▼翌朝、坑道入り口
女騎士「さて、ここだな」
黒エルフ「たしか、この辺りに『呪いの文句』が刻まれているのよね。怪物の存在を示すとかいう」
女騎士「呪いの文句……そんなものは見当たらないぞ」
司祭補「この看板のことかしらぁ?」
『猛犬注意』
女騎士「これが……」
黒エルフ「……呪いの文句?」
司祭補「ふむふむ……。『わが愛犬のヘルハウンドは、日中は昼寝をしている。物音を立てぬよう注意すべし。用無き者の来訪を歓迎せず。グーテンベルク』と書かれていますわ」
女騎士「ならば、忍び足で坑道を抜けるとしよう」
黒エルフ「戦わないの?」
女騎士「人の飼い犬を傷つけるわけにはいかんだろう」
▼坑道・内部
司祭補「村の方々は迷子に注意とおっしゃっていましたが……」
黒エルフ「……この坑道、親切な道しるべがたくさんあるわ。迷いようがないわね」
女騎士「むっ、またしても看板だ!」
司祭補「えっと……『転落注意。東西の部屋の各スイッチを入れてから進むこと。さもなくば足場が崩れるおそれあり』……と、書かれていますわね」
黒エルフ「危険な仕掛けって、もしかしてこれのこと?」
女騎士「そうか、長年の謎が解けたぞ! ダンジョンというものは、どこも危険な罠だらけだ。最悪死ぬ」
司祭補「まあ、大変ですわ!」
女騎士「しかし、近くの床や壁に、罠の解除方法やヒントが書かれている場合が多い」
黒エルフ「どうして? 侵入者を撃退するための罠なんでしょ?」
司祭補「ダンジョン制作者の善意でしょうか?」
女騎士「いいか? この坑道の安全な足場でも、文字の読めない村人にとっては危険な罠になるだろう?」
黒エルフ「えっと……それが?」
司祭補「たしか古代帝国では、大将軍でさえ読み書きができない時代があったと聞きますわ」
女騎士「ダンジョンが作られた当時は、読み書きのできる人がほとんどいなかった。壁に解除方法が書かれていても罠を避けられなかったのだ」
黒エルフ「逆に言えば、文字を読めるのは一部の特権階級だけだから……」
司祭補「……王族や貴族は罠を避けられるはずですわね。そもそもダンジョンは、王族の墓や宝物庫だったと聞きますわ」
黒エルフ「関係者は自由に出入りできるけど、一般庶民は近寄れないようにする……。そのために、罠の近くに解除方法を書いたのね」
女騎士「なぜ危険な罠の近くにヒントが書かれているのか、ずっと不思議だったのだ。やっと謎が解けた」