耳鳴り治療に特化している総合病院は少ない
耳鳴りは、さまざまな病気が原因になって起こります。診断の結果、原因の病気が特定できたら、当然その治療を行うことになります。
しかし、耳鳴りというのは、原因が分からないことも非常に多い症状です。それゆえに、医師から「異常はないので様子を見ましょう」「病気ではないので治しようがありません」などと、さじを投げられてしまうことがあるかもしれません。
原因不明の耳鳴りを治すには、後述するTRT療法など、本格的な取り組みが必要です。しかし、耳鳴りの本格的な治療を取り入れている総合病院は、耳鼻科の専門医院に比べれば少ないと言えるでしょう。
理由はいくつか考えられますが、大きな病院では大勢の患者さんを診療する必要があるため、耳鳴り治療のためのカウンセリングなどを、じっくりと行うことが難しいのでしょう。
そんな中、最近は慶應義塾大学や名古屋市立大学などが「耳鳴り外来」を設置して耳鳴り治療に力を入れるようになりました。他に、国立障害者リハビリセンターや済生会宇都宮病院もそうした病院の1つです。
生活困難度を測るアンケート「THI」で心の問題を探る
実は耳鳴りの診療では「カウンセリング」がとても重要な位置を占めています。
耳鳴りは、なかなか他人に分かってもらえない症状です。そのため、患者さんは一人で問題を抱えていることが少なくありません。耳鳴りが原因で「うつ」になる人もいるのは、耳鳴りに心の問題を伴う傾向があるからにほかなりません。
ストレスや不安といった心の問題を取り除くと、耳鳴りが軽減することが多いのはそのためです。
原因不明の耳鳴りを診療する際に大切なのは、聞こえる音の種類や大きさより、むしろご本人のつらさの度合い、生活困難度を評価すること。そのために使われているのが、THIというアンケート(問診票)です。
[図表]つらさの度合い、生活困難度を評価する問診票「THI」
これは、日本耳鼻咽喉科学会でも紹介している国際標準のテストで、上の図表のような25の項目について、患者さん自身に「よくある」=4点、「たまにある」=2点、「ない」=0点で回答してもらいます。その合計点から、0~18点なら「軽度」18~56点なら「中等度」、それ以上の場合は「重度」と評価します。
その結果を踏まえて、個々の患者さんのつらさを軽減していくのです。
「耳鳴り以外の症状」も大切な診断材料に
耳鼻科医の問診を受けるときは、どんな症状でも遠慮なく申し出てください。ご自身は耳鳴りに関係ないと思っている症状でも、それが診断の材料になり、処方する薬などに影響することもあるからです。
医師にとって、「どんなときに耳鳴りが起こるか」や、「ほかに気になっている症状がないか」はとても重要な情報です。
例えば、普段頭痛に悩まされていても、「耳とは関係ないから」と自分で判断してしまい、医師に伝えない人がかなりいます。しかし、片頭痛とからんだ耳鳴りだということが分かれば、より効果のある薬を処方することもできます。また、病気を特定することにつながらなくても、気になる症状を言ってもらうと、それを軽減できるように一緒に考えていくことができます。
補聴器メーカーが、常時耳鳴りを感じている人たちに聞いたアンケートでは、THI問診票にも通じますが、「体のことが心配になる」という訴えのほか、不安、イライラ、不眠など、やはり心の問題が多く挙げられています。
耳鳴りは、単なる聞こえ方の問題ではないのです。
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