中国国内で懸念が広がる「地方政府の隠れ債務」の問題。統一的な認識基準がないため、その正確な状況は把握されていない。今回は、隠れ債務の改善のために中国当局が行っている取り組みを見ていく。

当局対応は管理強化と「陽光化」

棚改スキーム(注1)は2014年以降、貧困撲滅と住宅在庫解消(去庫存)をねらって積極的に推進されてきたが、18年中頃から去庫存の任務は終了し、むしろ住宅市場過熱を抑える必要が出てきたこと、また将来的に地方政府の隠性債務(隠れ債務)になるリスクがあるとして縮小する動きが出ている(18年7月地元各誌)。将来の隠性債務膨張を抑える意味ではよいが、短期的には地方政府が棚改債務返済に窮する恐れが高まっている。

 

(注1)地方政府が「棚改」、つまり都市部の貧困バラック地区の住居改善プロジェクトを請け負い、その関連で、国家開発銀行や農業発展銀行などの政府系政策銀行から融資を受けるスキーム。具体的には、地方政府は融資で得た資金を移転住民への補助金を含むプロジェクト費用に充て、住民が立ち退いた後の土地売却代金、各種収益や税収を財源にして融資を返済する。

 

[図表]棚改スキーム

(注)PSLは担保付き補完貸出。「征収事務所」は地方政府の委託を受け、土地接収や住民移転等に伴う業務を遂行する機関。
(注)PSLは担保付き補完貸出。「征収事務所」は地方政府の委託を受け、土地接収や住民移転等に伴う業務を遂行する機関。
(出所)興行証券経済与金融研究院

 

官民パートナーシップ(PPP)方式については17年11月、財政部、国有資産管理委員会(国資委)が相次いで同方式を規範に則ったものにしていくとする管理強化の通知を発出し、違法案件を整理する姿勢を打ち出した。これに基づき、財政部は18年4月までに3700案件(調査対象の51%)、金額で4.9兆元(同36%)を整理し、必要であれば、それによって生じる地方政府の資金不足に対して追加の地方債発行を認め、債務の「陽光化」、つまり隠性を顕性に転換していく方針を示している。

 

隠性債務の主体である融資平台については、その正確な実態把握は困難と見られているが、長江産業経済研究院調査では、17年9月末時点で、銀行監督委統計で全国に1.1万以上あったとされる融資平台のうち、2498がすでに閉鎖された。ただこれは表向きの話で、実際にはなお地方政府に代わって資金調達を続けている平台や、銀行監督委統計に含まれていない新設平台がかなりあるもようだ。

 

国家金融発展実験室が2018年9月に発表した「中国去杠杆報告2018年第2季度」(注2)は17年〜18年上期、

 

①融資平台、PPP関連隠性債務の増加速度が鈍化

②政府資金によるインフラ投資が減速

③隠性債務の資金源であるシャドーバンキング(影子銀行)規模が全体として縮小

 

したことなどから、隠性債務の減少傾向が見られているとし、引き続き「裏口を塞ぐ(隠性債務を取り締まる)」一方で、「多くの表玄関を広く開放する(正規の資金調達手段をより広く認めていく)」ことを通じて隠性債務を縮小し、顕性債務を適切に増加させる必要があるとしている。

 

(注2)「去杠杆」は中国語でレバレッジ解消、つまり高債務依存からの脱却を意味する。「去庫存(住宅在庫解消)」「去産能(過剰生産能力解消)」「一降成本(コスト引き下げ)」「一補短板(弱い部分を補強)と合わせ、「三去一降一補」として習近平政権の政策キャッチフレーズになっている。

 

 

2018年7月、中国当局は「調査チーム」を立ち上げ

他方で、審計署が同月発表した「2018年第2四半期国家重大政策実施状況フォローアップ審査報告」では、地方でなお隠性債務の積み上げが続いていることが確認されている。

 

具体的には黒龍江省等6省管轄下の9市県で15年1月〜18年8月、総額88.63億元の隠性債務があり、その大半は17年下期〜18年第一四半期に発生、18年12月報告でも、4つの省下の4地区で新たに30億元の違法債務が発覚したとされている。

 

しかもこれらは氷山の一角にすぎないとの認識が一般的で(18年9月26日付南華早報)、また現状、地方政府は隠性債務に対する中央の管理が強化される一方で、米国との貿易摩擦などから成長率が鈍化する中でインフラ投資を活発化させることも期待されているというジレンマに陥っている。

 

最近の動きとしては2018年7月、中国当局は棚改債務、PPP方式、資金フローの状況を中心に隠性債務の実態を把握し、違法行為を抑え、債務の陽光化を進めるため、財政部や発展改革委など関連部門からなる調査チームを立ち上げた。また8月、党・国務院が隠性債務の範囲や基準、債務リスクへの対応などをまとめた「意見」を地方政府に発出し、湖北、甘粛、河南など多くの省がその「学習」を始めた(18年8月15日付第一財経)。

 

財政部はすでに毎月、地方政府全体の債券発行状況と(顕性)債務残高を公表しているが、隠性債務についても10月初、「地方政府債務統計監測工作方案」「財政部地方全口径債務清査統計填報説明」「政府隠性債務認定細則」を相次いで発出し、各地方政府に対し、これら文書で示された規範に従って、8月末時点の隠性債務残高や資産などの数値を財政部が設立した「地方全口径債務監測平台」に報告(填報)することを求めており、すでにいくつかの地方政府が報告を始めているという(18年10月10日付地元各誌)。

 

この他、政府系シンクタンクの財政専門家から、取締り強化だけでなく、例えば、中央政府から地方政府への転移支付と呼ばれる歳入移転や融資平台の資産処分を通じて地方政府債務の削減を図ること(財政部財政科学研究院)、地方財政に破産制度を導入することによって地方政府に警鐘を鳴らし、その行為の規律を高めること(人民銀行研究局)などの提言も出されている。実際、財政部はすでに14年に作成した地方債務課題研究報告という内部検討文書の中で、破産法策定のアイデアに言及したことがあるという。

 

 

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