「貿易立国」から「投資立国」へ
かつて日本は海外から原材料を輸入して付加価値の高い工業製品を輸出して外貨を稼ぐ「加工貿易立国」でした。しかしながら、現在は民間企業が海外企業を買収したり、海外に工場を建設したりする直接投資や米国債購入などの証券投資から得られる配当などの利益が、貿易黒字額を上回る状況にあります。海外に広く投資して利益を稼ぎ、その利益を国内に持ち帰り所得を増やすという「投資立国」への道を考える時期に来ています。
経常収支の構成と「投資立国」への転換
経常収支とは、主に貿易収支、サービス収支、第一次所得収支と第二次所得収支の合計で成り立っています。貿易収支はモノの輸入と輸出の収支を示し、サービス収支は輸送、旅行、通信、金融、情報、建設、文化興業、特許県の使用料などの収支を示します。第一次所得収支は二国間にまたがる親会社と子会社間の配当・利子の受取・支払(直接投資)や支配関係のない投資先からの配当・利子の受取・支払(証券投資)の収支を示します。第二次所得収支は無償資金協力や寄付、贈与など居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況を示します。
かつて日本は海外から原材料を輸入し、付加価値の高い工業製品に加工・製品化して輸出する加工貿易を得意とし、外貨を稼ぎ出す「加工貿易立国」でした。2011年、世界経済の減速、歴史的な円高などを背景に輸出が減少した一方で、東日本大震災の発生で原子力発電を代替する火力発電向け液化天然ガスや原油などの輸入が急増した影響で日本は31年ぶりに貿易赤字に転落しました。足元では貿易収支は黒字転換していますが、かつての存在感はありません。
一方で、経常収支は黒字が続いており、これは第一次所得収支の黒字によるところが大きくなっています。第一次所得収支の主な項目には直接投資収益、証券投資収益とその他投資収益があげられます。直接投資収益には海外に対して直接投資を行った投資資本から得られる所得が計上されますが、近年は主に製造業を中心とした海外進出や海外企業のM&Aなどの直接投資収益が増加しています。証券投資収益には海外株式や債券への投資や、投資した株式からの配当金や債券の利子の受取などの収益があげられます。第一次所得収支は貿易収支を上回る状況が続いています。
日本はこれまで蓄えてきたストックを海外に広く投資して利益を稼ぎ、その利益を国内に持ち帰り所得を増やすという「投資立国」への道を考える時期に来ているのかもしれません。
「貯蓄」から「投資」へ
かつて日本には利用者の制限がなく全ての個人が利用できる、少額貯蓄非課税制度(マル優)や郵便貯金の利子に対する非課税制度(通称、郵貯マル優)、国債と地方債の利子に対する少額公債非課税制度(通称、特別マル優、マル特)という制度がありました。1987年(昭和62年)まではマル優、郵貯マル優、特別マル優の3つの制度を使えば各々上限300万円、合計900万円までは非課税でした。4人家族であれば3,600万円まで非課税枠を活用することができました。その後、郵貯マル優が廃止されるなど様々な制度変更が行われ、現在は障害者などの方を対象にしたマル優、特別マル優(それぞれ上限350万円)の制度となっています。
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1996年(平成8年)には、日本版金融ビッグバン(金融システム改革)が打ち出され、「貯蓄から投資へ」というスローガンが提唱されました。これは、貯蓄に優遇制度を付け、国民の貯蓄を使った経済成長スタイル(財政投融資など)から、家計の保有する巨額の現預金を投資へ振り向けていくための政策です。
その後、銀行等の投信窓販解禁や株式売買手数料自由化など様々な金融規制の緩和が行われましたが、「貯蓄から投資へ」の流れはなかなか進展していかない状況が続きます。そして、2014年(平成26年)より、貯蓄から投資への流れを促進しようとして新たに創設されたのが少額投資非課税制度(NISA)です。名称からも『「貯蓄」から「投資」へ』という変化が読み取れます。少額投資非課税制度(NISA)が導入された背景には主に2つの理由があります。将来への供えとなる資産づくりの促進(家計の安定的な資産形成の支援)と経済成長に向けた家計の金融資産の有効活用(家計からの成長資金の供給拡大)です。
日本国内において家計が保有する金融資産は約1,700兆円にのぼりますが、そのうち現預金は約900兆円と半数以上を占めています。米国の個人金融資産は約70兆ドルですが、現預金の割合は約14%、ユーロエリアでの個人金融資産に占める現預金の割合は約35%となっており、欧米と比較して日本の個人金融資産に占める現預金の割合は高くなっています。
そこで、NISAにより「貯蓄から投資」への流れが促進されれば、家計から株式上場企業への資金供給が拡大することで経済が成長するとともに、家計も潤い、更なる投資につながるという好循環を生み出すことが期待されています。
「投資立国」への道を考えるにあたって、「貯蓄」から「投資」へという流れは必要な手段の一つと考えられます。
データは過去の実績であり、将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『実践的基礎知識投資の必要性編(3)<「貿易立国」から「投資立国」へ>』を参照)。
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