仕事へのモチベーションの源泉は「お金」だけなのか?
◆人が働く理由とは?
「働こう」と人が考えるとき、仕事に対して何らかのモチベーション(動機)をもっています。働く動機といえば、給料や報酬を最初に思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、モチベーションの源泉は、必ずしも「お金」とはかぎりません。
実際に、十分な資産や不労所得をもっているのにも関わらず、仕事を辞めずに働き続けている方もいます。また、スターバックスや株式会社オリエンタルランドのように、パート・アルバイトの方々が意欲的に働ける環境を作り出している企業も存在します。
経営やマネジメントに取り組むうえで、社員のモチベーションを高め、生産性を引き上げることはとても大切です。モチベーションには、代表的な区分けとして、「金銭的動機」「社会的動機」「自己実現動機」の3種類があります。「金銭的動機」は最も一般的かつ根本的であるものの、「必ずしもそれだけではない」という点を知っておくと、離職問題解決や組織風土作りに役立ちます。
●金銭的動機・・・生活に必要な金銭を得たい
●社会的動機・・・一定の価値観を共有できる集団(組織)のなかで社会生活を営み、注目や評価を受けたい
●自己実現動機・・・自己を成長させたい、社会的使命感を満たしたい
LEGO®ブロックで職員同士の相互理解を深める
◆保育士離職問題をLEGO®ブロックで解決?
一時期、「日本死ね」という言葉が話題になりましたが、現在、待機児童解消に向けた政府施策により、保育園等の施設数は5年間で約1.4倍(※1)に増加しています。施設は増えたものの、今度は保育士の数が足りず、東京都では保育士の有効求人倍率が6.44倍(※2)に達し、保育士の新規採用が非常に困難になっています。さらに待機児童問題に加え、「今日辞めても3日後には次の職場が見つかる」という状況が離職率に拍車をかけ、保育士の離職問題も深刻化してきました。どの保育事業者も採用が難しい分、離職を最小限に留めるために腐心しています。
保育士の離職理由として、「仕事量が多い」「給料が安い」等の理由が挙げられやすいのですが、東京都がまとめた保育士実態調査概要(※3)では、以下のような調査結果が報告されています。
[図表1]を見ると、「給料が安い」「仕事量が多い」「労働時間が長い」という理由に加え、「職場の人間関係」という理由が上位に挙げられていることがわかります。これらを層別すると、給料や仕事量、労働時間は、保育業界共通の課題といえる一方、「職場の人間関係」は、職場ごとの個別課題と考えることができます。
この点に着目したのが、保育事業・保育園運営事業を展開する、株式会社ディアローグ(代表取締役:井口智明、以下、ディアローグ社)です。
もともとディアローグ社では、職員の離職防止と職場力向上に向けて、知識習得やスキルアップを目的とした教育、研修に力を入れていました。同社がさらなる施策を検討するなかで、人事部長の赤松氏は、同じ労働条件であっても、保育園によって離職率に違いが生じる点に着目し、「職場の人間関係」こそが問題のカギではないかと考えました。
また、給料や仕事量、労働時間といった、保育業界共通の課題を自社単独で解決することは難しくとも、「職場の人間関係」については自社の取組みで解決が可能だと考えました。
そのような考えのもと、2019年度より、職員向けに「LEGO®SERIOUS PLAY®」というチームビルディング研修を導入しました。「LEGO®SERIOUS PLAY®」とは、実際にLEGO®ブロックを用いて行う、遊びの要素を取り入れた研修です。職員間の対話を増やし、相互理解を高めながら、ビジョンや戦略策定を行い、「社会的動機」「自己実現動機」を高めることを目的としています。まだまだ一般的でないものの、NASAやグローバル企業で採用実績が進んでいる、先進的な取組みです。
ドラッカーの名言に「できないことではなく、できることに集中しなさい」という言葉があります。実際に保育士にとっても身近なLEGO®ブロックを用いて、自分たちの力の及ぶ課題の解決に着目した点において、ディアローグ社の取組みは経営戦略のセオリーに沿っているといえます。
ディアローグ社の成果はこれからですが、参加した職員からは「自分が思っていた以上にほかの先生達が園のことをチームとして考えていることがわかったので、私もチームの一員という自覚を高めたいと思う」「テーマに対しての考え方が人それぞれ違い、個性が出ていて面白かった。それを集結させることで、より素敵な保育園になると思った」という声が挙がってます。
◆動機の種類を知ることで、よりよい職場づくりを目指す
プロ野球でもサッカーでも、必ずしも平均給与の高いチームが勝つとはかぎらず、給与の高い企業の社員たちがハイパフォーマンスを挙げているともかぎりません。冒頭でも挙げたとおり、人間は必ずしも「金銭的動機」だけで意欲を高め、力を発揮するわけではないのです。自社の置かれた環境や業界のコスト構造から、社員の「金銭的動機」を十分に満足させることができない場合も、そのほかの動機を高めれば、1人ひとりの力を引き出せると考えると、経営の可能性は拡がります。
モチベーション理論は様々なものがありますが、下記に代表的なものを3つ紹介します[図表2]。動機の種類を知り、社員の方々の動機の源泉を探ることで、よりよい職場作りに役立ててください。
※1 厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(平成30年4月1日)」資料
※2 厚生労働省「保育士確保集中取組キャンペーン(平成31年1月22日)」資料
※3 東京都「平成30年度保育士実態調査 結果の概要<中間のまとめ>(平成31年3月6日)」資料
森 琢也
MASTコンサルティング株式会社パートナー 中小企業診断士
プロフェッショナルコーチ