今回は、共有不動産の問題を根本的に解決する、共有関係の解消について見ていきます。※本連載では、弁護士法人みずほ中央法律事務所・司法書士法人みずほ中央事務所の代表弁護士・三平聡史氏の著書『共有不動産の紛争解決の実務』(民事法研究会)の中から一部を抜粋し、共有不動産に関する紛争の基本的な考え方と典型事例を見ていきます。

共有関係を解消する3種類の方法

⑴共有物分割による紛争解決の意義

 

共有者の間の関係性が悪化すると、前回のような共有不動産の使用方法などに関して、多くの問題・対立が生じます。個々の問題をいったん解決しても、その後も共有の関係は継続するため、その後も再び紛争が生じるということがよくあります。根本的な解決方法は「共有関係を解消すること」です。共有関係を解消する手続はいくつかありますが、代表的なものは共有物分割です。分割の方法、つまり共有関係を解消する具体的な方法(分割類型※1)には主に種類があります。

 

共有者のうち人が対象の共有不動産を使うという事情がある場合は、他の共有者の共有持分を買い取る方法が一般的です。全面的価格賠償と呼ばれる、判例で認められた方法です。また、第三者に競売で売却し、代金を分ける換価分割という方法もあります。競売なので売却金額自体が低くなってしまうデメリットがあります。さらに、不動産そのものを分断して、エリアごとに単独所有にする方法もあります。現物分割と呼ばれる分割類型です。

 

実際には、共有者間で、分ける方法(分割類型)や評価額について熾烈な意見の対立が生じることが多いものです。訴訟を提起すれば、最終的に裁判所が分割類型やその内容を判断・決定します。

 

⑵共有物分割の実務的な位置づけ

 

共有物分割という制度・手続は、根本的な紛争解決を実現するためには非常に重要で有用なものです。そのため、実際の紛争解決で利用する頻度がとても高くなっています。

 

共有物分割の手続を利用しない場合でも、この手続を意識しながら交渉することが多いです。紛争において、主となる交渉が決裂した場合の対応策として、共有物分割請求が位置づけられるという状況です。つまり、共有物分割が交渉におけるBATNA2として機能するのです。

 

さらに、法律実務家には、法律相談などの紛争解決の見通しを事前に判断する段階から、最終的な裁判所の判断を高い精度で予測することが求められます。法律相談では、選択可能な法的対応策と、それによる結果を広く、かつ、可能な限り高い精度で予測することが必須です。

 

判断に必要な情報・評価の複雑性

当然、法律実務家が共有物分割に関する裁判所の判断基準をしっかり把握していないと、適切・適正な判断を提供できません。

 

この点、共有物分割に関する裁判所の判断基準は、判例変更もあり、結構複雑です。

 

共有物分割に関する判断では、判断要素が広く、また、評価的規範(要件)もとても多くなります。その中でも特に全面的価格賠償では、判断要素が幅広くなるため、類似する判例・事案における裁判所の認定・判断を把握していることが有用です。

 

主張・立証の複雑性

実際の紛争解決の手続では、判断基準に沿った事情の整理と主張・立証が求められます。特に訴訟の場合には、効率的・説得的に主張・立証することが有利な結果の獲得に直結します。訴訟に限らず、交渉の段階でも主張・立証がBATNA(※2)に反映されます。つまり、交渉結果にも大きな影響を与えるのです。

大きな問題となる担保権の取り扱い

⑶共有物分割と担保権(住宅ローン)

 

共有不動産に担保権の負担が付いていることはとても多いです。具体的には、住宅ローンや事業資金の融資の担保としての抵当権などです。担保権の取扱いは、換価分割でも全面的価格賠償でも大きな問題となります。形式的競売での配当や賠償金の算定においてどのように取り扱うかについて、統一的な見解がないのです。特に、形式的競売の場合は、共有物分割の訴訟ではなく、競売手続(執行)の段階で取扱いを決めることになっています。紛争解決過程の複数の段階で多くの不確定要素があるのです。全面的価格賠償の場合は、賠償額(金額)算定において、担保負担分を控除するかしないかという解釈として不確定要素となります。

 

また、被担保債権の額が不動産の価値を上回る、いわゆるオーバーローン状態のケースもあります。この場合は、換価分割でも、価格賠償でも、さらに複雑な取扱いとなります。方向性としては、共有物分割による手続を利用することのハードルが高くなる傾向があります。しかし、共有物分割は無理だと即断することは適切ではないでしょう。

 

このような複雑さを逆手にとって、最小限のコストで単独所有を実現する実例もあるのです。

 

法律相談などの紛争解決の見通しの判断の段階から、担保権の取扱いについて検討を省略したり見落としたりせずに、しっかり考慮すべきです。

 

⑷共有物分割と相続・離婚との関係

 

相続に伴う遺産分割と離婚に伴う財産分与という手続は、共有物分割と似た機能をもちます。つまり、いずれも「財産を分ける」という機能は同じなのです。

 

形式的にはこれらのうち複数の手続が使える状況もあります。この点、複数の手続には、判例による優劣関係があります。遺産分割と共有物分割、財産分与と共有物分割のいずれにおいても、状況によって、どれかつの手続しか使えないということがあるのです。

 

また、手続の種類によって分割の方法が違ってきます。裁判所における審理の内容も違います。当然、当事者の立場における主張・立証の内容も手続によって異なります。

 

さらに、物権共有と遺産共有があるなど、複数の共有の種類が混在することもあります。典型例は遺産に含まれる共有持分について譲渡や差押えがなされたようなケースです。一方、相続の後に遺留分減殺請求がなされると、これも複雑な状況になります。

 

法律相談などの紛争解決の見通しを判断する段階から、利用できる手続の種類とその判断基準などをしっかり把握している必要があります。

 

※1「全面的価格賠償」「換価分割」「現物分割」のつを、一般的には「分割方法」と呼びます。しかし、分割方法という用語は、共有物分割に係る協議・民事調停・訴訟を意
味する「手続の種類」と間違えやすいです。そこで、本書では、これら分割の方法を「分割類型」と呼びます。

 

※2 Best Alternative to Negotiated Agreement。代替的な解決内容(交渉が決裂した場合に実現する内容)という意味です。

本連載は、2017年2月刊行の書籍『共有不動産の紛争解決の実務』から抜粋したものです。稀にその後の法律、税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

共有不動産の紛争解決の実務

共有不動産の紛争解決の実務

三平 聡史

民事法研究会

共有不動産の管理、他の共有者や第三者に対する明渡請求・金銭請求、共有関係解消のための共有物分割・共有持分買取り・共有持分放棄などを事例に即して詳解!実務で使用する通知書・合意書・訴状などの書式、知っておくべき判…

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