田舎領主「この期におよんでいったい何じゃ?」
女騎士「月末までは家族との時間を許す、お前はそう言った。男たるもの約束は果たすべきだ。違うか?」
田舎領主「ふん、そんな約束……」
女騎士「その『家庭の医学』は何だ! まだ恥を重ねるつもりか!」
田舎領主「ぐっ」
女騎士「お前の失態は、お前1人の恥ではない。先祖代々この領地を守ってきた一族の恥だ。違うか!?」
田舎領主「ふ、ふんっ! わがはいの心は海より広い。月末まで待ってやろう……」しぶしぶ
女騎士「お前にも一欠片の騎士の心があってよかった。……では、こうしよう。この一家が月末までにカネを準備できたら、それで弁償する。できなければ、領主様はこの娘を買い上げる──」
黒エルフ「はぁ!? あんた何考えてんのよ! そんなの無理に決まって──」
そばかす娘「私はかまわないよ。月末まで家族と過ごせるだけで充分なのに、女騎士さんはわずかでも希望を残そうとしてくださったんだ。嬉しいよ」
田舎領主「わがはいもかまわん。どうせ叶わぬ希望じゃからな! ほっほっほっ!」
女騎士「契約成立だな」
田舎領主「月末が楽しみじゃわい。おい、御者よ。馬車を出せ! 屋敷に帰るぞ!」
馬車 ガタゴト……
財務大臣「どうやら私が出る幕はなかったようだな」
女騎士「うむ。相手が抜けているやつで助かった」
財務大臣「この姿で驚かせようと思ったのだが……」
黒エルフ「相変わらず見事に化けるわね。ていうか、人を驚かせるなんてちょっと悪趣味じゃない?」
財務大臣「相手がしつこかった場合の最後の手段にするつもりだった」
黒エルフ「ならいいけど」
──ボフッ!!
司祭補「でも、やっぱりみなさんにお披露目したかったですわ」
黒エルフ「」
両親「うう……」
そばかす娘「もう母ちゃんってば泣かないでよ。父ちゃんも! 月末までは一緒に暮らせるんだから」
黒エルフ「……で、あんたはあれをどうするつもり?」
女騎士「う、うむ……」
黒エルフ「悪いけど、銀行からあの一家にカネは払えないわよ。担保も保証人もなしに、15万Gなんて貸せないわ」
女騎士「それは分かっているのだ」
司祭補「精霊教会としても、どうにもできませんわねぇ……」
女騎士「そうか」
黒エルフ「変な期待を持たせないほうが良かったんじゃない? 偽物の希望は、本物の絶望よりも残酷よ」
女騎士「そうかもしれない……」
司祭補「とりあえず、今夜はベッドに戻りましょう。待てば海路の日和ありと言いますわ」
女騎士「それも、そうだな……。私たちの当初の目的を忘れるところだった」
黒エルフ「グーテンベルクさんに会って話を聞くのよね」
司祭補「そして、港町の方々が消えた理由を調べるのですわ」
一家 シクシク……サメザメ…