▲トップへ戻る
中東の地域覇権を狙うサウジとイラン…二国の国家体制を探る

今回は、中東の地域覇権を狙うサウジとイランの国家体制について見ていきましょう。※本連載は、エネルギーアナリストとして活躍する岩瀬昇氏の著書、『超エネルギー地政学 アメリカ・ロシア・中東編』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、中東の現情勢とエネルギー戦略を探ります。

国家統治の形態がまったく異なるサウジとイランだが…

中東の地域覇権を競っているサウジとイランとは、まったく異なった国家統治の形態をとっている。

 

サウジは、1744年の「ディルイーヤの盟約」により、厳格なイスラム教ワッハーブ派を保護することの見返りに、サウド家の世俗的支配の正統性を承認してもらったことを根拠としている。フランスの外交官にして優れた伝記作家であるジャック・ブノアメシャンの言葉を借りれば、「戦士は教義を求めており、説教者は剣を求めていた」(『砂漠の豹イブン・サウド』、筑摩書房、1962年8月)のだ。

 

現在の第三次サウジ王朝になって、第5代ファハド国王の時代から、国王は「二聖モスクの守護者」の称号を使うようになった。建国以来サウジでは、一切の政治的権利を放棄し、国王に絶対忠誠を誓い、疑義を呈さずに服従する国民の生活を「揺りかごから墓場」まで王家が面倒をみるという「家産制福祉国家」として成り立っている。

 

一方のイランは、さまざまな王朝による専制支配から、1979年のイラン・イスラム革命により脱却して成立した「イラン・イスラム共和国」である。国民の選挙により大統領も国会議員も選出される制度を持つが、究極はアヤトラの称号を持つ宗教界の最高指導者により、「シャリア」と呼ばれるイスラム法に基づいて統治されている「祭政一致の神権国家」である。

 

両国に共通しているのは、国家経済を石油収入が支えているということである。

 

供給よりも先に需要がピークを迎えるという「新ピーク・オイル論」が定説となり、長期的に石油価格が右肩上がりで上昇していくことが期待できなくなっている環境下で、両国がどのように対応していくのか、非常に興味深い。

最高指導者の下、国家として機能を果たしてきたイラン

イラン・イスラム革命が発生した1979年、筆者は「三井物産」本店に勤務しており、イラン原油の輸入業務に携わっていた。旧体制派だとして追及、弾劾されることを恐れてロンドンに亡命していた元「イラン国営石油(NIOC:NationalIranianOilCompany)」幹部を招いて、日本の石油会社幹部との懇親パーティーを開催したとき、元「NIOC」幹部が次のように発言していたことが今でも強く印象に残っている。

 

「我々イラン人は、長い間、シャーの下で暮らしてきた。そもそもイラン人というものは、上から重い石のようなもので押さえつけられていないと、自分勝手に振る舞い、国家としてまとまった行動はできない民族だ。シャーという重石がなくなった今、イランが国家としてまとまっていけるのかどうか、自分は非常に心配している」。

 

あれから39年、歴史を振り返れば、シャーに代わる「最高指導者」という新たな「重石」を得て、イランは国家として十分に機能してきているといえる。

堅固に見える支配体制も、将来的な変化は不可避

前述したように、両国はまったく異なった統治形態を取っている。一見、両国とも揺るぎない統治を継続しているように見える。だが、この両国の統治形態は「永遠か」と問われたら、残念ながら「永遠」に続く「支配」はないと答えざるを得ない。如何に堅固に見える支配体制であっても、いつかは間違いなく大きな変化に見舞われる。

 

このことは、例えば、100年前の第一次世界大戦の末期、両国がどのような状態だったかを考えてみれば、容易に理解できるだろう。当時の両国の為政者たちは、100年たった今日の国家のありようを、想像すらしていなかったに違いない。

 

重要なのは、では将来どのような変化が起きるかを予測し得るか、だ。そのためにも、両国の歴史を少々おさらいしておこう。

エネルギーアナリスト

1948年、埼玉県生まれ。埼玉県立浦和高等学校、東京大学法学部卒業。1971年、三井物産に入社後、2002年より三井石油開発に出向、2010年より常務執行役員、2012年より顧問、2014年6月に退任。三井物産に入社以来、香港、台湾、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクでの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。現在は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」の代表世話人として後進の育成、講演・執筆活動を続ける。

著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』、『原油暴落の謎を解く』(以上、文春新書)。会員制国際情報サイト『新潮フォーサイト』の「エネルギーの部屋」管理人として随時情報発信中。

著者紹介

連載「百年の呪縛」脱却を目指す中東…現在の情勢とエネルギー戦略を探る

 

超エネルギー地政学 アメリカ・ロシア・中東編

超エネルギー地政学 アメリカ・ロシア・中東編

岩瀬 昇

エネルギーフォーラム

三井物産、三井石油開発に勤務した筆者が実体験を交えながらやさしく解説。日本の総合安全保障や外交政策にかかわる世界情勢と国際政治はこの一冊ですべてわかる!

 

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧