原則的かつ好ましい状態は「単独所有」だが…
前回の続きです。
⑵分配金請求・共有持分買取権の行使による紛争解決
このようなケースの紛争解決の方法については、①分配金請求(賃料を共有者の人が全額受領し、他の共有者は各自の分配相当額を請求する。典型的争点は、経費の合理性・妥当性、②共有持分買取権の行使(共有者Aが経費を負担し、Aが他の共有者Bに分担金を請求したところ、Bが拒否している場合、AがBの共有持分を強制的に買い取る)が考えられます。①の方法は、一時的な対処といえます。つまり、金銭を回収できても共有という状態は変わりません。その後も継続的に対立の状態や紛争発生が続くことになります。
⑶共有関係の解消による紛争解決
このようなケースにおいても、根本的な紛争解決の方法は、共有関係を解消することです。具体的には、①共有物分割請求、②共有持分譲渡、③共有持分放棄(→第章Ⅱ)です。これらは共有に関する紛争に共通する根本的な解決方法です。元々は単独所有が原則的で好ましい状態なのです。
前述のとおり、代表的な共有関係の解消の方法は、①の共有物分割請求です。共有物分割協議では、全員が分割の方法に納得して合意しない限り成立しません。共有物分割訴訟では、最終的に裁判所が適切だと考える方法を選択します。要するに判決として言い渡すわけです。ただ、実際には、多くの場合、裁判所が和解を勧告します。紛争解決の方法の検討の段階では、裁判所の判断する内容の予測が非常に重要です。有利な結果が予測できる状態では、相手は譲歩せざるを得ないですし、裁判所も予測内容を前提とした和解勧告をすることになります。
より多くの紛争解決法を検討すべき理由
⑷収益不動産の管理方法の協議による紛争解決
また、共有関係を解消しないとしても、収益不動産の管理方法を協議して、共有者全員が納得する内容に取り決めるという解決方法もあり、これは、その後の紛争の予防策のつといえます。ただし、共同して管理する状態そのものは継続します。ですから、それ以降も紛争が発生するリスクが残ります。
⑸紛争解決のポイント
以上のとおり、経費の分担、賃料収入の分配、管理方法をめぐる共有の収益不動産に関する紛争の特徴と、紛争解決の方法を概観しました。ここでは、実際に紛争解決の手続を遂行するときの実務的なポイントをまとめます。ここに記載した紛争解決のポイントは概括的なものですが、より有利な結果の獲得に向けた、最適手段の検討・判断に役立ちます。
[共有の収益不動産の紛争解決のポイント]
①紛争の特徴
共有の収益不動産に関する紛争については、多くの法律上の権利・義務、紛争解決のための手続が関係している。
②紛争解決のポイント
紛争解決のための手続、それに関連する判例の判断基準をしっかりと把握し、個別的な事案における権利・義務を極力正確に判断する。以上の事情を基に、可能な限り多くの方法の結果を予測する。有利な結論につながる対応策を組み立てることが、有利な結果を勝ち取ることにつながる。
③実務上の留意点
収益不動産では過去の利益分配も問題となる。同時に現時点で共有を解消することの実現をも狙うのが一般的である。したがって、多くの権利関係や手続が錯綜することになる。
なお、前記⑵〜⑷で紹介した紛争解決の方法には、それぞれメリット・デメリットがあります。紛争解決の方法を検討する段階では、より多くの方法を検討すべきです。なじみのない手続だからといって検討自体を省略することは、最善の結果の獲得を不確実にしてしまいます。どの方法も軽視することはできません。