相続や事業承継に関わる問題の多くは「話し合い」で解決できます。それぞれの想いをしっかりと伝えることが、難しい法律の解釈や複雑なスキームよりも、有効な解決手段となるのです。本記事では事例に基づき、相続・事業承継に関して当事者の「話し合い」がいかに重要であるかを見ていきます。そのうえで、税理士をいかに活用していくか、参考にしてください。

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相続を複雑化させる「コミュニケーションの欠如」

ニュースやワイドショーを見ていると「コミュニケーションの欠如」が原因のトラブルが多いなと感じます。「あえて口に出さなくても、相手はきっと理解してくれている」というような考えが、思わぬ問題を招いているのかもしれません。

 

相続や事業承継でも、同じように「ちゃんと話せばよかったのに」という場面が多くあります。

 

つい先日、筆者の事務所に相談に来た方の話です。

 

「父の住んでいる土地に、姉が自分名義の賃貸併用住宅を建築しようとしています。父が所有している財産は、ほぼこの土地だけです。将来、父が亡くなった場合、姉が賃貸住宅を建てた土地は姉が相続することになるでしょう。このままでは、姉に父の財産を独り占めされてしまうのではないですか?」

 

民法では、法定相続分の2分の1を遺留分として相続人に保障しています。仮に、父が「姉にすべての財産を相続させる」という遺言書を作成しても、相談者にとっては自己の遺留分を侵害されているため、遺留分の減殺を請求することができます。つまり、民法では「僕の取り分が少ないから返してよ!」と相手に請求することができるのです。

 

ただ、ここまでやってしまうと「相続」が「争続」になってしまい、穏やかではありません。筆者は、相談者に「お姉様が財産を独り占めしようとしているかは、まだわからないじゃないですか。お父様だって別の考えがあるかもしれません。そもそも、お父様もまだまだ元気なのですから、ご自身の考えも二人に伝えてみたらいかがでしょうか」と返答しました。

 

相談者は、「お金の話、まして相続や遺言などといった話は切り出しづらい」とか「突然そんな話をしたらどう思うだろうか」などと渋っています。ですので、「そんなかしこまらず、年末年始に軽くお酒でも飲みながら、話してみたらどうですか?」とあまり役に立たないようなアドバイスをして、相談者を見送りました。

 

相続や事業承継に関わる問題の多くは「話し合い」で解決できると考えています。実際、筆者の事務所では、相続税の申告手続きの際、税額の計算よりも遺産分割協議に多くの時間を割いています。お父さんの想い、お母さんの想い、子供の想い、それぞれお互い納得して遺産の分割をしてもらっています。相続や事業承継において「話し合い」は、難しい法律の解釈や複雑なスキームよりもずっと効き目のある解決手段なのです。

突然の事業承継で、途方に暮れる後継者も多いが…

筆者は、数年前から公的機関の仕事で、地域の中小企業の事業承継のお手伝いをしています。事業承継が必要な会社に伺い、社長から会社の現況をヒアリングし、事業承継に関する問題点や進め方などを対象企業にフィードバックする仕事です。

 

一例としてあげたいのが、2年前に訪問した金属加工業の会社です。60代半ばの社長が創業から守ってきた会社は、奥様と30代の息子が従業員の家族経営でした。社長はまだ現役バリバリで、経営の意思決定など重要なことは家族に相談せず、ひとりで決めている様子でした。そのような社長ですから、事業承継のことをアタマではわかっていても、「まだまだ先のこと」と、あまり真剣な対応ではありませんでした。

 

決して積極的ではない社長を、「(公的機関に)頼まれたから」と何とか説得し、フィードバックシートを作成しました。そこには、社長が会社を起業した経緯や、これまで歩んできた歴史、強み、弱み、これからの会社の方向性など財務的な内容だけでなく非財務的な内容も記載しました。

 

そして、つい先日のことです。当時、この会社のお手伝いに携わってくれた公的機関の担当者に偶然再会し、「あの社長、つい数ヵ月前に突然お亡くなりになりました」と報告を受けました。社長は職人気質の頑固親父です。もともと口数が少ないですから、後継者である息子さんにご自身の考えや会社のことなどほとんど話すことなく、亡くなってしまったようです。

 

残された息子さんも、これまで現場作業はやってきましたが、会社の経営はまったくわからず、途方に暮れていました。その時、たまたま訃報を知った担当者が、例のフィードバックシートのコピーを息子さんに渡してくださったのです。息子さんは、会社の歴史やお父さんの想いを知れたとのことで、担当者に「あのフィードバックシートがあって助かりました」と話していたようです。

 

今回のように、突然の事業承継となり、何の手掛かりもなく会社を継ぐ後継者が多いのではないでしょうか。社長の会社への考え、どのように経営をしてきたかなど、顧問税理士を交えてでも、事前にお話しをしておくべきです。

 

さて、お正月です。せっかく家族が皆集まるいい機会です。少しお酒も入ったところで、あまりかしこまらずに相続や事業承継のこと、お話ししてみてはいかがでしょうか。

 

 

田尻 重暁

税理士法人田尻会計 税理士

 

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