黒エルフ「嘘よ! あの子には踊り子になりたいって夢が──」
そばかす娘「ううん、本当だよ」
母親「あんたって子は!」
父親「出てくるなと言っただろう!」
そばかす娘「だけど、母ちゃん父ちゃんをこれ以上困らせるわけにはいかないよ……」
田舎領主「おほほほ、聞き分けのいい娘じゃ! かわいがってやろう!」
父親「くっ……約束が違います! 月末まで待っていただけるはずでは!?」
田舎領主「たしかに、わがはいは月末まで待つと申した」
父親「で、では……!」
田舎領主「しかし、気が変わったのじゃ。今夜のわがはいは気分がいい。わざわざ迎えに来てやったというわけじゃ!」
母親「そんな……」
そばかす娘「もういいよ! 私がお屋敷に行けばいいんだろ。母ちゃんたちを困らせないでよ」
女騎士「待て。事情を聞かせてくれ」
黒エルフ「自分から愛妾になりたいと言ったのは本当なの?」
そばかす娘「うん、本当だよ。ひと月くらい前に、領主様のお使いの人に荷物を渡されたんだ。弁当箱くらい大きさの小包をお屋敷まで届けて欲しいって。……言いつけ通り、私は荷物を届けたの。だけど、小包の中身が壊れていたんだよ。外国産の手鏡で、バラバラに割れていた」
田舎領主「さよう。貴様ごときでは、たとえ身売りしても弁償できない高級品じゃ!」
そばかす娘「だから私、領主様のお妾さんになることにしたの」
黒エルフ「話が飛躍しているわ。なぜ手鏡の代償として、愛妾にならなくちゃいけないのよ」
田舎領主「まったく、これだから無学な者たちは……。いいか? 人間国の法律では5万Gを超える器物破損や窃盗は縛り首になるのじゃ。あの手鏡は安く見積もっても15万G、一家3人縛り首になるはずじゃ」
女騎士「……?」
田舎領主「しかし、わがはいは寛大にも器物破損の被害を訴えず、この娘をわがはいの屋敷で教育してやることにした。同じ間違いを犯さぬようにな! さらに寛大にも、今月末まで家族と過ごす時間を許してやったのじゃ!」
そばかす娘「か、感謝して……います……」
両親「うぅ……」
女騎士「5万Gを超える器物破損で、縛り首?」
黒エルフ「そんな法律、聞いたことがないわね」
田舎領主「お前たちのような浅学非才の者では無理もなかろう。しかし、この『法律書』にばっちり書いてあるのじゃ!」
ばばーん
女騎士「そ、その本は──!」
黒エルフ「なによ、それ──!」
田舎領主「どうじゃ、恐れ入ったか!」
女騎士「表紙に『家庭の医学』と書いてあるぞ」
黒エルフ「ええ。読み間違えようがないわね」
田舎領主「なっ! 貴様たち、まさか字が読めるのか!?」
黒エルフ「当然よ。文字に暗い農奴たちは騙せても、あたしたちは騙せないわよ」
父親「領主様、どういうことでしょうか……?」
田舎領主「う、うぬぬ……」
女騎士「あれは法律書ではないし、縛り首というのは嘘っぱちだ。信じてはならん」
そばかす娘「!」
田舎領主「だ、だが……手鏡を壊したのは事実! どうやって弁償するつもりじゃ!」
そばかす娘「そ、それは……」
田舎領主「ならば、わがはいが貴様の身を買ってやろう。この村から離れることもなく、手鏡の弁償もできる。悪い話ではなかろう?」
そばかす娘「……」
田舎領主「むしろ、わがはいの心の広さに感謝すべきじゃな! おほほ!」
そばかす娘「……はい」
一同「!!」
そばかす娘「もう家族を困らせずに済むなら、私は領主様のお屋敷に行くよ」
女騎士「いいや、まだだ」