今回は、飲食店での「ツケ」に時効があるのかを解説します。本連載は、鈴木淳巳氏が代表社員弁護士を務める弁護士法人アディーレ法律事務所の著書『弁護士が教える!小さな会社の法律トラブル対応』(あさ出版)の中から一部を抜粋し、会社経営を守るための法律知識を紹介していきます。

高額未払いのツケに対して「時効」を主張されたケース

社長の相談

 

居酒屋を経営しています。昔からのお客様には、つい「ツケ」を許してしまうことが多くあります。ほとんどのお客様は約束通りツケを精算してくれますが、なかには10万円以上のツケをため込んだまま1年以上来店されず、精算してくれない方もいます。

 

先日、ツケをため込んでいるお客様の一人に偶然出くわしたので、たまったツケを返してほしいと言ったところ、「1年以上払ってないから、もう時効だよ。払わなくていいんだ」と言われてしまいました。あまりの態度に憤りを覚えましたが、時効について私自身詳しくないのでその場はそれ以上追及できませんでした。

 

本当にもう、時効になってしまっているのでしょうか。

 

弁護士の回答

 

飲食店における売掛金の時効期間は「1年」です。残念ながら今回の場合、1年以上前のツケについては時効となってしまっており、請求することはできません。

時効完成を防ぐには「中断」という手続きが必要

弁護士の見解

 

人に何かを請求できる権利が「債権」です。債権はその種類ごとに、権利が消滅する時効期間が決められています。今回のような飲食店における飲食料については、1年の時効期間となっています。

 

そのため、今回のケースで相手方が時効を主張する以上、ツケを請求できる権利は消滅してしまい、請求することができなくなってしまいます。

 

ちなみに、旅館の宿泊料や運送費なども1年の時効期間となっており、売却した商品代金の売掛債権などは2年の時効期間となっております。

 

時効完成を防ぐためには、「中断」という手続きをとる必要があります。「中断」の手続きをとると、その段階で時効期間はリセットされ、またイチからスタートすることになります。

 

[図表]債権の時効

 

中断の方法には、いくつか種類があります。なかでも簡単なのが、「債務承認」という方法です。

 

債務承認とは、自分の義務を認めることで、今回のケースでいえばお客様自身がツケを払う義務を認める行為です。この債務承認があれば、時効期間は「ツケを認めてから1年」となります。ツケがたまってきたお客様には、自分には現在いくらのツケがありますと一筆いただいたり、店舗に訪れないお客様には電話をしてツケの存在を認めてもらい、その会話を録音するなど、「債務承認があった」と後に証明できるようにしておくことが重要です。

 

今すぐ実行!

●ツケの払いが悪いお客様には、逐一、債務承認による「中断」の手続きをとる

 

なお、本文は改正前の債権法を前提とした記載となっております(施行前のため)。次回ご紹介する通り、改正債権法が施行された後は、短期消滅時効が廃止され、「中断」制度も「更新」制度に再構築されます。

弁護士が教える! 小さな会社の法律トラブル対応

弁護士が教える! 小さな会社の法律トラブル対応

鈴木 淳己

あさ出版

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