法律の噂…「現行犯でなければ捕まらない」犯罪は存在するか?

世の中には、法律にまつわる「まことしやかな噂」が多く存在します。正しい法知識を持たずにいたばかりに、被害を受けても泣き寝入りしてしまったり、あるいは頭から罪にならないと思い込み、いつの間にか法を犯してしまうケースもあるのです。本記事では、「現行犯以外は捕まらない」との噂がある犯罪行為について、弁護士が正しい法的解釈を用いて解説します。

「現行犯以外は逮捕されない」という犯罪はない

盗撮事件の多くは、盗撮された被害者や周囲の目撃者が犯人を取り押さえたり、すぐに警察に通報したりといった経緯で発覚します。

 

この流れとよく似た経緯で発覚する事件に『万引き』がありますが、万引きを繰り返す人には「現行犯以外では逮捕されない」といった意識があるようです。

 

盗撮を繰り返す人の中にも「現行犯以外では逮捕どころか発覚もしないだろう」と考えている方がいますが、果たしてそれは本当なのでしょうか? 「盗撮は現行犯以外では逮捕されない」という噂の真相に迫っていきます。

 

とても大切なことなので、まず結論からお話しましょう。盗撮事件では、現行犯以外でも逮捕されることがあります。

 

「現行犯じゃないと逮捕されない」といった間違った意識で盗撮を繰り返していると、どんなに上手に盗撮をしていてもいつの日か警察に逮捕されてしまう時が訪れるでしょう。

 

もし、これまでに盗撮をしたことがあり、誰にもばれなかったからといって調子に乗って盗撮を繰り返しているのであれば、今日や明日にでも逮捕されてしまうおそれがあります。

 

盗撮と似た流れで発覚する事件として万引きを例に挙げましたが、万引き、つまり窃盗罪も「現行犯以外では逮捕されない」というわけではありません。

 

そもそも、現行犯以外は逮捕の対象にならないといった規定がある犯罪は存在しないのです。

 

たしかに、盗撮や万引きは犯行のその瞬間に取り押さえられない限り、あとでどうとでも言い訳ができそうな気がしてしまうでしょう。しかし、逃走した万引き犯が後日になって逮捕されたというケースは実際に存在しています。

 

盗撮も同様で、現行犯ではなくても逮捕の危険は十分にあります。「現行犯以外は逮捕されない」のではなく、単に「現行犯のほうが証拠が明らかだ」というだけなので、誤解をしている方はまずその根拠のない安心感を捨て去る必要があるでしょう。

盗撮容疑で逮捕される「3つのパターン」

盗撮容疑で逮捕される場合、3つのパターンが考えられます。

 

●現行犯としてその場で逮捕されるパターン=現行犯逮捕

●逮捕状に基づいて後日逮捕されるパターン=通常逮捕

緊急逮捕されるパターン

 

では、それぞれのパターンについて、どのような流れで逮捕されるのかを解説しましょう。

 

 現行犯としてその場で逮捕されるパターン 

 

現行犯逮捕とは、刑事訴訟法第212条の規定によって「現に罪をおこない、または現に罪をおこない終わった者」と「罪をおこない終わって間がないと明らかに認められる者」が対象となります。

 

盗撮をしている最中や、盗撮を終えてその場を立ち去ろうとしたところで発覚すれば、明らかに現行犯逮捕の要件を満たしています。

 

また「罪をおこない終わって間がない」とは、次のようなケースを指します。

 

・被害者や目撃者が「盗撮犯だ!」などと大声を出しながら後を追いかけている場合

・盗撮に使用したスマートフォンなどを所持している場合

・盗撮を指摘されたその場で揉み合いになり、目印となるような怪我をしている場合

・逃走中に茂みに隠れていたところ、捜索中の警察官に見つかって逃走した場合

 

これらの例は『準現行犯』と呼ばれ、現行犯人として逮捕の対象となります。盗撮事件では現行犯逮捕されるケースが圧倒的に多いといわれています。

 

最大の理由は、刑事訴訟法第213条の「現行犯人は、何人(なんぴと)でも逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」という規定にあります。現行犯逮捕は、警察官以外の一般人でも可能です。

 

被害者や目撃者によって取り押さえられたり、「あなた、盗撮していたでしょう?」と袖口を掴まえられたりしただけでも、これが現行犯逮捕とみなされます。

 

 逮捕状に基づいて後日逮捕されるパターン 

 

盗撮の現場では誰にもばれることがなかった、または盗撮が発覚してしまったが必死で逃げて逮捕を逃れたというパターンでも安心できません。

 

さまざまな証拠に基づき、裁判所が強制捜査の必要を認めれば『逮捕状』が発布されます。逮捕状があれば、警察官や検察官などの捜査員による逮捕が可能となります。

 

誰にもばれていないと思っていても、実は被害者は盗撮に気づいておりすぐに警察に駆け込んでいたかもしれません。

 

被害者の周囲にいた目撃者が「あなた、盗撮されていましたよ」と教えて警察に被害を申告した可能性もあります。

 

逮捕状に基づいた逮捕では、いつ捜査員が訪ねてきて逮捕されるかもわかりません。事件の翌日に逮捕されることがあれば、数週間後、数カ月後に後日逮捕されるケースもあります。

 

警察の捜査の進捗を知る方法はないので、不安な気持ちを抱えたまま生活を送ることになるでしょう。

 

 緊急逮捕されるパターン 

 

盗撮容疑で逮捕される主なパターンは現行犯逮捕と後日逮捕ですが、実はもうひとつ、ほかの逮捕の方法があります。

 

盗撮行為が処罰される場合、ほとんどが都道府県の迷惑防止条例違反、または軽犯罪法違反に該当します。

 

ただし、敷地や住居などへの不法な侵入が伴った場合は、刑法第130条に規定されている『住居侵入罪』または『建造物侵入罪』によって罰せられることがあります。

 

もし、これらの不法な侵入に関する罪を犯していれば、たとえ一定距離を逃げおおせて、いくらかの時間が経過していたとしても、逮捕状なしで逮捕されることがあるのです。

 

現行犯というには時間も距離も離れているし、逮捕状も持っていないのに逮捕するのは違法なのではないかという疑問を持つかもしれませんが、不法な侵入に関する罪については刑事訴訟法210条に規定されている『緊急逮捕』が適用されます。

 

現行犯逮捕、後日逮捕と比べると極々まれなケースですが「逃げるが勝ち」ではないことは知っておくべきでしょう。

後日逮捕の場合…犯人の特定に使われる「証拠」とは?

「盗撮は現行犯以外では逮捕されない」という噂は、現行犯でない限り、盗撮の証拠がみつかりにくいために流れているデマです。

 

現実に、警察は捜査によって盗撮の証拠を見つけ出し、現行犯ではなくても逮捕にやってきます。一体、警察はどんなものを証拠として収集しているのでしょうか?

 

被害者や目撃者の供述警察は、被害者や目撃者が見た状況を詳しく聴取します。被害者や目撃者の供述は『供述調書』という書類にまとめられて、作成の信用性が担保されていれば裁判所は逮捕状を発布するための材料となります。被害者や目撃者が「言っただけ」だと軽視されるものではありません。

 

供述調書に録取された内容は、そのほかのさまざまな証拠と補完しあいながら盗撮が発生したことを裏付けます。

 

また、被害者や目撃者が「いつも同じ電車に乗っているあの人だったと思う」といった曖昧な記憶に基づいた供述をした場合でも、警察官による尾行や張り込みによって容疑者として特定される可能性もあります。

 

防犯カメラなどの映像・画像の解析昨今は街のいたるところに防犯カメラが設置されています。駅や公共・企業の建物内では間違いなく防犯カメラが24時間監視を続けていると考えて良いでしょう。

 

もし盗撮の状況が動画で記録されていれば、それこそ「動かぬ証拠」となります。それどころか、ただ被害者のそばに立っていた状況が記録されているだけでも、被害者や目撃者の供述を裏付ける証拠だと評価されることもあります。

 

盗撮事件の多くは、高性能カメラを搭載したスマートフォンが使用されていますが、最近では、記録した画像や動画を自動的にインターネット上のウェブサーバーに記録する機能を搭載しているスマートフォンが販売されています。

 

もし盗撮の疑いがかけられていることを察知して、端末に保存されている盗撮画像を削除しても、ウェブサーバー上に残っているかもしれません。

 

個人が特定されていれば、スマートフォン自体を調べられなくても、通信会社に情報開示を請求し、ウェブサーバー上に記録された盗撮画像を確認することは可能です。

 

便利なツールが犯罪に使用されるようになり、犯行の手口が多様化している一方で、警察が犯行を裏付ける手法にも変化が生じているのです。

 

盗撮が「現行犯以外では逮捕されない」という噂は間違った情報です。たとえ誰にも見つかることなく盗撮が成功したと思っていても、警察の徹底した捜査によって犯人として特定され、後日の逮捕に至る可能性があります。

 

後日逮捕の不安を抱えながら生活するよりも、被害者の示談や警察への自首といった対応を講じるほうが賢明でしょう。

 

 

稲葉セントラル法律事務所

稲葉 治久 弁護士

 

稲葉セントラル法律事務所
東京弁護士会 代表弁護士

1976年茨城県生まれ。江戸川学園取手高校卒業。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。青年海外協力隊員としてアフリカ・ジンバブエでボランティア活動。関東学院大学法科大学院卒業。平成24年弁護士登録都内大手法律事務所勤務。平成28年7月より稲葉セントラル法律事務所を開設。メディアへの出演・法律監修多数。

著者紹介

連載ビジネスマンが知っておきたい身近な法律の基礎知識

本記事は、稲葉セントラル法律事務所のウェブサイトから転載したものです。

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