賃貸物件と異なり、居住者の事故は運営者の責任に…
前回の続きです。
なお、業者に依頼するのではなく、運営会社を設立して施設の運営も自ら行うという選択肢もありえます。たとえば、サ高住であればセキュリティ設備を整備すればよいだけなので、独力で運営することも不可能ではありません。ただやはり、心身の衰えている高齢者を対象とした施設を管理・運営することは、大きなリスクを伴うことは否定できません。
居住者が夜間に胸が苦しくなって室内の呼び出しボタンを押したのに、宿直の係がすぐに気づかなかったために救急車を呼ぶのが遅れ、重い後遺障害が残った―などということが万が一あれば、高額の損害賠償を請求されるおそれがあります。賠償金の額は千万円単位になることも珍しくありません。
通常の賃貸不動産であれば、室内で起こった事故について、管理・運営している者は基本的に責任を問われないので、事故の結果、不幸にも居住者が亡くなるようなことがあったとしても損害賠償を請求されることはないはずです。
しかし、高齢者施設は、そもそも高齢者が安心・安全に暮らせることを前提として、そのために提供するサービスへの対価も含めた形で賃料が設定されていることから、居住者が事故にあうリスクについては運営者が負担することが当然視されているのです。
このような重い責任が課されていることを考えると、高齢者施設を独力で運営することについては慎重な姿勢が求められることになるでしょう。
そもそも「自治体の許認可」を得るのが容易ではない
また、有料老人ホームやサ高住などの高齢者施設を設立するためには都道府県や市区町村などの自治体から許認可を取得しなければなりません。しかし、地域それぞれの事情が絡み、許認可を得るのは決して容易なことではありません。
まず、有料老人ホームやサ高住を整備した事業者に対しては補助金がおります。この補助金の支出が自治体にとって大きな負担となることがあるので、財政事情がおもわしくない地域では許認可をしぶられる場合があります。
また、地域に影響力をもっている政治家などの有力者が介護事業に深くかかわっているような場合にも、許認可が出にくいことがあります(上からの圧力があるのか、役所の自主的な配慮によるものなのかは定かではありません)。
さらに、許可を得られたとしても、地域住民の反対があるかもしれません。いうまでもなく、高齢者施設の運営は公益性のある大きな意義をもった事業ですが、年中、救急車が呼ばれたり、認知症になった人が周辺を徘徊するようなこともあるために、近隣住民には必ずしも好意的には受け止められません。
したがって、高齢者施設を建てるときには、地域で受け入れられるための努力や工夫を積極的に試みることが求められるのです。