3月の全人代で、これまで2期10年とされていた国家主席の任期に関する規定を撤廃した中国。本連載では、この決定の背後に何があるのか、習政権の思惑などを探っていく。

海外のネット上で揶揄される習国家主席

中国全人代は3月、憲法序言(前文)に習近平国家主席の名を冠した「新時代中国特色社会主義」の文言を挿入し、同法79条3項の国家主席、副主席の任期を2期10年までとする規定を撤廃する修正を可決した。

 

これに先立つ2月、共産党がこの憲法改正案を建議、欧米諸国や海外中国語媒体が一斉に強い関心を示した。「中国の将来の政治軌道を変えるもの」「毛近平、習沢東、習教皇の出現」「紅色帝国の勃興」といった懸念を示す反応が大勢だった。憲法修正の背後に何があるか、修正に対する内外の反応を探る。

 

習近平主席をかつて1915年に帝政を復活させ、1916年自ら皇帝に即位した袁世凱になぞらえ、「袁二」と呼ぶ声もあり(「二」には俗語で「愚か、邪悪、横暴」といった意味もある)、袁世凱、次いで鄧小平、江沢民、胡錦濤の各氏を順番に配置し、一番右に一段と大きく描かれた習氏が逆を向いて「戻れ」と指示している様(図表1-1)、「是人民选择了我(人民が私を選んだ)」と言って嬉しそうにしている習氏の横で女性が? と白けた顔をしている風刺(図表1-2)。これは、全人代記者会見で、「全美電視台(全米TV)」と称するメディアの女性記者が長々と「我国(中国)は、、」と言いつつ、中国を持ち上げた質問をしたことに、上海第一財経の青い服を着た女性記者が「白眼」をむいて白けた表情をした映像が大きな話題になったことを材料にしたものだ。

 

 

「全美電視台」は偽海外メディアで、実態は米国を拠点とする中国共産党の宣伝機関だと言う声もある。さらに、皇帝の衣服をまとい、永遠の権力を欲するかに見えるよう習氏を描いたもの(図表1-3、1-4)等、大量の風刺画がネット上に出現する状況となった。中には、習氏と毛沢東やローマ教皇との合成写真まで出回った(朝鮮日報駐北京特派員作成として、3月13日付朝鮮日報網に掲載、その後、その他のいくつかの海外中国語メディアが転載した)。

 

[図表1-1]任期制限撤廃に関する数々の風刺画

(出所)2018年2月27日付万維傳客
(出所)2018年2月27日付万維傳客

 

[図表1-2]

(出所)2018年3月14日付自由亜洲電台普通話
(出所)2018年3月14日付自由亜洲電台普通話

[図表1-3] 

(出所)2月28日付香港蘋果日報
(出所)2月28日付香港蘋果日報

[図表1-4] 

2018目年付2月27日付万維傳客
(出所)2018目年付2月27日付万維傳客

 

中国内ネット上でも大きな議論が生じ、関連部局が「緊急措置」を発動、中国版ツイッター新浪微博で「吾皇」「登基(皇帝即位)」「不同意」「戊戌の変法」等20を超えるキーワードが「和諧」、つまり削除されたという(海外中国語媒体「中国数字時代」。なお、「和諧」は胡錦濤前国家主席時代のスローガン「和諧社会(調和のとれた社会)の建設」から、一時流行語となった用語だが、その後、ネット上では、調和や秩序を保つために「消し去る」「弾圧する」といった逆の意味で使われるようになった)。

全人代では圧倒的な賛成多数で可決

全人代での表決は国家監察委設立に関する11か所の改正も含めた憲法修正全体に対し、(電子投票でない)無記名投票で行われ、2964票のうち反対2票、棄権3票、憲法改正には3分の2以上の賛成が必要だが、圧倒的賛成多数で可決された(注)

 

(注)かつて全人代はこうした重要議案の表決において、挙手、さらには「鼓掌表決」、つまり拍手だけで決めるということが長期間にわたって行われてきた。このため海外から、全人代は「橡皮図章(ゴム印)」、「花瓶」、つまり、実質的権限のない単なる飾り物にすぎないと揶揄され、また表決結果そのものの公正性や信ぴょう性に疑問が出されてきた。

 

1980年代中期から全人代常務委員会で一部の議案について電子投票が行われるようになり、90年全人代本会議に初めて電子投票が導入された。ただなお、公開の場で反対投票のボタンを押すと、政治的報復を受けるのではないかと心配する参加者が少なからず存在した。

 

2010年全人代期間中、何人かの政治協商委員が表決時に、各自の前にある電子投票機器にふたをして、投票の際の指の動きが見えないようにすればよいとの提案を行い、一時期大きな議論を巻き起こした。いずれにせよ現在、全人代で少なからず反対票が見られることは常態化している(2013年3月2日瞭望東方周刊、18年3月6日付阿波羅新聞他)。

 

「両高」と呼ばれる最高人民法院長と人民検察院長の活動報告の表決では、近年、賛成票が増えていると言われるが、なお反対と棄権が合わせて5〜10%(図表2)、2003年、胡錦濤氏が初めて国家主席に選出された際は反対4票、棄権3票、08年再選時は反対3票、棄権5票、また03年江沢民氏が中央軍事委主席に留任した際は反対98票、棄権122票だった。

 

過去の憲法改正と比較しても、江沢民氏が提唱した「3つの代表」の文言を入れた2004年改正は反対10票、棄権17票、「鄧小平理論」「依法治国」「非公有経済、、」等を入れた1999年改正は反対21票、棄権24票で、今回は圧倒的賛成多数だった。

 

反対・棄権票についてネット上で様々な憶測が飛び交った。例えば海外中国語媒体万維TV「河辺観潮」は反対が(3票でなく)2票だったことに着目し、①当事者、あるいは当事者の1人になると見られていた習氏自身と王岐山氏、②比較的自由、独立意識の高い香港と「台湾省」の代表、③全人代の某代表2名が単純ミスした、④投票が民主的に行われたことを装うため、全人代事務局が意図的に操作したとの4つの可能性を指摘した上で、②の可能性が高いと分析しているが、真相は謎に包まれている。

 

[図表2]「両高」の全人代表決

(出所)2017年3月15日付財新網、18年3月20日付澎湃新聞
(出所)2017年3月15日付財新網、18年3月20日付澎湃新聞

 

 

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