財産の分配や利権をめぐって泥沼化することも多い離婚問題。本連載では、弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所・代表弁護士の中里妃沙子氏が、富裕層のための円満離婚術を解説します。本記事では、離婚時の「財産分与」について詳しく解説します。

財産分与の請求はなるべく早いうちに

本記事では、婚姻後に夫婦の協力で築いた財産を、離婚に際して夫婦で分け合う制度である「財産分与」について解説します。

 

財産分与請求権は、「離婚の形式」や「有責かどうか」に関わらず、夫婦が平等に持つ権利として認められていますので、内容をしっかり押さえておきましょう。

 

◆財産分与の請求はなるべく早いうちに。離婚成立後2年以内という期間制限も

 

前提として、財産分与の請求は、離婚成立後2年以内と請求が認められる期間が決められています。そのため、期間内に請求しなければ、財産分与請求権はなくなってしまいますので、期間を過ぎないよう留意しておくことが大切です。

 

また、「とにかく早く離婚したいから、財産分与については後で考えよう」と後回しにすると、その間に相手が財産を処分、隠蔽してしまう可能性もあります。離婚について考えはじめたら、早いうちから、財産分与について意識しておくことが望ましいといえます。

 

◆財産分与の対象となるものとならないもの

 

それでは、財産分与の対象となる財産にはどのようなものがあるのか見てきましょう。

 

基本的に、結婚後に夫婦が協力して取得、維持してきた財産(共有財産)は、すべてが財産分与の対象となります。具体的には、すでに支払われている(または、近い将来支払われることが確定している)退職金や年金、離婚前に満期がきた貯蓄型の生命保険、株式といったプラスの財産だけではなく、住宅ローンや借金(家族の生活とは無関係な借金を除く)等の消極財産についても対象となります。

 

逆に、財産分与の対象とならない財産(特有財産)には、結婚前の預貯金や所有物、結婚後に自分の父母などから相続や贈与で得た財産、日常的に単独で使用している洋服等が含まれます。下記図表にて、まとめています。

 

[図表]財産分与の対象となる財産・ならない財産
[図表]財産分与の対象となる財産・ならない財産

 

このように、対象項目については細かく分類されるため、まずは財産を、財産分与の対象となるものとならないものに分けてリストアップし、共有財産の総額を算出する必要があります。

共有財産の確定時期と評価時期はいつ?

◆共有財産の確定時期と評価時期はいつ?

 

上記のリストアップを行う際、「いつの時点の総額を出せばいいのだろう・・・。株とかは日々値動きのあるものだし・・・」という疑問が出てくるでしょう。この点について解説します。

 

ここでは、財産分与の対象となる財産を、①いつを基準に確定し、②いつの時点で評価が決まるかという2点で見ていきます。

 

①の共有財産を確定する時期については、実務上、夫婦の協力がなくなった別居開始時を基準とすることが一般的です。

 

②の共有財産を評価する時期については、預貯金や現金は、別居開始時の金額となりますが、株式や不動産は一般的には、離婚成立時とされています。

 

しかし、株価等は価格が急落することもあるので、場合によっては、それまでの値動きや基準価格等を踏まえ、協議して決めるのが望ましいこともあります。

 

◆財産分与の計算方法

 

ここまで読めば、財産分与の対象となる財産の総額を算出することができますね。では最後に、共有財産をどのように分け合うかについて見てきましょう。

 

通常、財産分与といわれる場合は、共有財産を夫婦の寄与の程度によって分ける「清算的財産分与」のことを指し、原則として夫婦の分与割合は、2分の1ずつとされています。

 

そのため、夫の資産負債の合計が、妻の資産負債の合計を上回っているケースを想定した場合、

 

財産分与額=([夫の資産合計-夫の負債合計]+[妻の資産合計-妻の負債合計])÷2-(妻の資産合計-妻の負債合計)

 

という計算方法で算出するのが一般的です。

 

しかし、特段の事情がある場合(夫婦の一方が芸術家である等、特殊な才能で資産形成した場合や、夫婦の一方の収入、資産が極端に多額である場合等)、寄与割合を修正するだけの事情があると判断される場合には、例外的に寄与割合が変わることもあります。

 

たとえば、夫が一部上場企業の代表取締役で、婚姻期間(同居期間)中に得た収入は約220億円だったが、妻は専業主婦であった事案において、妻が財産形成に寄与した割合が高いとはいえないこと等を考慮し、妻の貢献度を約5%(10億円)と判示した裁判例(東京地判 平成15年9月26日)があります。

 

このような裁判例があるように、富裕層の方が常に財産分与において財産の半分を取られるわけではありません。財産分与における分与割合が具体的事案において、どのように定まるかは専門的な判断が必要となりますので、その点を不安に感じられる方は、弁護士等の専門家にご相談ください。

 

◆さいごに

 

本記事を読めばわかるように、財産分与を行う際は、「いかに余すことなく相手の財産を把握できるか」ということが重要です。本来もらえるはずだった財産をもらえなくならないため、自身が不必要に多く支払わないためにも、離婚を決意したら、相手の預金通帳、株式、生命保険証書等を同居中にあらかじめ探し出し、別居前に相手の財産を把握することがポイントといえるでしょう。

 

次回は、「婚姻費用・養育費」についてお話します。

 

 

中里 妃沙子

弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所 代表弁護士

 

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