「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
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生前に引き出した資金は、使途をしっかり確認しておく
前回(関連リンク『税務調査の「現物確認作業」…対応時の留意点は?』参照)、通帳・手帳・印鑑など、金融機関との繋がりが分かるものは税務調査前に整理しておくべきだと説明しました。では、具体的にこれらの現物のどこが問題になるのでしょうか。順番に説明しましょう。
①過去の預金について
調査官は過去の預金の流れについて、あらかじめ金融機関で情報を入手しています。期間はおよそ死亡前10年間くらいで、「ここがあやしい」というところに印をつけ、そこを重点的に確認してきます。
家族に流れているお金はないか、財産となるものを購入していないか、ちゃんと生活費として使われているものかなど、突っ込んだ質問をされるので、きちんと説明できるようにこちらも預金の動きを確認して答えを準備しておきます。
②生前の預金の引き出しについて
亡くなると銀行口座が凍結され、お金が引き出せなくなってしまうので、生前に葬儀費に充てるお金を引き出しておくというのはよくあることです。
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このこと自体は何ら問題はありません。問題になるのは、申告書にこのときに引き出したお金をきちんと財産として計上しているか、その上で葬式費用として引いているかどうかということです。
ついうっかりやってしまいがちなのが、引き出した現金を財産として計上せずに、債務や葬式費用だけを債務控除として引いてしまうということです。これは必ず指摘される部分です。
生前に引き出した現金については、まずはその使途を確認し、未使用のお金は相続財産として計上されているかどうか、事前にチェックしておきましょう。
③亡くなった人の通帳から生活費が引き出されているか
調査官は故人の通帳がきちんと生活費の口座として使われているかどうか、公共料金の引き落としなどがなされているかどうかを確認してきます。
もし、それらしい形跡がなければ、配偶者(奥さん)の通帳を見ます。そこに公共料金等の支払いが認められると「これは実質的にはご主人の通帳ですね。奥さんの名義を借りた、名義預金ではないですか」ということになるのです。
もちろんやっている方は、税金逃れをしているつもりは毛頭ありません。ただ、日頃、お財布を握っている奥さんが管理しやすいよう、自分名義の口座を作ってそこから引き落とすようにしているだけの話なのですが、こと相続に関しては「便利だからそうしたんですね」と物分かりのいいことはいってくれません。
実質的には亡き夫の通帳であり、その分がそっくり申告漏れになっているということになるのです。配偶者の税額軽減の特例の枠を使って、きちんと申告するようにしましょう。できれば生前に、夫の口座からの引き落としにするなど、対策をしておきたいものです。
その預金ができた「経緯」をしっかり説明できるか?
④年収と預金の関係について
普通に考えれば、多くの場合、年収と預金額は比例しているものです。年収が高ければ預金に回せる金額が多く、年収が少なければ預金にまでなかなか手が回らないというのが一般的な傾向です。調査官もそのような目で故人の通帳をチェックします。
年収に比べて預金が少ない場合は要注意。年収が何千万円もあるのに、預金があまりに少ないときは「これだけ収入があったわりに預金がそれほどでもないのはなぜですか? このお金はどこに行ったんですか?」と突っ込まれます。預金が少ない場合には少ない理由を説明できるようにしておきましょう。
⑤貸金庫の有無について
お金に関するものは、自宅ではなく銀行の貸金庫などに保管しているという人もいます。税務調査の際に「全部、貸金庫の中です」と答えると、調査官はその日のうちに行き、中にどんなものが入っているか現物を見て確認します。
私もお客さまには打ち合わせの段階で貸金庫を利用しているかどうかを確認し、もし利用しているようであれば、中身を確認していただき、誤解を与えるようなものがないかを整理しておくようお願いしています。
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現金や宝石、金貨があれば、調査官は直ちに申告漏れと結びつけて考えてしまいます。みなさん貸金庫までは頭が回らないようで、手つかずのまま放置しているというケースが多いですが、確実にチェックが入るところなので気をつけるようにしましょう。
なお、貸金庫を利用しているかいないかは、金融機関の記録や口座からの利用料引き落とし状況で調査官にはわかってしまいますので、利用している人は正直にその旨、答えるようにしてください。
⑥家族の通帳
これまで繰り返しご説明してきましたが、家族の預金は名義預金として申告漏れの疑いをかけられやすいものの筆頭です。無職無収入の妻に多額の預金があったり、小さい子どもや孫の名義で不相応の預金がある場合は、要注意です。
調査官は家族それぞれの名義の預金通帳を見ながら、その預金がどんなふうにできあがったものなのかを尋ねてきます。残高が多い場合や、大きなお金の動きがある場合は、しっかりと説明できるようにしておきたいものです。
特に故人の妻の預金が多い場合は、自分の親からの相続財産や自分自身の収入を上手に運用してここまで増やしました、と主張できるといいでしょう。
服部 誠
税理士法人レガート 代表社員・税理士
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