M&Aの活用には、事業承継や規模拡大だけでなく、会社のビジョンの実現や従業員のさらなる活躍の場を広げるなど、多様なメリットがあります。本連載では、M&Aを活かした企業の成長戦略を紹介していきます。

M&Aは事業を積極的に行う手段の1つ

これまで中堅・中小企業のM&Aと言えば、事業承継のためであったり、業界再編の中で規模拡大のために行われるものがほとんどでした。

 

確かに日本の後継者の不在率は50%となっており、若年層の増加から、後継者不足は今後も深刻なものであることは純然たる事実です。レコフ社の調査によると、2016年に公表された2400件のM&Aの成約件数のうち、約300件が事業承継型と言われています。この数値は、2015年に対して20%増加していることからも、重要性が見て取れます。

 

また、人口減少によって市場のパイが縮小していく中で、業界再編も必然的なものであり、今後も市場が成熟期に入る業界では、業界再編型のM&Aは主流になっていくと推測されています。

 

日本企業がグローバルな競争相手を買収するクロスボーダー案件(IN-OUT)の件数も、2016年は前年比で13.4%も増加しています。

 

しかし、M&Aの意義は「事業承継型のM&A」「業界再編型のM&A」という側面だけではなく(それも非常に重要な側面なのですが)、会社のビジョンの実現や従業員のさらなる活躍の場を広げることなど、多様な側面があると考えています。 

 

特に弊社では、創業10年以内の会社経営者の方々からM&Aでの譲渡の相談を受けすることが近年多くなっています。彼らにM&Aの目的についてヒアリングをしていくと、M&Aの目的は事業承継型や業界再編型といったものではないことがほとんどです。

 

自社がより資金力のある大きな会社であるとか、より技術力・サービス力のある会社と一緒になることで、①自社の本業をよりスピーディに展開する、②新しい事業を立ち上げるきっかけにする、③グローバル化を進める、④優秀な人材にアクセスする、という4つの側面が重視されているのが現状です。

 

つまり、更に事業を積極的に行う手段の1つとして、より大きな企業と組みたいという「ビジョン・戦略実現型」のM&Aが最近の経営者のトレンドになっています。

大企業と組むことで本業の「スピードアップ」を図る

では先述の4つの側面について、具体的な経営者のニーズを読み解くことにしましょう。

 

①自社の本業のスピードアップ

 

これがビジョン・戦略実現型の中で一番多い理由です。比較的若い企業では、積極的に事業展開をしていく資金力(社長の信用力)に限界があったり、エリア拡大のために必要な土地調査や不動産の賃貸契約、店舗や事務所の構築に費やす時間がありません。そのため、資本力や他店舗展開、複数エリア展開をしている企業と組むことで、自社の行いたいサービス、つまり自社のビジョンをよりスピーディーに行うことを目的としているのです。
 


②新しい事業の立ち上げ

 

本業はしっかりと成長したけれども、ここからもう一段階の成長を目指すとなると、自社単独ではなく、大手と共に新規事業を立ち上げたり、自社の前後のバリューチェーンへと事業を拡大するなどして、成長を目指すこともあるでしょう。大手企業としても、単独で新規事業を立ち上げるより、これまで成長を遂げてきた企業の立ち上げスキルを学ぶことで、より成功確率を上げたいというニーズがあるため、この理由も増加傾向にあります。

 

③グローバル化


大手企業では築き上げてきた豊富なネットワークも、中堅・中小企業には十分ではないケースが多くあります。特にB to C向けのサービスであれば、海外展開をするために自社の店舗やサービスを海外まで持っていく必要がありますが、大手企業のネットワークを活用することで、自社のサービスをもっとグローバルに展開できる事例も、今後は増加していくと考えられます。


④優秀な人材へのアクセス


ITサービスを中心に、WEBエンジニアやWEBマーケターなどの重要なポジションがなかなか採用できないという悩みが、多くの企業から聞こえてきます。その場合に、ブランド力があり人材のリソースが比較的豊富な大手企業を活用し、より効率的に採用をしていきたいというニーズも、2016年ごろから非常に多く聞こえてきます。


次回以降の連載では、「事業承継型」「業界再編型」の紹介と比較しながら、「ビジョン・戦略実現型」のM&Aについての展開や事例を見ていきます。

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