世界経済に対する投資家のコンセンサス予想は高めの水準で推移しているものの、実際の経済指標は予想を下回る状況が継続しています。企業の利益成長率に対する投資家の見方が楽観的過ぎると考え、株式のアンダーウェイトを継続します。債券は、先進国の景気減速が想定される一方で、先進国の国債や社債市場が割高であるため、ニュートラルを維持します。
グローバル株式市場の大幅上昇
2019年4月のグローバル株式市場は力強い上昇相場となり、MSCI世界株価指数(現地通貨ベース)は過去最高値を更新しました。景気敏感株や株価の変動が市場の変動を上回るベータ値の高い銘柄が市場をけん引した結果、金融、情報技術、コミュニケーション・サービス、一般消費財・サービスの各セクターの月間騰落率は、現地通貨ベースで5~7%の上昇となりました。
これに対し、ヘルスケア・セクター、不動産セクターなどのパフォーマンスは市場を下回り、月間騰落率はマイナスに終わりました。エネルギー・セクターの月間騰落率は、原油価格が大幅上昇する中、僅か0.3%(米ドルベース)の上昇に留まりました。エネルギー・セクターと原油価格の強い相関関係が崩れた一因は、原油価格の上昇が、原油需要の拡大ではなく地政学要因にあるとの事実を反映しているのかもしれません。原油先渡し価格は、今後の原油価格の下落を示唆しています。このような状況が変わらない限り、エネルギー・セクターの大幅上昇の公算は低いと考えます。
地域別では、主要市場の大半が好調でした。月間騰落率は、欧州市場が約5%、米国市場が約4%となり、S&P500種株価指数は、堅調な個人消費統計を受けて過去最高値を更新しました。
世界の債券市場は小幅の下落となりました。主要ソブリン債市場は横這い或いはマイナスとなり、英国国債が最も大きな下げを記録しました。英国が欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)期限の再延長を勝ち取り、議会下院が「合意なき離脱」を阻止する法案を可決したことから、英国国債の月間騰落率は-1.6%となりました。
一方、社債は英国国債に比べて好調で、月間騰落率は0.5%~1.5%とプラスを維持しました。欧州、米国ともに、ハイイールド債は極めて好調でした。
米ドルの実効為替レート(複数の通貨バスケットに対する貿易加重レート)は、小幅に上昇しました。
下振れリスクは顕在
2019年4月の株式市場は、米中の貿易協議の進展と、世界の鉱工業生産の一時的な安定の兆しを一因に、大幅上昇となりました。
もっとも、年初来の騰落率が10%を超える大幅上昇は、世界経済が危機的状況を脱しきったわけではないとの事実を隠しています。
世界の経済指標は、2008年のリーマン・ショック以降最長となる14ヵ月連続で、市場のコンセンサス予想を下回っています。
世界の貿易量は、2009年以来の最低水準に留まっており、一方、先進国の企業心理は悪化が続いています。
企業の利益成長率に対する、投資家の見方は楽観的過ぎると考えます。
このような環境を勘案すると、直近の上昇相場からの一段の株価の上昇には苦戦も予想されます。従って、株式の投資評価はアンダーウェイトを維持します。一方、債券の投資評価はニュートラルを維持します。
株式:企業利益の大幅低下を予想
S&P500種株価指数は、2019年4月、企業の利益成長に対する投資家の楽観的見通しを背景に過去最高水準を更新しましたが、ピクテでは、米国株式のアンダーウェイトを維持しています。一方、新興国株式の相対的に高い利益成長見通しとバリュエーション水準に注目しています。
米国企業の純利益ベースの利益率は11.5%と、長期平均を2標準偏差上回っています。また、株式アナリストのコンセンサス予想は2021年までに12.8%と更に強気で、予想が実現すれば、長期平均からの乖離幅が3標準偏差に拡大することとなります。
もっとも、これほど強気の予想は、足元のマクロ経済環境とは相容れません。米国の実質賃金は、1970年代以降で初めて、労働生産性を上回って上昇していますが、金利コスト、インフレ率ともに上昇トレンドを形成する中、経済成長は鈍化しています。また、持続的なドル高も逆風です。
ピクテでは、企業利益率の大幅な低下が避けられないと見ています。米国国債利回り曲線(イールドカーブ)上で3ヵ月物短期証券利回りと10年国債利回りが逆転する長短逆転(「逆イールド」)の形状は、過去の例から判断すると、米国企業の利益率が、今後5年のうちに、累積ベースで30%程度縮小することを示唆しています。
実際のところ、経済指標から見て、米国企業の利益成長率は既に鈍化し始めていることが確認されますが、このようなトレンドは暫く続くことが予想され、先行きが懸念されます。ピクテの試算では、今回の株価の変動の大半が利益成長率で説明されるからです。従って、米国株式はアンダーウェイトとしています。このような投資評価はバリュエーション水準からも説明されます。ピクテのモデルでは、米国市場が、依然として、最も割高です。
これに対し、新興国株式はオーバーウェイトを維持しています。欧州の新興国市場には特に割高感が見られず、先進国に比べ、経済成長の勢いが顕著に認められます。ピクテの景気先行指数は、先進国と新興国間の経済成長率格差が過去5年で最も拡大していることを示唆しています。
中国については、政府の景気刺激策の効果が、中期的に、株式市場に寄与すると考えますが、短期的な効果は、既に、市場に織り込まれています。もっとも、民間部門の流動性が拡大したことは朗報です。
英国市場も有望です。4.9%前後と高水準の配当利回りと英ポンド安が注目されます。
業種別セクターについては、景気変動に左右されにくいディフェンシブ・セクターの選好を維持しています。景気敏感セクターのディフェンシブ・セクターに対する相対バリュエーションは過去平均を大きく上回っており、ディフェンシブ・セクターに対する相対パフォーマンスは、これまで米国10年国債利回りとの相関が高かったものの、足元では逆相関になっていることなどが選好理由です。
生活必需品、公益ならびにヘルスケア・セクターをオーバーウェイトとしています。米国の医療保険制度改革が超党派の支持を得たことから、ヘルスケア・セクターのオーバーウェイトは奏功しませんでしたが、投げ売りに因る株価の大幅下落は過剰反応だと考えます。ヘルスケア・セクターがディフェンシブな性格の強いセクターであることに変わりはなく、ピクテの世界景気先行指数とは最も強い負の相関を示しているからです。
一方、一般消費財・サービスおよび情報技術の両セクターは割高感が最も際立つことから、アンダーウェイトとしています。
債券:上昇相場は息切れの様相
世界の債券市場は割高感が際立っており、最もリスクの高い社債から最も安全なソブリン債に至る市場全体に、どれだけ上値余地が残っているかは疑問です。従って、債券の投資評価は、概ね、ニュートラルを維持し、クレジット債(社債)および先進国のソブリン債については、アンダーウェイトを維持します。
債券市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策転換の恩恵を大きく享受してきました。FRBが利上げの停止を決定したことから、投資家は、何が利下げを促す誘因となり得るかに注目しており、市場も、FRBがハト派に転じたことを確信しているように思われます。足元では、世界の債券市場は、昨年2018年10月時点の状況を66%強上回る、4分の1程度の市場がマイナスの利回りとなっています。
FRBについては利下げの余地が幾分残されているとしても、その他の中央銀行は、市中金利が政策金利のレンジの下限に迫る状況に直面しているという事実を、投資家は無視しているように思われます。また、世界の中央銀行はバランスシートの縮小を続けており、追加的な金融刺激策を提供しているのは中国のみです。この間、変動の激しい食品やエネルギーを除いたコア・インフレ率は、先進国では概ね低位で推移しているものの債券利回りを上回っており、従って、多くの先進国の実質利回りはマイナス圏に沈んでいます。
年初来、原油価格が30%強上昇していることから、総合インフレ率は上昇が予想されます。
また、足元の債券市場の上昇を受け、米国および欧州の投資適格債およびハイイールド債は、極めて割高に見受けられます。足元のバリュエーション水準がどれくらい続くかを予測するのは困難ですが、良好な市場心理が反転した時に流動性の低い債券を大量に抱えていることほど危険なことはありません。従って、米国および欧州の投資適格債およびハイイールド債は、全てアンダーウェイトとします。
これに対し、新興国通貨が過去平均を大幅に下回る水準にあることを勘案し、新興国債券は、ドル建て債券、現地通貨建て債券ともにオーバーウェイトを維持します。ピクテのモデルは、新興国通貨が対ドルで、適正価値を25%程度下回る水準に留まっていることを示唆しています。中国の景気回復を背景に、新興国経済の先行きが先進国に比べて良好なことも、新興国債券のオーバーウェイトを支持すると考えます。
中国が、米国との貿易摩擦の弊害の軽減を図って、財政政策と金融政策を巧みに併用したために経済の十分な浮揚がもたらされたことから、財政刺激策の一部は解除され始めています。また、鉱工業生産の小幅の回復は、人民元の増価を示唆する初期の兆しと見てよいかもしれません。
一方、米ドルは、大幅に過大評価されているものの、説得力ある代替通貨が見当たらないことから、ニュートラルを維持します。ドル高がピークを付けたとの見方から、金はオーバーウェイトを維持します。
資産配分比率決定の分析ポイント 4つの柱
ピクテでは資産配分比率決定の分析ポイントとして4つの柱を用いています。その4つの柱は、1)マクロ経済分析、2)流動性分析、3)センチメント(テクニカル)分析、4)バリュエーションです。たとえば、株式の投資配分を決定するにあたってもすべての要素が常に株式のオーバーウェイトを同時に示すわけではありません。投資判断決定には、こうした異なる観点からの投資判断決定のポイントを勘案することが重要と考えています。
1)マクロ経済分析~世界の景気先行指数は引き続き低下
ピクテの世界景気先行指数(前3ヵ月平均比)は、3ヵ月連続でマイナスとなっています。
ピクテの先進国景気先行指数(前3ヵ月平均比)は、5ヵ月マイナスとなる一方、ピクテの新興国景気先行指数(前3ヵ月平均比)は2ヵ月連続上昇しました。
ピクテの景気循環分析は、世界経済の下振れリスクを強く示唆しています。ピクテの世界景気先行指数も、2019年の世界のGDP(国内総生産)成長率が、主に先進国経済に起因して、2018年末の+2.9%(前年比、年率)から今年7月初旬には+2.4%(同)に減速することを示唆しています。
一方、新興国経済の見通しは、引き続き、相対的に良好です。ピクテでは、2019年のGDP成長率が2018年の+4.2%(前年比、年率)から+4.4%(同)に改善すると見ています。
新興国経済の相対的な堅調さは、中国の景気回復に因るところが大きいと考えます。最近の財政・金融刺激策が世界第2位の経済の安定化に寄与しています。中国鉱工業生産は、2014年以来の水準を回復し、インフラ投資と自動車販売は、急速な減少に歯止めがかかっています。一方、ロシア経済は、原油価格上昇の恩恵を享受しているはずです(図表6~9参照)。
米国の景気先行指数(前3ヵ月平均比)はモメンタムが回復したものの引き続きマイナスとなりました(図表10参照)。
雇用環境は良好ながら、米中貿易戦争懸念を背景としたPMIの低下や、輸出の伸び悩みなどがマイナスに寄与しています。米国経済は、米ドル高、財政支出の減少などが発生しているため、ネガティブな見通しです。
ユーロ圏の景気先行指数(前3ヵ月平均比)もモメンタムがやや回復したものの引き続きマイナスとなりました。消費者マインドが下げ止まり、雇用・所得環境の改善がみられる一方、輸出減速の影響を大きく受ける製造業の見通しが低下しています(図表13参照)。
日本の景気先行指数(前3ヵ月平均比)はマイナス圏から回復し、ここ3ヵ月はプラスで推移しています。引き続き輸出や設備投資の鈍化がみられる一方、雇用環境の改善などを背景に内需が回復に寄与しています(図表14参照)。
中国のピクテ景気先行指数(前3ヵ月平均比)はほぼ横ばいで推移しました(図表15参照)。
アップサイドリスクがあるとすれば、それは中国とみています。中国の景気刺激策によって、直近のPMIが回復したように、中国経済には製造業を中心にプラスの効果が現れています(図表16~18参照)。
2)流動性(資金動向)~金融引き締め強化後の信用状況の安定化を示唆
ピクテの流動性指標は、リスク性資産に対する慎重な見方を支持するものとなっています。金融を取り巻く状況は、引き締めの度合いは薄れたとはいえ、緩和的とは言えません。
米連邦準備制度理事会(FRB)はバランスシートの縮小を続けており、9月までに新たに2,000億ドル以上の流動性を市場から回収するものと見られますが、一方、中国の景気刺激策は、もはや超大型の景気対策とはいえません。
市場には、米国の年内の利下げの確率を50%とみる追加的な金融緩和期待が既に織り込まれていると思われます。
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3)センチメント(テクニカル)(市場参加者動向)~概ね適正水準
ピクテのテクニカル指標は、株式、債券ともに、概ね、適正な水準を示唆しています。VIX指数(米国株式の予想変動率)が足元、急低下する一方で、MOVE指数(米国国債の予想変動率)も過去最低水準に近づいていることを示しています。
エクイティ・リスク・プレミアムは、2015年あたりから米国と欧州で乖離がではじめ、それ以降、欧州株のリスク・プレミアムは米国株のリスク・プレミアムを大きく上回っています。要因としては、テクノロジー・セクターのウェイトの差や、ドイツ国債の利回りが低すぎることがあげられますが、それを考慮してもリスク・プレミアムは拡大しすぎており、米国株は割高で、欧州株は割安となっています。
主要資産のインプライド・ボラティリティは過去平均を下回っています。ダウンサイド・リスクをヘッジするコストがこれまでになく安くなっているため、オプションを通じた運用戦略がとられています。短期的にはメルトアップのリスクはありますが、ピクテではそこまでは想定していません。
4)バリュエーション(相対的価値分析)~株式は特に割高でない
ピクテのバリュエーション分析は、株式全体では特に割高ではないことを示しています。実際に、世界株式の株価収益率(PER)は17倍前後、株価純資産倍率(PBR)は2倍前後と、いずれも過去35年の平均に近い数値です。
一方、企業の利益成長率は、昨年の15%成長の後、大幅な低下が懸念されます。ピクテのモデルは今年の成長率を僅か約1%と試算しており、市場のコンセンサス予想の約7%を遥かに下回ります(図表25参照)。
債券、米国株、シクリカル株、米ドルは依然として割高です。株式にとって最大のリスクは企業業績です。ピクテの景気先行指数からは、さらなる企業業績の下方修正が示唆されます。米国の2019年1-3月期決算のEPS成長率は、前年同期比-0.3%と事前予想から改善し、全体の70%以上が市場予想を上回る決算を発表しており堅調です。しかし、自社株買いの影響を除けば1‐3月期のEPS成長率は前年同期比-3%になります。また、4‐6月期決算の予想EPS成長率は下方修正されているため、業績ガイダンスが悪いことを示唆しています。
企業の利益率は、経済サイクルの終盤でピークを打つ傾向があります。市場では世界的(除く日本)に過度な企業マージンの上昇を想定しており、特に米国は顕著です。2007年当時と比較して賃金の伸び率が強いため、リスク要因です(図表27参照)。
一方債券市場では、欧州および日本の国債が引き続き割高です(図表28、29参照)。
金融政策面からみたドル
主要中央銀行による金融政策の違いからみると、ドル高円安の要因が大きいとみられますが、2004年からの米国利上げ局面では、利上げで期待インフレが抑制され、長期金利が大きく上昇しなかったことなどから利上げ後はドル安に転換しています。
現時点では、欧州中央銀行(ECB)が2018年12月には景気の下支えを目的とした資産購入プログラム(APP)を終了しました。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は2019年3月には、政策金利を据え置きましたが、政策金利の予想については同時に公表した経済見通しに伴い、2019年の利上げ回数を前回予想の2回から今回はゼロ回に引き下げるなど、全体的にハト派(金融緩和を選好)的な内容となりました。
なお、FRBのバランスシート縮小停止については市場が想定していたより若干早い9月末が示唆されました。今後、経済減速や財政刺激策による景気下支え効果の低下などを背景に米国がいっそうハト派的なスタンスに向かえばドル安要因となることから、注視が必要です(図表30、31参照)。
円のボラティリティ高まる
日本の貿易収支は2014年をボトムに原油安や円安効果により改善し、金融緩和効果による銀行貸し出しの増加や、土地価格のモメンタム、雇用者数、所得の伸びなどに改善が見られるなど、経済指標の回復は、円高を支える要因となっていましたが、足元では景気のモメンタムの鈍化も見られ、貿易摩擦の影響が顕在化してくるなど、円高を支える要因が薄れています(図表32参照)。
一方、ドル・円相場と、先物の円ポジションを米商品先物取引委員会(CFTC)が発表するシカゴマーカンタイル取引所(CME)国際通貨市場(IMM)のドル・円先物取引非商業部門の円ポジションでみると、貿易戦争懸念などを背景にドルの買い越し(円の売り越し)のポジションが拡大しています(図表33参照)。
米連邦公開市場委員会(FOMC)にてハト派のスタンスがいっそう強まるようであれば、更なる円高・ドル安要因となり今後もボラティリティの高い展開になると見られ注視が必要と考えます。
ピクテ為替モデルからみたドル:各主要通貨に対して適正値から割高
米ドルはかなり割高であり、今後は米ドル安になる可能性があります。一方、新興国通貨は、景気先行指数は新興国のほうが先進国よりも状態が良く、バリュエーションの観点からも魅力的です。
ピクテの為替モデルによればドルは各主要通貨に対して適正値から割高となっており、この水準は過去30年間でも高い水準です。過去の実績では高い水準をつけた後、ドルは下落する傾向がみられました。
米国のインフレ率が予想を上回って上昇する、或いは、トランプ政権が新たな減税策を発表する等の想定外の事態が起こらない限り、ドルの一段の上昇の公算は限定的だと考えます。ただし、米ドル安を見込むには、米国景気のピークアウトやFRBのハト派政策、ユーロ圏の景気先行指数が上昇するといった条件が必要であり、時期尚早かもしれませんが、中長期的には米ドル安になると考えています。
新興国通貨も依然として25%割安です。ピクテのバリュエーション指標は、新興国通貨が購買力平価ベースで20数年ぶりの割安水準にあることを示唆しています。
米連邦公開市場委員会(FOMC)にてハト派のスタンスが強まれば、ドル安が進行して新興国市場の追い風になると考えます。
通貨の適正価値を測るピクテのモデルは、大方の先進国通貨および新興国通貨に対してドルに割高感があることを示しています。オプションのインプライド・ボラティリティ(予想変動率)は、対ドルのユーロ・レートが今後1年で3.3%上昇することを示唆しています。もっとも、短期的なドルの大幅下落をもたらす可能性のある明確な誘因には欠けます(図表34~38参照)。
テーマ別配分
現在注目する市場の投資テーマは①アベノミクス、②ドラギノミクス、③米国の金融政策正常化、④新興国の投資価値、⑤グローバル・リスク選好度の5つです。
【アベノミクス】
日本では、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、日本銀行が一段と強力な金融緩和を進めてきましたが、2018年7月の決定会合では、景気の回復を背景に、弾力的な運用を行う方針が追加され、出口戦略を模索しているものの、金融政策の転換にはいたらず現状維持を継続してきました。ここに来て年内には出口戦略に向かうと想定され、市場の調整要因になると考えられることから注視が必要とみています。また、貿易戦争によるダウンサイドリスクにも注視が必要です。
【ドラギノミクス】
ユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)が最終的には思い切った手段を講じ、ECBは主要政策金利の据え置き、2018年12月には景気の下支えを目的とした資産購入プログラム(APP)を終了しました。ただ保有債券の償還資金の再投資については、利上げが実施された後も長く継続するとの方針を示しました。貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)の継続は市場を下支えすると期待されます。
また英国EU離脱問題やイタリアの財政問題などのリスクもはらんでおりより慎重な投資が必要です。貿易戦争に関してはひとまず「休戦」しているものの、依然懸念が残ります。
【米国の金融政策正常化】
米連邦準備制度理事会(FRB)は2019年3月に米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を公表しました。政策金利(フェデラルファンド(FF))の誘導目標を年2.25~2.50%で据え置きました。
ただ、政策金利の予想については同時に公表した経済見通しに伴い、2019年の利上げ回数を前回予想の2回から今回はゼロ回に引き下げるなど、全体的にハト派(金融緩和を選好)的な内容と見られ、市場では国債利回りの低下(価格は上昇)やドル安が見られました。
なお、FRBのバランスシート縮小停止については市場が想定していたより若干早い9月末が示唆されました。米国の景気見通しはその他地域と比べて不確実性が高いと見ています。今後も、FRBの金融政策動向に反応して、ボラティリティが急上昇する期間が発生する可能性があるため慎重な見方をしています。
【新興国の投資価値】
引き続き新興国の長期的な潜在成長力に変わりなく、新興国の株式、債券、通貨はバリュエーション面では相対的に割安水準にあります。新興国では金融緩和政策に対する制約が少なくなってきています。
特に、アジア新興国では金融緩和傾向が見られ、中国では規制強化により非金融機関による信用貸し出しが大きく減少する一方、金融緩和効果で民間の貸し出しの伸びが見られることなどから、注視しています。ただし、主要国の政策動向や地政学リスクなど先行き不透明感が高い点では注意が必要とみています。
中国の金融緩和の継続は貿易摩擦のマイナスの影響を緩和するとみられます。
【グローバル・リスク選好度】
市場のリスク選好度を見る様々な指標はリスク資産に対し、リスク回避を示しています。
参考データ
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。
※記載のデータは、将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『株式市場の「熱狂」に警戒』を参照)。
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