1.概観
【トピックス】
(1)ドル円の値幅が年々縮小している理由
(2)日米株価急落のなかで冷静にみておきたいポイント
【株式】
米国の株式市場は、米中関係悪化への警戒感やトランプ大統領の政権運営に対する不透明感の高まり、それらを受けた景気後退懸念から下落しました。欧州の株式市場は、域内の政局や米中貿易摩擦問題に対する懸念が強まるなか、主要各国における景気指標が下振れしたこと等を受け下落しました。日本の株式市場は、米中関係の悪化懸念、それを受けた米株式市場の下落に加え、為替が円高に進んだこと等から下落しました。
【債券】
米国、欧州をはじめとする主要国の長期金利は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ路線堅持の姿勢を明確にしたことで、米国経済の先行きに対する不透明感が強まり、株価や原油価格が下落したこと等により低下しました。リスク回避の流れの中で、社債と国債の利回り格差は拡大しました。
【為替】
12月は円が、米ドルやユーロといった主要通貨に対して上昇しました。世界経済の減速懸念や世界的な株安等に伴い、安全資産である円に対する需要が強まったためです。米ドルの対円レートは年末に109.69円と、半年振りに110円を割り込みました。
【商品】
原油先物価格は、石油輸出国機構(OPEC)の協調減産合意はあったものの、供給過剰感が払拭されず、急落しました。
12月の市場動向
2.トピックス
(1)ドル円の値幅が年々縮小している理由
<注目点>
2018年のドル円相場を振り返ると、12月25日時点において、年初来安値(ドルの安値、円の高値)は3月26日につけた1ドル=104円56銭水準で、年初来高値(ドルの高値、円の安値)は10月4日につけた1ドル=114円55銭水準です。値幅は9円99銭と、わずかに10円を割り込んでいます。今年の金融市場では、貿易問題を巡る米中の対立などでリスク回避の動きが目立ったことを踏まえると、意外に小さい印象です。
<ポイント>
実際、ドル円の値幅の小さい順に並べると、9円99銭は過去46年間で最も小さいことが分かります。さらに、値幅の大きい右列には1970年代、1980年代、その次に値幅の大きい中央列には1990年代、2000年代、相対的に値幅の小さい左列には2000年代、2010年代が多く分布し、ドル円の値幅が年々縮小していることを明示しています。また、値幅の小ささの1位から6位は、5位の2006年を除き、2010年代に集中しています。これはドル円の年間の値幅が、ここ数年で10円程度でおさまることが多くなったということを示しています。その理由として、市場がリスクオフ(回避)に傾いた場合には米ドルや日本円が買われ、リスクオン(選好)に転じた場合には米ドルや日本円が売られるなど、両通貨は近年、同じ方向に動く傾向が強まったためと考えられます。リスクオフで米ドルが買われるのは基軸通貨であることが主因ですが、日本円が買われやすいのは、日本が対外純債権国であることが影響しています。日本の対外純資産残高は2017年末で約328兆円と世界一です。日本の投資家がリスクを回避して世界に投資した資金を日本に戻せば円高要因となります。また、実際に戻さなくても、その思惑だけで為替は円高に振れます。つまり、時間の経過とともに日本の対外純資産が積み上がって、日本円が米ドルと同じ方向に動くようになり、その結果、ドル円の値幅が縮小したと解釈できます。
主要通貨の対米ドル変化率
過去46年間のドル円の年間値幅
(2)日米株価急落のなかで冷静にみておきたいポイント
<現状>
2018年12月24日の米国株式市場で、ダウ工業株30種平均は前週末比653ドル17セント、率にして2.9%安の21,792ドル20セントで取引を終えました。また、S&P500種株価指数も同65.52ポイント、同2.7%安で引け、9月高値からの下落率が20%に達したことで、「弱気相場」入りとなりました。背景には、米政府機関閉鎖の長期化や金融市場の安定性に対する投資家の懸念があると思われます。
<ポイント>
もっとも、米国において2019会計年度の予算は約65%が成立済みで、国防総省など重要省庁は十分な予算を確保しています。閉鎖が1週間続いた場合のGDPに対する影響が年率▲0.025%から同▲0.05%程度と試算されることを踏まえると、米国経済への影響は軽微と考えられます。したがって、米政府機関閉鎖の長期化を懸念した株安は、やはり行き過ぎと思われます。さらに、米民間金融機関がFRBに預け入れる準備預金のうち、法律で定められている以上の残高、すなわち超過準備預金残高は、直近で約1.6兆ドルにのぼります。つまり、米民間金融機関は潤沢な余剰資金を保有しているわけであり、金融市場の安定性を懸念した株安もまた、行き過ぎと考えられます。米株安の流れを受けて、12月25日の日経平均株価は節目の20,000円を割り込んで大きく下落しました。米国や日本など主要国の株価指数は、世界的な景気悪化のシナリオを急速に織り込んだと思われます。ただ、日本株については、海外勢による巨額の先物売りや現物売りで需給が大きく歪んでおり、これも株価の重石になっています。現時点で注目しておきたいのは、日経平均株価の株価純資産倍率(PBR)です。12月21日時点のPBRは前期の純資産基準で1.04倍でした。PBRの1倍割れは株価が純資産の価値を下回ことを意味します。現時点で日経平均株価のPBRが1倍となる水準は約19,390円です。一時的に1倍を割り込む株安も想定されますが、この辺りがひとつの下値の目安になるのではないかとみています。
日米主要株価指数の動き
米民間金融機関の超過準備預金残高
(2019年1月9日)