ポイント
石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」の協調減産が原油価格を支えると思われます。もっとも、再び供給過剰が発生するまでとの条件付きですが・・・。
要約
・原油価格は、2018年秋の大幅下落の後、2019年年初以降はいくつかの理由により下値圏を形成したものと思われます。現時点で最も注目されるのは、足元の原油価格の急騰が持続可能か、あるいは昨年と同様に今年も変動の激しい状況が再現される可能性があるかということです。
・国際エネルギー機関(IEA)の最新の年次報告書は、上記の疑問に答えるものであり、世界の原油需給を再評価する際の手掛かりにもなると考えます。
・世界の原油需要は、2018年から2024年にかけて日量700万バレル増加することが予想されます。産油量が上限に達する「ピーク・オイル」は遠い先のこととなりそうです。
・2019年の原油価格は、新興国の安定した需要と、従来予想を上回る先進国の需要の伸びに支えられると考えます。
・世界の経済活動を占うピクテの景気先行指数は、先行きを期待させる兆しが散見されることを示唆しています。世界経済は、年内の景気後退局面(リセッション)入りを回避し、緩やかな経済成長が原油需要を支える可能性があると思われます。
・世界の原油生産は、2018年から2024年にかけて日量690万バレル増加することが予想されます。増産分の大半は、OPEC加盟国であるイラクを除き、OPEC非加盟国によるものと見られ、米国は世界最大の産油国であり続けると考えます。
・OPECプラスは、2018年12月の減産合意を遵守することで、米産油業者の供給制約がもたらした「つかの間の好機」を最大限に享受しています。
・2018年下半期に見られた極度の供給過剰は減産によって大幅に改善され、足元の需給は均衡点に近づいています。年内の需給は、米国に新設されるパイプラインの稼働時期次第となりそうです。米国の原油輸出が大幅に増加するならば、OPECプラスは減産から市場シェアの拡大へと戦術の転換を迫られる可能性が高いと考えます。
・そのような状況が実現すれば、原油市場は極度の供給過剰に陥るリスクを冒すこととなりかねず、原油価格(北海ブレント)は1バレル=50ドル台前半にまで下落する可能性も否めません。もっとも、米国の新設パイプラインの多くが稼働し始めるのは2020年に入ってからのことになると思われます。
・OPECプラスの目下の関心事は、油価の(相対的な)高値に乗じて「つかの間の好機」を享受することにありそうです。OPECプラスが今年下半期の減産延長に係る決定を6月以降に先送りしたことは、OPEC加盟国が米国の産油量の変動を注視していることを示唆しています。
・足元の状況は、北海ブレント価格が年内は1バレル=60~70ドルのレンジ内で推移するとの見方を支持すると考えます。年末の油価については1バレル=70ドルとの従来予想を維持します。
世界の原油需要
世界の原油需要は2018年の日量9,920万バレルから2024年には同1億640万バレルに増加するものと思われます。増加分の大半は新興国の需要の伸び(日量+700万バレル)によるものであり、アジアの伸びが最も大きい(同+440万バレル)と見られます。一方、先進国の需要の伸びは横ばい(同+20万バレル)に留まりそうです。新興国の需要が従来予想から下方修正(同-50万バレル)される一方で、先進国の需要は予想以上の景況の改善を受け上方修正(同+80万バレル)されています。
最近の石油化学関連施設の新設投資が世界の原油需要を日量220万バレル増加させるほか、主に新興国の航空機を使った旅行の増加が2024年までのジェット燃料消費を同90万バレル押し上げると見られます。また、国際海事機関(IMO)による船舶燃料油中の硫黄含有量の上限規制を受けた重油から軽油への転換も需要の押し上げ要因になると考えます。
2018年下半期には、経済協力開発機構(OECD)加盟国の需要減を受け、世界の原油需要が日量-95万バレル(前年同期比)と伸び悩みました。一方、2019年については、先進国では需要の回復、新興国では需要の安定が見込まれることから、世界全体の需要の伸びは日量140万バレルと、2018年の同130万バレルを僅かながら上回ることが予想されます。
世界の景況感の大幅な悪化
原油需要を下支えする要因のうち、世界経済の先行きに対する信頼感は、米中貿易摩擦の継続を受け2018年末に大幅に悪化しました。実際のところ、景況感が悪化し、経済統計が景気減速の兆しを示唆し始める中、世界経済の景気後退局面(リセッション)入りを巡る懸念が強まりました。
直近の景気先行指標には経済の著しい減速を確認するものが多いとはいえ、年内のリセッションを示唆しているとは思われません。ピクテの世界輸出先行指数は前年同月比+1.8%と鈍化しつつもプラスの伸びを維持しており、足元の貿易の縮小は一時的なものに過ぎないと思われます。
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アジアひいては世界全体の出荷の激減は、主に米中の貿易協議に起因すると思われます。
先行きを期待させる兆しも散見される
とはいえ、先行きを期待させる兆しも散見されます。世界貿易の動向を占う指標とされる鉄鉱石輸出指数は、2018年10月から2019年1月にかけての大幅な低下(2018年12月は前年同月比-2.1%)の後、2019年3月には同+0.1%と小幅ながら反発しています。
世界の金融を取り巻く状況も先行きを期待させる一因です。各国の金融当局は、2018年末には引き締め姿勢を強めていたのに対し、2019年年初以降は積極的な緩和に転じています。こうした政策転換は、数ヵ月後に市場心理が改善する前兆となりうることが、過去の例から確認できます。
経済成長は緩やかだが、景気後退には至らない
出所の異なる複数の指標が、年内のリセッションは回避できる公算が高いことを示唆しています。ただし、そこには多くの不確実性がある点には留意が必要です。
米中の貿易協議が好ましい方向に急展開していることも、年内の景気後退リスクを完全に排除する鍵となるかもしれません。
世界の購買担当者景気指数(PMI)と港湾航行統計を基に世界の経済活動を測るピクテのモデルは、世界の実質GDP(国内総生産)成長率が、今後数四半期のうちに前年同期比+3.6%から同+3.3%に減速する公算が高いことを示唆しています。従って、リセッションの回避は可能だと思われます。
世界の原油供給
世界の原油生産は、2018年の日量1億10万バレルから2024年には同1億700万バレルへと、6年間で同690万バレル増加することが予想されます。この見通しには、ベネズエラの減産の継続と米国の制裁を受けたイランの減産ならびに両国の減産を埋め合わせる米国の増産が加味されています。ブラジル、イラク、ノルウェーおよびガイアナについても大幅増産が予想されます。
米国では、テキサス州パーミアン盆地の送油能力が2018年の日量350万バレルから2024年末には同800万バレルに拡大することが予想されます。米国は2024年までに日量510万バレルの原油輸出能力を有する世界最大級の原油輸出国になることが予想されます。
世界の原油生産は、2018年下半期に日量+340万バレル(前年同期比)と急増した後、主にOPECプラスの減産による急速な減少が予想されます。2018年12月の減産合意の成果としては、2月に日量1,010万バレルを生産したサウジアラビアが、3月には同980万バレルまでの減産を口頭で約束する等、合意の遵守以上の減産を行ったことが確認されています(減産合意によるサウジアラビアの生産割当は同1,030万バレル)。
一方、ロシアは減産を先送りしており、2月の生産は日量1,134万バレルと僅か8万5,000バレルの減産を行ったに過ぎず、合意で割り当てられた生産量を14万5,000バレル上回っています。ロシア当局は、今後は合意を遵守する意図があることを繰り返し表明しています。
ロシアとサウジアラビア:思惑の違い
減産についてのロシアとサウジアラビアの思惑が異なることは明らかです。財政収支を均衡させる原油価格を指す「均衡原油価格」は、ロシアの場合は1バレル=40ドル前後、サウジアラビアの場合は同80ドル前後と想定されることから、ロシアはサウジアラビアより先に減産を終了させる公算が高いと思われます。3月17、18の両日にOPECプラスがアゼルバイジャンの首都バクーで開催した直近の(共同閣僚監視)委員会では、4月に予定されていたOPEC総会の見送りに加え、2019年下半期の協調減産の期間延長を巡る決定を6月まで先送りしました。
米中の貿易協議の合意を巡る期待、米国のベネズエラ制裁、差し迫ったリセッション懸念の後退等、複数の要因を背景に、北海ブレント価格は2018年12月以降、上昇していることから、サウジアラビアが主導してきたOPECプラスの減産は既に成果をあげていると判断することも可能です。もっとも、減産が中長期的に持続する公算は低いと考えます。OPECが、米国とは裏腹に、市場シェアを大きく落としたと見られるからです。
OPECの直近の市場シェアは37%に過ぎず、第一次オイルショックの直前にあたる1973年に記録した49%を遥かに下回ります。(米国およびその他の北米諸国を中心とした)OPEC非加盟国の増産予想が、OPECの市場シェアを一段と低下させ、ひいてはOPECの原油価格統制力を減じることにもつながりかねません。2019年末から2020年年初にかけてパーミアン盆地の輸送障害が解消されれば、ロシアとサウジアラビアの思惑の違いが一層鮮明となり、減産合意に向けた連帯が試される状況も考えられます。
ロシアとOPEC加盟国(ROPEC)が享受するつかの間の好機
現在、ロシアとOPEC(ROPEC)には、米国が直面する供給制約に乗じ、自国の減産を通じて原油価格を下支えする機会が提供されています。今後年末までの原油需給の均衡は、主に、米国の新設パイプラインが稼働するまでに要する時間と米国の産油業者がパイプラインを利用する方法次第であると思われます。
2019年下半期には米国の原油輸出能力が大幅に拡大することから、OPECプラスは減産から市場シェア維持へと戦略変更を余儀なくされると考えます。そのような状況が現実となれば、原油市場は、OPECおよび非OPEC双方の増産に因る極度の供給過剰に陥るリスクを冒すこととなりかねず、原油価格に及ぶ下押し圧力も明らかです。北海ブレント価格は再び1バレル=50ドル台前半を試す公算が高いと考えます。
一方、米国の新設パイプラインの多くが稼働し始めるのは、現時点では、2020年に入ってからのことになると見られています。そのような状況でのOPECプラスの関心は、減産を継続し可能な時点まで高値を維持する機会を生かすことになると思われます。このような見方が実現すれば、2018年下半期に見られた極度の供給過剰の影響は払拭され、年内を通じて原油需給の均衡が維持されると考えます。この場合、北海ブレント価格は、1バレル=60ドル~70ドルのレンジ内で推移すると思われます。
原油在庫の正常化
原油在庫統計は、供給過剰が大方調整されたことを示唆していると思われます。OECD加盟国の原油在庫は、(OPECが注視する)5年移動平均を割り込んでいます。また、過去の在庫水準と北海ブレント価格の相関から推測すると、足元の在庫水準は1バレル=70ドルまでの上値余地を残していると考えられます。
量で見た原油在庫の絶対水準は、原油消費が一貫して上昇基調を辿る状況を勘案すると、最も適切な指標ではないといえます。足元の在庫が何日分の消費を満たすかを見るために、在庫を1日あたりの石油消費量で除した「在庫日数」の方が適切だと考えます。
足元の在庫は、「在庫日数」で見ても、2016年~2017年にかけて積み上がった在庫の調整が終わったことを示唆しています。また、「在庫日数」は、北海ブレント価格の上値余地が大きいことも示唆しています。もっとも、「在庫日数」が、OPECプラスの減産によって人工的に歪められている点に留意は必要です。原油供給が停止されたとしても、迅速な供給を可能とする潤沢な余剰生産能力があるわけですから、原油価格の急騰は一時的なものに留まるはずです。
以上の論点は、北海ブレント価格が年内を通じて、1バレル=60ドル~70ドルのレンジ内に留まる確率が高いことを示唆しています。従って、年末の油価については1バレル=70ドルとの従来予想を維持します。
※市場環境の変動等により、上記の内容が変更される場合があります。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『原油市場の動向と見通し』を参照)。
(2019年4月19日)
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