性格や考え方が異なる人が集まる企業やチーム。これらをまとめなければいけないリーダーの苦労は図りきれません。そこで本連載では、組織マネジメントを行う際に利用できる、心理学の基礎知識を紹介していきます。本記事では、部下のモチベーションアップについて見ていきます。

「やらされ感」をなくして「やりがい」を見出す

どうも職場がだらけているな、と感じたら、モチベーション低下のサイン。そのままでは、やる気のなさが蔓延して仕事の効率が悪くなり、生産性が大いに下がってしまうかもしれません。叱咤激励も、やり方を間違えればもっと深刻な事態に……。そこで部下のやる気スイッチをすんなり押せる「ジョブ・クラフティング」の手法を紹介していきます。

 

ジョブ・クラフティングとは、自分の仕事を見直し、意識のうえで再構築することによってモチベーションを高めてゆく手法です。現在、自分の仕事に感じている「やらされ感」をなくし、やりがいを見出すことができる方法として知られています。

 

つまり、任せられる仕事の量や質が変わらないのであれば、意識を変えてやる気を出そうという取り組みです。「そんな都合のいいことができるわけない」「そんなことをやるより転職したほうが早い」と感じる人もいるかもしれません。しかしあなたが管理職の立場なら、部下を引っ張っていくためにも、ジョブ・クラフティングは有効な手段になります。

その仕事が「自分のものだ」という手ごたえが大事

ジョブ・クラフティングが目指すのは、その仕事がまぎれもなく自分のものであるという手ごたえを見出すことです。「何のために」「どんなふうに」「誰と働くか」を再確認し、モチベーションがアップする方向へと意識付けを変えていくことで、働きがいを獲得します。1つずつ具体的に説明しましょう。

 

■「何のためにやっているか?」を再確認する

仕事へのモチベーションが低いに人は、もしかしたら視野が狭くなっていないかと自問させる必要があります。仕事のルーティーン化、分業化が進んだ大企業であればなおさら、自分の仕事の目的を「ただ上の人に渡すだけ」「日々の業務をこなしているだけ」と捉えている危険性があるのです。

 

もちろん、ルーティーン化や分業化について見直す必要はありません。ジョブ・クラフティングにとって大事なのは、仕事ではなく意識を変えることです。「その仕事、何のためにやってるの?」を、もう一度確認してみましょう。

 

たとえば、日々の売り上げ速報をアップする仕事は、会社にとってとても意味のある仕事であり、積み重なれば会社の成長を表す要の数値となることは間違いありません。しかし、毎日「何がどのくらい売れたか」を数えるだけの仕事をしている当の本人は、仕事の意義をいつしか忘れてしまい、ミスなくこなすことだけを重視してしまっているかもしれません。

 

毎日単純作業を行って、しかもそれがどう会社に貢献しているかを見失っているとしたら、やりがいがなくなるのも理解できます。この場合に有効なのは、自分の業務の積み重ねが会社にどう影響を与えているのか目の当たりにすることです。

 

過去のデータの集積と、それに伴う会社の業績達成率や売り上げ目標の変化を確認しましょう。上司が部下に仕事の意義を気付かせたいなら、部下に資料を見せてあげながら、その仕事がいかに大事か丁寧に説明するといいでしょう。

 

■「どんなふうに行うか?」を工夫する

業務はマニュアル化してあることが主ですが、マニュアルに従って仕事を進めるだけでは、「やらされている感」は否めません。自分なりに創意工夫をして、仕事をやりやすくしたり、より効率をアップしたりすることが、モチベーションアップに役立ちます。

 

この場合に重要なのが、自分自身で自分の仕事のやり方を変えることです。他人のやり方で行う仕事は、いわば「借り物感」があります。自分のツールになりきっていないような気がしてしまいがちです。しかし、オリジナルの発想を加えてやりやすいように仕事を変えれば、仕事はぐっと身近になってきます。道具を自らの手で磨き上げていくような感覚です。

 

部下にマニュアルを押しつけすぎていませんか。工夫を歓迎し、部下にとってその仕事が「まぎれもなく自分のものだ」と感じられるように促しましょう。社員それぞれの強み、特技を活かした手法でアレンジし、生産効率性が上がれば、本人にとっても会社にとってもメリットがあります。

 

■「誰と働いているか?」を再確認する

一人ひとりにパソコンが与えられ、インターネットを介して仕事を行うことが当たり前になった現代では、個業化が進んでいます。そのおかげでテレワークなども可能になり、便利な側面もあります。しかし、自分一人でモチベーションをアップさせるのは相当難しいですよね。たとえ大勢の社員に囲まれて仕事をしていたとしても、基本的に一人でする仕事が多ければ、やる気を創出するのも自分の仕事になってしまいます。つまり個業が多くなっている部下ほど、モチベーションの低下が心配なのです。

 

意識的にコミュニケーションの頻度を上げ、「誰と仕事をしているのか」を再確認してもらいましょう。意思疎通を図るのは、直接自分の仕事にかかわっている上司や部下、チームの人たちだけとは限りません。お掃除をしてくださるスタッフに、声をかけたことはありますか? 職場で出会うあらゆる人とつながることで、自分の立ち位置をもう一度見直すことが重要です。きっとかけがえのない自分の役割を見いだしてくるはずです。

部下への指導のなかで「自分自身」にも問いかけを

このように、ジョブ・クラフティングの手法を部下にすすめることこそが、上司自身のモチベーションを上げることにもつながります。自然と自分自身にも問いかけをするようになりますし、部下の仕事に一つひとつ新しい意識づけを行うことで、自分の意識も刷新できるからです。

 

部下のやる気スイッチを押せば、自然と上司のスイッチも押されて一石二鳥という話。ジョブ・クラフティングは、それまでの仕事のやり方を変えることなく、意識づけを変えるだけで済むため、コストもかからないお得な手法です。

 

参考:『スタンフォードの心理学講義 人生がうまくいくシンプルなルール』(日経BP社)

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