本記事では、絵画の売買において、意外な絵に高値が付く理由を解説します。

アートメーターでは基本的に、大きさによって絵画に値付けを行っています。画家の販売実績によって1㎠あたりの価格が決まっていて、たとえば1㎠あたり5円の画家であれば、10㎝ × 10㎝ = 100㎠の絵は500円といった具合です。

 

絵画の芸術的価値を考えず、測り売りするなんて信じられない! と感じる人もいるかもしれませんが、基本的にはプロの画家であっても、最初に売り出される時(プライマリー・マーケット)の価格は、大きさによる測り売りと昔から決まっています。違うのは、面積に対してどれだけの価格を乗数とするか、の部分です。

 

たとえば、絵画の大きさとしてよく使われるのは号数です。1号は、大体22㎝ × 14㎝(フランスサイズ)です。ちなみに私の画廊で最もよく売れるサイズは8号で、これは46㎝×33㎝になります。日本の家では、このくらいのサイズが、壁に掛けた時にちょうどいいようです。

 

絵画の小売価格は、画家本人、あるいは契約画商と話し合って決めた号当たりの発表価格に、画家それぞれの号数を掛けたものです。たとえば、号単価5万円の画家であれば、10号の絵は基本的には50万円になります。ただし4号以下の作品は割高に、15号以上の大作は割安になるように設定されるのが一般的です。

 

つまり、描かれている内容とは関係なく、大きさによって価格が決まるのです。

 

[図表]洋画号数寸法表(日仏比較)

 

 

ちなみに細かいことをいえば、号数の数字だけで、大きさがすぐにわかるものではありません。たとえば1号は22㎝ × 14㎝ですが、2号は24㎝ × 16㎝です。号数が2倍になったからといって、サイズも2倍というわけではないのです。

画家本人は資産価値を見抜くことができないだけに・・・

また、同じ号数でもキャンバスの形によって少しずつ違いがあります。たとえば0号の絵画は基本的には18㎝ × 12㎝(日本サイズ)ですが、人物を描くようなキャンバスの場合、正方形に近くなるので18㎝ × 14㎝になります。また、海など横に長い景色を描く場合のキャンバスは横長で18㎝ × 10㎝になります。これらはいずれも0号として扱われます。

 

また、号数はもともとフランスで作られたもので㎝が基準になっていますが、明治時代にその概念が日本に輸入された際に、尺貫法に直されたため、日本の号数とフランスの号数との間に若干の誤差が生じてしまったようです。たとえば、フランスにおける60号は130㎝ × 89㎝ですが、日本の60号は130・3㎝ × 89・5㎝になります。

 

もちろん、実際の絵画の価値や、その絵画が売れるか売れないかは、描かれているモチーフや色調などによって異なります。しかし、描いた画家本人がその資産的価値を見抜くことはできません。画家にとっては、どの絵も等しく大事な作品だからです。ですから、描かれているモチーフとは無関係に、大きさで一律に価格がつけられるのです。

 

逆に言えば、絵画を取り扱う画商は、個々の作品の資産的価値を見抜いて仕入れる必要があります。同じ大きさで同じ価格がつけられている絵画の中から、売れるものを選び抜いて購入する――私も日々そういった仕事をしています。

絵画市場と株式市場の「類似点」

先述のとおり、現存の画家が新作を発表して売り出す時の市場を、プライマリー・マーケット(一次市場)と呼びます。この時の価格は、画家本人、あるいは契約画廊と画家が話し合って決めた号単価に号数を掛けたものとなります。ですから、無名の画家の新作などを、画家自身が発表当時に開催した個展などで買う場合には、比較的安価に手に入れることができます。将来その画家の作品の価値が高まれば安い買い物だったことになるでしょう。

 

一度でも画家から他の人の手に渡った絵画は、セカンダリー・マーケット(二次市場)と呼ばれる、プライマリーとはまったく異なる論理で取引される場に移ります。セカンダリー・マーケットとは、一度、画家の手元を離れて画商やお客様の手に渡った美術品が、何らかの理由で再び売りに出された時の市場を指します。この場合、個人間売買という場合もあるかもしれませんが、一般的には絵の所有者が画商に買い取ってもらったり、あるいは画商に委託したりして転売されます。また、高額の人気作品であれば、オークション会社で競売にかけて売られることもあります。

 

私が画廊で取り扱っている絵画も、その過半数がセカンダリーの商品です。ですから、その時々の需要と供給によって価格が変動することもあります。セカンダリーにおける価格は、オークションに代表されるように、市場の需要と供給によって決定されます。つまり、その画家の人気が高く、にもかかわらず存在する絵の枚数が少ない時には、ほしがる人が争って購入しますから、価格は天文学的に高くなります。

 

ちなみに、セカンダリー・マーケットでどんなに高額で落札されたとしても、画家のもとには1銭も入りません。フランスなどでは、オークションでの転売においても、著作権者である画家のもとに一定の割合で利益を分配するルールがあるそうですが、その金額も全体から見ればごくわずかです。

 

これは株式市場とちょっと似ています。株式会社の上場時に株をマーケットに放出した株主はプライマリーでの収入を得ますが、その後、どれだけ市場で株が売買されても、その取引による利益を得ることはできません。

 

 

髙橋 芳郎

株式会社ブリュッケ 代表取締役

 

本連載は、2017年4月28日刊行の書籍『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画 』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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