香港私的有限会社には「会社秘書役」を置く必要があります。今回は、その具体的な役割と選定する際の留意点などについて見ていきます。

コンプライアンス遵守を担う重要な専門家

前回ご紹介した、香港私的有限会社の構成内容一覧表に記載した通り、香港私的有限会社は必ず、「会社秘書役」を任命する必要があります。取締役の登記内容と同様、会社秘書役の名前や住所も登記公開され、変更の都度、所定のフォームでの期限内の会社登記所への通知が必要となります。

 

そもそも、会社秘書役とは何なのでしょうか。

 

「秘書役」という名称からは個人秘書のようなイメージが連想されますが、実際には、香港法人がコーポレート・ガバナンスやコンプライアンスの適正水準を維持できるよう、株主や取締役への助言提供をはじめ、必要な書類作成や、香港会社登記所などの政庁とのやり取り等を担う専門家です。

 

香港私的有限会社の会社秘書役の任命条件としては、「18歳以上の香港在住の個人」あるいは「香港で登記されている法人」というだけで、特に会計士や弁護士のような国家資格は不要です。

 

ただし、香港には「香港特許秘書協会(The Hong Kong Institute of Chartered Secretaries)」という協会があり、試験に合格し、関連業務経験を有し、適格とみなされた者のみが会員として登録されます。日本の会計士検索のように、同協会のウェブサイトから会員を検索することも可能です。

 

先ほど、特に資格がなくとも会社秘書役に任命可能と言いましたが、せっかく設立された香港法人のコンプライアンス遵守を担う重要な専門家となりますので、外部に委託される場合は、相応の香港会社法の知識と経験を有する、出来れば香港特許秘書協会の会員である個人、あるいは(会員を雇用する)法人にご依頼されることをお薦めします。

会社秘書役とは密なコミュニケーションを心がける

会社秘書役の年間最低業務としては、会社秘書役名義提供、法定台帳の保管と管理、定時株主総会関連書類作成や、年次報告書(アニュアル・リターン)の作成・提出があります。

 

定時株主総会では、監査済決算書が承認されます。年次報告書は、会社の設立応当日時点の会社の詳細(社名・登記住所・資本金・株主・取締役・会社秘書役など)を所定のフォームに記載し、署名済のものを期限内に香港会社登記所に提出します。また、会社秘書役が登記住所を提供している場合は、毎年、あるいは3年毎の事業登記証明書の更新・事業登記料の納付も、会社秘書役が担います。

 

香港で事業を行わないバーチャルの香港私的有限会社であっても、前述の最低コンプライアンス業務は発生します。また、取締役等香港法人の登記内容に変更が生じる都度、所定の期限内に香港会社登記所に書類を提出する必要があります。

 

通知が必要とは知らなかった、気付いたら所定の提出期限をとうに過ぎていた、年次監査の際に監査人から取締役会決議書等の書類不備について指摘を受けてしまった・・・ということにならないように、常日頃、会社秘書役の方とは密にコミュニケーションを取っていただくことも、香港法人の運営上重要だと思います。

本連載は一般的な観点に基づいて執筆しております。具体的なアクションを起こす際には、事前に専門家のアドバイスを受けるようにしてください。また、本連載での「オフショア」とは、あくまで「日本からみた海外」という意味合いとなりますので、あらかじめご了承ください。

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