誰もが興味を持つ「自分たちのためだけのデザイン」
建て主は、自分の家族や企業が、その幸せや利益を模索するために、家づくりや社屋建設という事業に着手します。それは昔も今も変わりません。
そして建て主が家やビルを建てる具体的な動機や目的はさまざまです。
住宅であれば「結婚をしたから」「家族が増えるから」「自由にできる家が欲しいから」「家賃を支払い続けるのがもったいないから」というのが最もよくみなさんから聞かれる理由です。または個人オーナーが、自分の土地にマンション・アパートを建築したい動機は、「親から受け継いだ土地を活用したい」「子への相続対策を行いたい」「家賃収入を所得にしたい」等が理由であることが多いです。
企業がオフィスをつくる目的は、「社員が増えるのでオフィス面積を増やしたい」「追加で設備投資を行いたい」「新事業を立ち上げ業績を拡大したい」等さまざまです。
そういったビジョンを叶えるために、建て主は相談先を探します。彼らは誰に相談するのでしょうか。クリエイティビティが高く、デザイン性の良い建物を望む建て主であったとしても、まず建築家に相談するかというと、実際はそうではないパターンが多いです。
建てる土地がまだ決まっていない場合は、まずは不動産会社に行くことから始めるかも知れません。そのために最近ではやはりインターネットで検索するでしょう。そしてたどり着いた不動産会社で、建物づくりの方法を学ぶことになります。
土地を持っている場合でも、住宅ローン等の銀行融資を利用する人は、インターネットで情報を仕入れ、銀行や信用金庫で話を聞いているかも知れません。あるいは知り合いの家づくり経験者に相談する方も多いです。
つまり、最初に建築家に相談できる環境にいる人はごくまれなのです。自由な発想で、自分たちのためだけにデザインされた建物には、誰でも興味があるはずですが、実際に建築家が知り合いにいる建て主は、ほんの一握りなのです。
雑誌、モデルハウス…リサーチする先は果てしなく
しかしリサーチする先は、大比較検討時代には果てしなくあります。色々な意見も聞いてみようと、雑誌やインターネットを調べ、イベントに参加し、ハウスメーカーのモデルハウスに足を運んだり、分譲マンションのモデルルームに予約したり、または2000年頃からますますシェアを拡大するパワービルダー※1(建売住宅業者)の現地見学会を調べたりと、大比較検討時代の建て主は、時間の許す限りリサーチに時間を費やします。
最近ではファイナンシャルプランニング事務所※2もしだいに増えており、家づくりの前にお金についての相談をしたい、資産についての勉強がしたいと希望される方が訪れています。しかしファイナンシャルプラン(以下FP)という業種はまだ確立されていません。生命保険系のFP事務所や、不動産系のFP事務所等が多く、家づくりをしたい場合、ビルを建てたい場合のお金の相談窓口は、まだまだ少ない状態です。
このように建て主は、建物づくりでつかみたいもの、叶えたいことがあっても、それを実現するための、最初の相談先を探すのに苦労することが多いのです。
※1 パワービルダー…土地付き一戸建て住宅を分譲する建売業者の別称。和製英語。街中で「新築分譲中」と住宅の現地販売を行っている。テレビCMで広告を行う非分譲系パワービルダーも台頭し、ハウスメーカーとの区別もつきにくくなってきている。
※2 ファイナンシャルプランナー事務所…一般顧客から家計やライフプランをはじめ、保険、不動産、投資についての相談を受ける。本文では、自ら事務所を持ち独立経営する「独立型」FP事務所を指す。またそれに対して、保険代理店、税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士等がFP事務所を併設し、それぞれの専門に特化した業務を行う「併設型」も多い。