2018年10月25日に米トランプ政権が高齢者および障がい者を対象とした公的医療保険制度であるメディケアに対する薬価抑制策を発表しました。医薬品企業にとってはポジティブなニュースではありませんが、世界の処方薬の売上高の規模を考えると、今回の薬価抑制策による売上の減少はあまり大きなものではないと考えます。
米トランプ政権、メディケアにおける薬価引き下げ案を発表
2018年10月25日、米トランプ政権は薬価抑制策を発表しました。今回の抑制策は、高齢者および障がい者を対象とした公的医療保険制度であるメディケア・パートBが負担している医薬品のコストを引き下げることを提案しています。
メディケア・パートBは、「医者、検査、医療機器、外来診療などの医療サービス及び医療用品を負担」するプログラムです。医薬品の場合は主に病院で投与される医薬品が支払い対象となっており、支払い上位には加齢黄班変性、骨粗しょう症など高齢になると罹患者が増える疾患やがんなどの治療薬(多くがバイオ医薬品)が並んでいます。
今回の抑制案では、一部の医薬品に対するメディケア・パートBからの支払い額を米国以外の先進国16ヵ国の価格からなる国際薬価指数に基づいて決定することで、他国の薬価の約1.8倍となっているメディケアの支払い価格の抑制につなげるとしています。
また、中間業者を積極的に活用し、中間業者が購入した医薬品を病院に必要な量を提供することで、中間業者と医薬品企業の協議によりメディケアが支払う額の抑制につなげる他、現在、医薬品価格プラス6%がメディケアから病院や医師に支払われている医薬品の費用を定額にすることで、高額の医薬品の処方を抑え、医薬品企業が薬価を高めに設定するインセンティブを取り除くなどの策も発表されています。
今回のメディケアにおける薬価抑制策の発表は、明らかに医薬品業界にとってはポジティブなニュースではありませんが、現時点ではどのような影響があるかについては、はっきりしていません。
米国内外での価格差が大きい高齢者に多い疾患に関する医薬品を提供する医薬品企業は影響が大きくなる可能性があると考えます。
今後の導入方法に注目
現時点で考慮すべき重要な点は、これらの新しい方策の導入についてです。トランプ政権のスタッフは、2019年春に規定案を公表し、2020年からの5年間で段階的に導入することを意図しています。また国の一部の地域だけでもまず新しい方策についてテスト導入する必要があります。
導入のスピードがゆっくりとしたものになることで、医薬品企業は、新しい方策から受ける影響を軽減することになり、さらに変更点がすべて導入されない可能性を高めます。また既にこれらの規制に対抗してロビー活動が開始されており、導入のための法的および政治的な手法ははっきりしていません。
バイオシミラー(バイオ後続品)にとってプラスとなる可能性
今回公表された抑制策により、医師にとってより高額なブランド医薬品(バイオシミラーの元となるバイオ医薬品)を優先して取り扱うことによる金銭的なメリットがなくなり、今後、バイオシミラーの導入が促進される可能性があると考えます。
バイオシミラーについては、元となるバイオ医薬品の構造が複雑なことから正確なコピーを作製することは不可能で、独自の設備や製造方法などが必要になるなど製造には高い技術が必要となります。そのためジェネリック(後発)医薬品とは異なり、価格を高めに設定することができ、多くの大手の医薬品企業やバイオ医薬品企業も積極的に研究・開発を進めています。
バイオシミラーによる競合に直面するブランド医薬品を販売する医薬品企業に圧力がかかる一方で、バイオシミラーを製造する医薬品企業(バイオ医薬品企業を含む)にとっては事業拡大のチャンスとなる可能性があります。
今回の薬価抑制案を定量化すると、、、
今回、発表されたメディケアにおける薬価抑制案について、バイオ医薬品業界にとってのリスクは、以下のように定量化されると考えます。
米メディケア・メディケイド・サービス・センターが今回発表した資料によると、今回の薬価抑制プランが完全に導入されれば、今後5年間にわたり172億ドルの支払い額削減につながるとされています。
一方、2020年に世界で販売される処方薬の売上高は9,000億ドル超と予想されており、削減額が全世界の売上高に占める割合は、それほど大きくはなく、今後の動きについては冷静に見ていく必要があるでしょう。
ピクテでは、薬価の議論をかなり重要な問題で、すぐに沈静化するとは考えておらず、引き続き注視するべき課題と考えています。
このような中、ピクテではバイオ医薬品や医薬品企業の中でももっとも革新的な企業群への注目を継続する方針です。高い治療効果などのベネフィットを提供し、全体の医療費の削減につながるような経済的価値の高い医薬品を開発する企業が、魅力的な投資機会を提供するとの見方を維持します。
※将来の市場環境の変動等により、記載の内容が変更される場合があります。
(2018年11月6日)