくいです。
ややトリッキーで、キャッシュレスにすることによって、増税後のほうがおトクになる場合もあるのです。軽減税率の対象のものがキャッシュレスで5%還元になる場合、実質的な負担は3%になるからです。
増税を機に進む「キャッシュレス化と納税番号管理」
また、政府はマイナンバーカードの普及に向けた具体策を示しました。10月の消費税増税に伴い、2020年度に導入するポイント制度は、全国共通のしくみとなり、カードに貯めた電子マネーなどを使って買い物をすると、国からポイント還元が受けられるかたちにする予定です。
筆者が住んでいるシンガポールでも、納税番号で管理されていますが、あくまでも納税の管理に使われており、それでポイントが貯まったりはしません。そのため、このニュースを聞いてトリッキーに感じました。
消費増税を機に、キャッシュレス化と納税番号の管理など一気に行ってしまおうという意図がクレイジーに感じてしまうのです。お金の用途が政府に把握されるのではないか、と気持ち悪く感じる富裕層も多いようです。
「何のための増税?」と思われないため、また外国人投資家からの評価をあげるためにも、そもそもの目的である「財政の見直し」は急務といえそうです。
他の国と比べ、キャッシュレス化や納税番号管理が遅れをとっているため、今回の増税と同時に促進させようとのことですが、同時に色んなことを進めすぎて混乱も起こり得ます。消費者としては、しっかりとカード明細や家計簿を確認して、家計がマイナスにならないよう注意していきましょう。
花輪 陽子
ファイナンシャル・プランナー