お金持ちは「資産」だけでなく「時間」も分散している
分散投資という場合、株式と債券といった投資対象の分散、国内市場と海外市場といった投資地域の分散など「資産クラスの分散」だけが大切なのではありません。もうひとつの分散投資、すなわち「時間分散」も重要です。
時間分散投資とは、株式や投資信託などリスク商品に投資をする際、すべてを一度に購入するのではなく、複数回に分けることで、購入価格を平均化して投資リスクを分散することです。これは、大失敗を避けるために有効な方法だといえます。
これら2つの分散投資は、まとまった資金をもっている人にも、これから資産を築いていこうと考えている人にも有効な手段です。
最近は、少額資金の積立てが可能な投資信託もたくさんあります。インターネット証券会社の場合、それこそ500円からの積立てをすることもできます。これなら、たとえば3000円を6つのファンドに、毎月一定金額ずつ分散して投資することもできるのです。
ところで、時間分散の話をすると、多くの人は購入するときの分散ばかりを考えてしまいがちですが、解約するときにも効果があります。そもそも資産形成している目的は、どこかのタイミングから、資産を取り崩して使っていくためでしょう。購入するときと同様、解約をする場合にも、どのタイミングがいちばん得なのかは誰にもわかりませんから、複数回に分けて売却することが有効なのです。
投資では「買う」タイミングよりも「売る」タイミングのほうがむずかしいといわれています。いつどういった時期に投資から引き上げるか悩むよりは、築き上げた資産を定期的に売却していくことで、タイミングを間違えたと後で悔しい思いをするような状況も回避できます。
自身で半年おき、3か月おきなどに手続きをしてもかまいませんし、一部の証券会社では「定期売却サービス」を用意しているところもあります。これは積立投資とは反対に、保有している投資信託を毎月一定の金額で自動的に少しずつ解約してくれるサービスです。
お金持ちは「ここぞ」というときにしか動かない
それなりの資産をもっている人は、お金の動かし方にメリハリがあります。外資系の銀行に在籍していたときの話ですが、「ここぞというときにしか動かない」お客さまが何人もいました。
普段は、こちらから連絡をして商品について話をしようとしても、まったく興味がないような様子なので、積極的に提案することもとくにないような付き合い方でした。しかし、2008年にリーマンショックが起こり、米国株が大暴落したあたりから、あるお客さまがまとまった資金で米国の株式投資信託を何度かに分けて買い始めたのです。
2008年、2009年といえば、世界の金融市場が混乱している最中で、それこそ米国経済は100年に1回あるかないかの大混乱に陥ったといわれた時期です。このお客さまは、「そうはいっても、まあ下げ過ぎだろう」という程度の感覚だったのかもしれませんが、このときに買った投資信託をいまも保有し続けているとしたら、何倍にもなっているはずです。
こういうお客さまは、マーケットが大きく崩れたときに決してあわてたりしません。むしろそういうときには、「チャンス」とばかり、下落局面を楽しむかのように淡々と買っていけるのです。そのような対応ができるのは、長期の運用方針がしっかり定まっていて、チャンスがくれば買っていこうという準備ができているからです。
何もせず手元に資金を残しておくことは、効率が悪いかもしれません。しかし、「儲け損なうよりも、変なタイミングで投資して失敗してしまうことを避けよう」という発想が非常に重要なのだと思います。
一方で、普段から営業担当者からの提案を受けながら頻繁に取引しているお客さまのなかには、暴落を見て不安になり、資産運用をやめてしまおうかと狼狽しているようなケースもよくあります。それは、長期的な資産運用計画もなく、目先のリターンを追求しながら、いきあたりばったりな資産運用に取り組んでいるからだと思います。
営業マンの言うことには耳を傾けずに、大胆な取引を淡々と進めることができるのは、いつも平常心でいながら、準備ができているからでしょう。
大多数の普通の人は、リーマンショックのような大暴落に直面すると、まず恐怖に駆られます。本来、許容できる範囲を超えたリスクを背負っているからです。そして、株価の下落スピードが上がるにつれて、自分の資産もどんどん目減りしていく恐怖に耐えられずに、あわてて売却してしまうのです。
しかし、本当のお金持ちになれるような人は、大底や天井で大多数の普通の人と逆に動けるのです。いつも平常心でいますから、株価が上昇してお祭り騒ぎになっていく局面で、徐々に売却して自分の投資残高を縮小しています。反対に株価が大きく下げていく局面では、チャンスを見極めるだけの余裕があるのです。
多くの人にとって、同様のことを実践するのはかなりむずかしいかもしれません。しかし、いつも平常心をもち、動くべきときには動くというメリハリのある運用術は、大いに参考にすべきだと思います。