前回は、交通事故の後遺障害認定をめぐる関係機関の駆け引きについて解説しました。今回は、後遺障害認定を徹底的に拒否するための「保険会社の手口」について見ていきます。

通院治療開始後、股関節にも強い痛みが…

損害保険料率算出機構や保険会社が何としても等級を抑えたいという意図を垣間見せる事例に、執拗な医師への照会が挙げられる。照会とは被害者の症状や治療内容などを聞き出すことで、時にはそれによって医師に対するけん制や誘導などが行われることもある。

 

下記に挙げる事例はそんな彼らのやり口が顕著なケースである。

 

〈事例〉主治医でもない別の医師に照会をかけて、後遺障害を否定しようとしたケース

 

Eさん(33歳・男性)は道路路肩に自動車を停車させ一時休息を取っていたところ、加害車両が運転手の意識喪失によって制御不能になり、後方から時速50km程度で追突した。Eさんは停車中ということでシートベルトは着用していなかったため、事故による衝撃によって上半身を強打するとともに、下半身がシートから前方に投げ出されてダッシュボードなどで両膝を強打した。この事故によってEさんは「頸椎捻挫、後頭部打撲」と診断された。

 

この事故によってEさんは育児に追われる妻の負担になることを避けるため、実家で療養することとしたが、このことに関しては保険会社の当時の担当者に伝えていた。Eさんは事故から一週間、ほぼ歩行することなく安静にしていたので、その時は股関節部に痛みを感じなかったが、その後通院治療を開始したところ股関節に強い痛みを覚えるようになった。実はEさんは事故当日はA病院、その後B病院、事故10日後にはC病院にて治療を受け、症状固定判断などを行った主治医はC病院の医師であった。

 

Eさんはこの事故によって股関節や臀部、骨盤に痛みを訴え、右足の股関節、膝関節、足関節が十分に曲がらないという可動域制限が見られた。Eさんの仕事は商業施設などの照明の販売および設置であるが、この事故で約4カ月ほど休職し、復職後も脚立などで天井付近の照明を設置したり10キロ近くある照明器具を運搬する際、また仕事での営業車運転の際など、股関節に強い痛みがあるため仕事内容全般に著しい支障が及んでいたのである。

主治医以外の回答書を盾に、障害を認めず…

関節の可動域が制限されているということで機能障害での12級の要件を満たすと判断していたのであるが、損害保険料率算出機構、保険会社の回答はなんと非該当、後遺障害には当たらないという判断であった。それによれば関節の可動域制限に関しては受傷時の傷病名や症状、治療経過や画像所見から事故との因果関係は認められないというのである。

 

そこで私たちは改めて主治医であるC病院の医師に依頼し、症状と事故との因果関係などを明らかにした意見書をつけて異議申立てを行ったところ、やはり同じく非該当という回答が自賠責保険審査会から送られてきたのである。

 

この回答はまさに審査会、保険会社の体質を物語るものであった。なんと審査会はA病院とB病院の医師に照会をかけ、それぞれ受診時には股関節痛の訴えはなく、歩行可能であったという回答書を取り寄せているのである。そのうえで、審査会は書面の中で以下のように続けている。

 

「医学一般的に、外傷による症状は、受傷直後が最も重篤で、その後、治療によって回復に向かうものとされており、本件のように、受傷当初に訴えが認められていない症状が事故後10日を経て発症することは、一般的な症状経過とは捉えがたいものと判断します」

 

「さらに、前回の回答に記載したとおり、提出の股関節部画像上、本件事故による明らかな外傷性は認められません。これらのことを総合的に勘案すれば、訴えの症状について、本件事故受傷と相当因果関係を認めることは困難であり、前回回答のとおり、自賠責保険の後遺障害には該当しないものと判断します」

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

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