不動産のなかでも、タワーマンションの購入には大きな節税効果があるといわれており、行きすぎた「タワマン節税」に税務当局が対策に乗り出すほど注目を集めています。なぜ、そんなにもタワーマンションには節税効果があるのでしょうか。本記事では、その理由を改めて解説していきます。

土地の共有者が多く、物件の価値に占める割合が低い

◆そもそも、相続税における不動産購入の効果とは?

 

相続税において、土地は「路線価」で評価されるのが原則です。路線価は、だいたい時価の70%から80%程度で計算されます。つまり、1億円を現金で持っていれば、当然1億円のままですが、1億円で土地を購入した場合、8,000万円と評価されることになります。

 

相続税の計算上、2,000万円を評価減することができるのです。また、建物は「固定資産税評価額」で評価され、建設費用の50%から70%程度で見積もられます。

 

◆タワーマンションに大きな節税効果があるからくり 

 

不動産のなかでも、タワーマンションには大きな節税効果があるといわれています。なぜなら、土地の共有者が多く存在し、マンションの価値に占める土地の割合が低いからです。

 

まず、100㎡の土地(時価1億円)に平屋の一軒家が建っている場合、その土地は1億円×80%(路線価)=8,000万円で評価されます。

 

では、40階建てのマンションが建っている場合を考えてみましょう。話を単純化するため、1階ごとに1部屋ずつのみ存在しているとします。マンション1部屋当たりの土地の評価は、1億円×80%(路線価)÷40(部屋)=200万円で評価されます。8,000万円と200万円では、大きな差になります。

 

もちろん、不動産の評価には、土地だけではなく建物の評価も含まれます。そのため実際は、上記のような結果になりません。とはいえ、タワーマンションに大きな節税効果があることがご理解いただけたのではないでしょうか。

 

◆高層階と低層階の相違 

 

マンションの土地や建物の評価は、専有面積が同じであれば、高層階でも低層階でも変わりません。つまり、さきほどの例において、土地の評価は1階も40階も同じ200万円になります。仮に、建物の評価が1階も40階も1,800万円だったとすると、マンション全体(土地+建物)の評価は2,000万円です。

 

しかしながら、通常1階と40階を比べたとき、販売価格が高いのは40階です。たとえば、1階が5,000万円で40階が1億円で販売されていたとします。1階を購入すると60%の評価減となるのに対して、40階を購入すると80%の評価減となるのです。つまり、高層階を購入したほうが節税効果は高いのです。

 

◆タワマン節税が封じられる? 

 

「税務当局が行きすぎたタワマン節税に業を煮やし、タワマン節税封じを検討している」と話題になりましたが、平成29年度税制改正において、新築高層マンションは「高層階と低層階で固定資産税を調整する」ということに落ち着きました。タワマン節税そのものが否定されたわけではありません。しかも、その調整額は、高層階と低層階でせいぜい±5%程度であり、軽微な影響にとどまります。

必ずしも節税につながるとは限らない!?

◆タワマン節税の落とし穴

 

ここまでの説明で「相続税を節税できるのであれば、どんどんタワーマンションを買おう」と考えられたかもしれませんが、その判断は性急です。節税目的で購入する場合、以下のようなリスクを考慮し、慎重に進める必要があります。

 

①評価減が必ずしも節税につながるとは限らない

 

さきほどの例のように、40階のタワーマンションを1億円で購入し、その相続税上の評価額が2,000万円だった場合を考えてみましょう。これは、相続税を8,000万円節約できることを意味しません。あくまで、「評価額が8,000万円低減される」ということです。つまり、相続税上の節税額は、8,000万円に相続税率(10%~55%で相続財産の金額により異なります)を乗じた金額になります。

 

そもそも、相続財産が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。また、配偶者控除の制度などを利用した場合、相続税がかからないこともあります。

 

②租税回避行為と認定される可能性がある

 

被相続人が亡くなる前日にタワーマンションを購入し、亡くなった翌日に売却した場合を考えてみましょう。タワーマンションの売買は、相続税を免れるための行為であることが明らかです。このようなケースでは、総則6項によって評価額が購入価額などに修正されることは確実です。

 

総則6項(財産評価基本通達 第1章総則6項)では、以下のように規定されています。

 

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」

 

これは、税法や税務当局の通達が、当初想定していなかった悪質な租税回避行為を摘発して、課税の公平を確保することが狙いです。

 

さきほどの例で、購入が亡くなる1ヵ月前ならどうでしょうか、1年前ではどうでしょうか。グレーゾーンであり、解釈の介入する余地があります。購入や売却の時期以外に、被相続人の居住実績の有無などの要素も検討の対象になります。

 

さきほど、「◆タワマン節税が封じられる?」で、タワマン節税そのものが否定されたわけではないと説明しました。しかし、今後はタワマン節税への税務当局の監視の目は厳しくなり、税務調査も強化されることでしょう。租税回避行為と認定され、総則6項が適用されるリスクは高まっているのです。

 

③不動産取引そのもので損をする可能性がある 

 

節税を目的として、タワーマンションの40階を1億円で購入したとしましょう。その後、購入した物件が7,000万円に値下がりするといったことは現実に起こり得ます。これでは、相続税の節税効果は値下がりによって相殺されてしまいます。

 

逆に、不動産の値上がり益を享受できるケースもあります。この場合、節税効果と値上り益で一石二鳥ですが、今後の不動産価格の動向など誰にもわかりません。というより、人口減少を考えると、不動産価格が上昇するのか甚だ疑問です。

 

また、「相続対策」という名目のもと、資産家の足下をみて、相場よりも高値で物件を持ち込んでくる業者もいます。たとえば、時価7,000万円が相場の物件を「相続税が節約できる」と説明し、1億円で販売するケースです。そのような物件は、当然7,000万円でしか売却できません。相場の値下がりを待つまでもなく、購入時点ですでに3,000万円の値下がり損を背負ってしまうのです。

 

「相続税が節税できる」というのは嘘ではありませんが、そのメリットは物件自体の値下がり損でふっ飛びます。物件自体の価値を精査せず、「相続対策」という言葉だけに安直に飛びついてしまうと、思わぬ損失を被ってしまうのです。

 

 

貝井 英則

貝井経営会計事務所 代表

 

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