創業期…助成金を申請するためにも「労働環境整備」を
創業当初は従業員が少ないため、多くの経営者は「同業他社の就業規則をそのままコピーした」または「自社に合うように少し手を加えた」程度の就業規則しか用意していません。
厚生労働省の助成金の中には、創業時や創業間もない時期に活用できる制度がいくつかありますが、どれも従業員の労働環境の改善を目的としていて、「就業規則」と「賃金規定」が正しく整備されていることが前提となります。
助成金を申請した会社は、労働局に以下の3点を厳しくチェックされます。
①「労働関係諸法令を遵守しているか?」
●労働基本法
●雇用保険法
●育児・介護休業法
●健康保険法、厚生年金保険法
●職業安定法など
②「改正法に対応しているか?」
●高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
●労働契約法
●障害者雇用促進法など
③「従業員に適正な給与を支給しているか?」
●時間外労働、休日労働に対する給与の支給
●雇用契約と給与支給額との関係など
助成金の種類に応じてそれぞれの条件を満たしていないと、助成金の申請ができません。
申請が通っても、あとから不備が発見されると受給できなくなったり、助成金の返還を求められることもあります。
「同業他社の就業規則をそのままコピーした就業規則」は論外ですが、そうでなくとも、社労士に作成を依頼していない就業規則・賃金規定では、①〜③の必要な受給要件を満たしていない可能性が極めて高くなります。
厚生労働省の助成金を申請する際は、必ず事前に社労士に相談をして、就業規則と賃金規定を整備しておきましょう。
また、現在、助成金を申請する予定がなくても、就業規則や賃金規定が労働関係諸法令に違反している場合は、将来的に労働問題が発生する可能性があります。
労務関係は専門家でなければ、わからない部分が多いため、なるべく早いうちに社労士に相談することをオススメします。
成長期…積極的に融資を受け、返済実績を増やす
自社の商品・サービスの知名度が上がり、新規顧客がどんどん増えて、売上が右肩上がりになると、導入期と比べて資金繰りがぐっとラクになります。
このとき、たとえ資金調達が必要でなくとも、できるだけ融資を申し込んでおきましょう。
「資金繰りに余裕があるのに、どうして借金をしなければならないのか?」
「やっと創業資金の返済が終わったから、資金繰りに問題が発生するまでは、お金を借りたくない・・・」
その気持ち、よくわかります。しかし、それでも「あえて借金をしておく」ことが、このあとの成熟期、衰退期への備えとなるのです。
思い出してみてください。銀行はどのような会社に、積極的に融資をするのでしょうか。
ずばり「順調に利益を出して、確実に返済してくれる会社」です。
つまり、「成長期を迎えた会社」こそ、銀行にとって理想的な融資先なのです。
成長中の優良企業であれば、どの銀行もお金を貸したがります。
営業担当者が頻繁に足を運び、融資金額や金利、返済期間など、他行よりも良い条件を次々と提示してきます。
しかし、少しでも売上高の伸びが鈍くなれば、銀行は好条件を引っ込めて、急に融資を渋るようになります。「あのとき借りておけばよかった」と嘆いても、後の祭りです。だからこそ、
条件が良いうちに、借りられるだけ借りておく。
と肝に銘じておかなければいけません。
とくに成長期はライバルが多く、利益が出ていることに満足して事業拡大の努力を怠ると、あっという間に市場で落ちこぼれてしまいます。
新たな設備投資や商品開発、販路の開拓などを実現し、市場におけるシェアの最大化を図るためには、資金がいくらあっても足りないのです。
売上が伸びているときほど、多くの融資を受けておきましょう。
資金繰りに余裕があるときに、好条件で融資を受けられれば、毎月の返済もラクになります。問題なく返済を完了することで、銀行の評価アップにもつながります。
資金繰りに余裕があるうちに問題なく返済を行い、実績を増やしていく。
このことも、しっかりと覚えておきましょう。
もし、同じ格付けの会社が同時に融資を申し込んできたとき、融資をどちらに実行するかは「定性評価」、すなわち、経営者としての能力、過去の返済履歴、将来性などが大きく影響します。
初めて融資を申し込んできた未知の企業よりも、これまで何度か融資を行い、大きな問題もなく返済してきた企業のほうが安心してお金を貸せる、と思うのは、ごく自然なことです。
条件が良いうちに、借りられるだけ借りておく。
資金繰りに余裕があるうちに問題なく返済を行い、実績を増やしていく。
これは成長期の経営者にしかできないことです。
広瀬 元義
株式会社アックスコンサルティング 代表取締役