純資産総額45億円を割り込むと、繰上償還リスクが…
資金流出が続いているアクティブファンドもダメですが、純資産総額の規模があまりにも小さいアクティブファンドも避けたほうがいいでしょう。純資産総額が小さいことの問題は3つあります。
1つ目は、繰上償還リスクが高まることです。一般的には、受益権口数が30億口を割り込むと、繰上償還するかどうかが協議されます。1万口あたりの基準価額が1万5000円だとしたら、純資産総額で45億円です。これを割り込むと、繰上償還のリスクが高まるのです。
ですから、購入する際に現在の受益権口数をチェックして、たとえば繰上償還条項が「30億口を割り込んだ場合」となっていれば、余裕を持たせて100億口くらいあるファンドを選んだほうが無難でしょう。
ただ、問題がひとつだけあります。個人がインターネットを通じて入手できる投資信託のデータは、基準価額と純資産総額、あとは組入上位銘柄などに限られています。受益権口数も公表されているケースがあるようですが、基本的にリアルタイムではわかりません。ですから、受益権口数を把握する場合は、自分で計算する必要があります。
といっても、それほどむずかしいものではありません。大半のファンドは、基準価額を1万口あたりで表示していますから、これを1口あたりの基準価額に計算し直し、出てきた数字で純資産総額を割ればよいのです。
たとえば、1万口あたりの基準価額が1万5000円だとしたら、1口あたりの基準価額は、1万5000円を1万で割り、1.5円になります。一方、純資産総額が90億円だとしたら、これを1.5円で割ることによって、60億口という受益権口数が算出されます。ちなみに直近の基準価額と純資産総額についてはヤフーファイナンスなどからデータをとることができるので、それをエクセルなどの表計算ソフトに入れて管理してもいいでしょう。
満足のいくポートフォリオを組めなくなる恐れも
純資産総額が小さいことの2つ目の問題は、純資産総額の規模が小さいと、満足のいくポートフォリオが組めなくなる恐れがあることです。
たとえば極端な例として、純資産総額が1億円しかないようなファンドだったら、どうなるかを考えてみましょう。ファンド・オブ・ファンズ形式で運用されるファンドならば、十分にポートフォリオを組むことはできますが、株式や債券などを直接買い付けるようなアクティブファンドだと、1億円の資産規模では満足できるポートフォリオを組めない可能性があります。
それでも投資対象が株式ならば、少額ずつポートフォリオを組み立てることも可能ですが、債券の場合は投資単位がずっと大きくなるので、1億円では到底真っ当なポートフォリオにはならないでしょう。
そもそも個人投資家にとって、個別株投資に比べた投資信託のメリットは、少ない投資金額でもきちんと銘柄分散を行なうことができる点にあるのですから、銘柄分散ができていない投資信託を買うメリットはありません。
純資産総額が小さいファンドは、運用会社の赤字要因に
純資産総額が小さいことの3つ目の問題は、純資産総額が小さいファンドは投資信託運用会社にとって赤字要因になるということです。
アクティブファンドの場合、年間の運用管理費用の料率は、大体2%程度でしょう。このうち、資産を管理する信託銀行に支払うのが年0.1%だとして、残りを投資信託運用会社と販売金融機関の代行手数料として折半になると、投資信託運用会社が受け取れる運用管理費用は年0.95%になります。1億円の純資産総額であれば95万円にしかなりません。これではファンドを運用すればするほど赤字が嵩む一方です。その結果、おそらく繰上償還になるリスクが高いということです。
さらにいうと、投資信託には信託報酬とは別の隠れ費用があります。たとえば、投信運用では決算するたびに監査法人のファンド監査が義務付けられており、この費用は大概のケースでは投信の資産から支払われます。ファンド監査の大小にかかわらず数百万円かかるので、規模が小さい投信にとってはこうしたコストがファンドの資産にかかるインパクトは格段に大きくなるわけで、やはり純資産総額の規模が小さいアクティブファンドは、避けたほうが無難ということになるのです。
中野 晴啓
セゾン投信株式会社 代表取締役社長