不動産の所有・収益物件の経営には様々なトラブルがつきものです。しかし、不動産がその場所にある限り、周囲とうまく折り合いながら円満解決への道を探ることが最も望ましく、また最も効率的だといえます。本連載では、不動産・相続関連のトラブル解決を得意とする日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が、不動産経営にまつわるトラブルの対処方法を、事例を交えながらわかりやすく解説します。

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所有者なら無縁ではいられない「不動産トラブル」

自宅を快適な状態に維持したり、収益物件の価値を損なわないように管理したりするのは、それなりの労力がかかるものです。しかし同時に、所有者には予見できない、第三者の行動によって居住者の生活や不動産の価値が脅かされるケースもあります。

 

その場合、頼りになるのが「法律」です。とはいえ、最初から権利を強く主張したり、相手を責めたりするのではなく、まずは話し合いで落としどころを探って円満解決を目指すほうが、労力の面からも、その後のお互いの関係維持の面からも、メリットが大きいといえるでしょう。

 

ここでは、不動産に関するよくあるトラブル事例を取り上げながら、類似の判例をもとに適切な対処・対応を指南していきます。

新築された隣家の窓から、所有物件の庭・部屋が丸見え

アパートを建築し、オーナーとしてその最上階に居住していたところ、隣地に同じくらいの高さの一戸建て住宅が新しく建設されました。その戸建て住宅の窓からは、アパートの庭や部屋を覗くことができるようになっています。そのため、オーナーとしても時間によってはカーテンを閉じた状態にしなければならず、また、アパートの住人からは、安心して生活ができないので状況を改善してほしいとの苦情が来るようになりました。

 

 

オーナーとしては、自身の生活やアパートの今後の安定的な運営にもかかわる問題であると考えたため、一戸建て住宅の居住者に対して、窓に目隠しを設置してもらいたいと考えています。

 

どのような要件を満たせば目隠しの設置をしてもらえるのでしょうか。

目隠しを設置してもらうには「2つの要件」が必要

民法235条1項は、

 

境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓または縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。

 

と、規定しています。そのため、窓に目隠しを設置してもらうためには、

 

①新たに建築された一戸建て住宅の窓または縁側(この窓や縁側は、他人の宅地を見通せるものを指します)が境界から1メートル未満の距離に設置されていること

 

②当該窓又は縁側が他人の宅地を見通すことのできるものであること

 

が、要件となります。

 

ただし、これと異なる慣習があるときは、その慣習に従うものとされています(民法236条)が、そのような慣習がある場合は少ないものと思われます。

 

なお、「①1メートル未満の距離」の測定の仕方ですが、窓または縁側から最も近い点から、隣地境界線に向かって直角に伸ばした線の長さで測定します(民法235条2項)。

 

また、「②他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側」とは、他人の宅地を見通そうとすれば物理的にいつでも可能な位置、構造の窓等を含むものとされています。したがって、磨りガラスがはめ込まれた開閉のできない窓や、その角度からして他人の宅地を見通すことのできない場所に設置されている窓などはこれに当たりません。

 

他方で、上記の民法235条を直接の根拠にすることなく、覗き見されること自体がプライバシーの侵害であるとして、そのことをもって目隠しの設置の請求を求める事例もあります。

 

もちろん、窓から見通せる状況によって隣地居住者の生活が侵害されるような場合には、窓や縁側に目隠しの設置を求めることができる場合があり得るとは思われますが、民法235条において目隠しの設置にあたっての明確な要件を定めている以上は、特段の事由がない限り、その距離などを安易に伸縮することは妥当ではないと考えられます(東京地裁昭和56年12月25日判決などを参照)。

 

以上のとおり、オーナーとしては、プライバシーが侵害されている、あるいは侵害される可能性があるという事情だけでは、目隠しの設置を要求することはできませんので、民法235条の要件を満たすのか、あるいはこれに準じる状況にあるのかどうかを慎重に調査しなければなりません。

侵害が軽微な場合は、要求が通らないケースもある

また、民法235条の要件を満たしている場合であれば、常に窓や縁側に目隠しの設置を求められるかといえば、必ずしもそうではありません。

 

 

そもそも民法235条の趣旨は、プライバシー権の保護を目的としたものですから、仮に同条の要件を満たしている場合であっても、プライバシー権の侵害が軽微と認められるときには、同条を形式的に適用することが妥当ではないとされる事案もあるからです。

 

たとえば、高層階のマンションなどが隣地に建設された場合などには、隣家の内部を臨むことはできにくくなりますので、隣家へのプライバシーの侵害の程度も低くなりますから、上階の窓等については、裁判所において、権利の濫用として、目隠しの設置の要求が排斥される傾向にあります。

 

また、隣家を臨むことができる2階の窓については目隠しの設置を認めたが、1階の出窓については隣家を臨むことは困難であるとして請求を認めなかった裁判例もあります。そのため、最終的には、現地の状況を具体的に勘案して判断される事項となります。

 

さらに、隣家の庭のみが見通せるとして目隠し設置が請求された例はあまり見当たらず、このような例では権利の濫用として許されないことになる場合が多いのではないかと思われます。

 

そして、目隠しの構造については、設置する位置及び材質が見通しを遮るに足るものでなければならないと解されています。

 

そのため、不透明な塩化ビニール版などがこれに当たるとした裁判例がありますが、窓に設置された開閉可能なブラインドは目隠しには当たらないと解されています。

設置請求に応じない場合も、慰謝料は見込めない

オーナーとしては、民法235条に基づき目隠しの設置を請求できる状況であるにもかかわらず、これを怠った場合には、その怠った期間の慰謝料を請求したいところです。

 

これについては、東京地方裁判所昭和61年5月27日判決は、単に目隠しを設置しないことをもってプライバシーが侵害されたものということはできず、また隣家を覗いていた証拠もないということで慰謝料の請求を認めませんでした。

 

他方で、東京地方裁判所昭和49年1月29日判決は、昭和45年7月から昭和46年10月まで1ヵ月金1000円(消費者物価指数を基準にしますと、現在の物価は当時の物価の約3.3倍くらいですから、月々3300円くらいの計算になります)の慰謝料を認めています。そのため、仮に慰謝料が認められたとしても、それほど高額なものにならないのが実情であると思われます。

 

最後に、目隠しの設置に関しては感情的な問題が絡むことが多いとは思いますが、上述したとおり、隣地に建設された建物の窓や縁側に対して目隠しの設置を求めるためには、きちんと要件を満たしていることが必要ですので、十分な事前調査を行うことは不可欠ですし、また、隣家との話し合いなどをして柔軟な解決を図ることも必要になってくるでしょう。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所 弁護士

 

 

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