国際格付け機関ムーディーズは昨年、中国のソブリン格付けをAa3からA1に引き下げるとともに、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)にAAAの最高格付けを付与した。本連載では、この一連の流れから、中国と国際格付け機関の関わりを探る。今回は、中国の債務膨張問題への評価について取り上げる。

企業債務全体に占める国有企業の割合は上昇傾向

中国最大のシンクタンクで国務院(日本の内閣に相当)傘下にある社会科学院の国家金融発展実験室推計によると、金融を除く実体経済部門債務対GDP比は17年9月末239%と上昇速度は緩やかになっているものの、なお上昇傾向にある。特に企業部門債務はグローバル金融危機以前、対GDP比100%以内で安定的に推移していたが、その後急上昇し、17年9月154.8%、諸外国と比べて際立って高く、リスクを警戒すべきだとしている。

 

なかでも、国有企業(国企)の企業債務全体に占める割合が上昇している(17年3月末60%から6月末62%)。金融監督強化で把握されていなかった企業債務が表面化し、また先行き経済見通し好転から、企業が借入に積極的になっている。実は、こうした中国自身の推計は、国際機関や海外シンクタンクの推計と大きくは違わず、中国当局が債務を故意に過小推計をして、問題の深刻さを隠蔽しようとしているという批判は必ずしも当たらない。

http://gentosha-go.com/articles/-/12742

 

他方で、企業債務の60%以上を占める国企は、その債務の約半分相当の手元現金、また企業預金の3分の2を持つ。企業部門の(債務-預金)/GDPは100%を切る(中金公司)。仮に問題が生じた場合、政府部門が処理する可能性が高いが、実験室によると、政府部門はなお余裕がある。

 

 

15年末債務は中央と地方を合わせ26.66兆元(GDP比39.4%)、地方融資平台を含めても56.8%、16年末37.8〜43.1%と改善、ム社格付けA級諸国の平均40%とほぼ同水準、EUが警戒水準とする60%、また多くの先進国より低い。IMFが一般政府ベース(中央・地方政府、公企業会計、社会保障基金を含む)で推計している国際比較でも、2017年、中国の債務対GDP比は47.6%、主要先進国、またロシアを除く主要新興国の中で最も低い。

 

[図表]一般政府債務対GDP比(2017年推計値)

出所:IMF World Economic Outlook(Oct.2017)より作成
出所:IMF World Economic Outlook(Oct.2017)より作成

市場評価に委ねられる、格付けの信頼性

また16年末の国家資産は241.4兆元、負債(資産負債表の右側liabilityで債務debtより広い概念)139.6元、ネット資産が101.8兆元だ。流動性の低い行政部門国有資産や国土資源性資産を差し引いても、なおネット資産20.2兆元という(なお、同じ社会科学院傘下の財経戦略研究所が17年8月公表した政府資産負債表2017では、15年末の総資産約125兆元、総負債約70兆元、純資産50〜60兆元で、実験室数値と大きな差があるが、詳細不明)。

http://gentosha-go.com/articles/-/1057

 

水準自体の適否は別にして、格付けを変更する以上、こうした点に対しての説得的な反論、またAIIBに最高格付けを付与することとの整合性をどう考えているか聞きたいところだが、格付け変更の際に、格付け機関から必ずしも十分な説明はなかった。AIIBは国際機関といっても実質中国と一体で、両者の格付けが密接に関連することは疑いないだろう。

 

また、一般に経済の高レバレッジは、債務累積→金融リスク上昇→資金調達困難→破たん→レバレッジ低下という市場作用でいわば自動調整されるが、当然この過程で大きな苦痛が発生する。中国は近年「市場機能をより重視」と言いながら、様々な改革を市場の「見えざる手」ではなく政府の「見える手」に委ねており、高レバレッジ解消も例外でない。

 

漸進的アプローチで苦痛を緩和する点で、それ自体誤りではないが、この場合、具体的な政策の中味、当局の政策実行能力、さらに言えば政治体制リスクの評価が問題となる。この点を避けて、中国の主権格付けと債務膨張の問題は議論できない。国際格付け機関は市場に大きな影響力を持つが、その信頼性は結局、市場が評価していくことになる。

 

 

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