遺産分割が難しい「多額の残債」がある収益不動産
<事例>
吹田市在住の有田さん(75歳)は、市内に賃貸マンション(土地付き)を数棟有する資産家です。推定相続人は妻と子供4人の5人であり、6人で暮らしています。これから結婚して、お互いに配偶者ができると、相続争いをするのではないかと心配しています。まだまだ多額の賃貸マンション建設に伴う借金が残っていますが、不動産の大部分を家を継承してくれる長男に遺したいと思います。自分の存命中に、遺産分割の道筋をつけて、子供達が相続争いをしないような方法はないものでしょうか。
[図表1]
<問題点>
相続人間では相続争いが発生しないと思っていても、子供達が結婚して、嫁・婿ができると、将来において相続争いが生ずるのではないかと心配のようです。片方でも親が健在のうちは、相続問題ではあまり揉めることはないのですが、親亡き後に争いが表面化する場合が少なくありません。
有田さんの場合は、借入金の額が多額になっていて、全ての賃貸収入で建築資金の返済に充てなければならない状況です。したがって、生前贈与等で遺産を分割することは、まだまだできそうもありません。そこで、全ての賃貸マンションと借入金を信託財産として信託し、信託契約に基づいて、借入返済等を目的とする、受益者連続型信託を活用すれば、借金返済まで財産が相続争いにより散逸することはありません。
[図表2]
受益者連続型信託を活用し、受益権を順番に取得させる
<解決策>
①収益不動産と借入金を信託財産として有田さん、妻、兄姉妹と順番に受益権を取得する受益者連続型信託を活用します。
②受託者として、信託財産を管理し、多額な借金(建築費)返済を計画的に行うために、家族で一般社団法人を設立します。若しくは受託者として信託会社を利用します。
③委託者有田さん、第一次受益者(有田さん)、第二次受益者(妻)、第三次受益者(兄姉妹)とする信託を設定します。
④第三次受益者が信託受益権を取得し、借金の完済をもって信託の終了とします。
⑤相続争いの防止と、借金の返済計画が同時に進行します。
⑥信託をしても遺留分を阻止することはできません。もし、姉妹を信託に参加させない場合には、生前に相当の財産を生前贈与して、遺留分の放棄をさせる必要があります。
<税金の取扱い>
①一般社団法人は、信託財産の管理はもちろんのこと、賃料の設定からテナント選びまで、一切を法人の責任において行うことになります。
②信託財産の収支が赤字の場合、他の所得との損益通算ができなくなります。
③一般社団法人は、株式会社のような株式持分がないので、法人の内部留保に対する相続税の課税は行われません。
信託の受託者として一般社団法人を設定するメリット
【一般社団法人を信託の受託者として利用する】
1.個人を受託者にする問題点
信託は、信じて託すわけですから、受託者を誰にするかが、民事信託における最も重要な課題になります。家族が受託者になる場合は、受託者が死亡するリスクにも備えなければなりません。さらに、相続人が一人で信託財産を管理することには不安が伴います。そこで、一般社団法人を受託者とし、相続人の全員を理事にすることで、受託者の死亡リスクをなくし、合議制のもと財産を管理することが可能です。
2.受託者を一般社団法人とする
受託者を法人とする場合、出資者が存在する株式会社ではなく、一般社団法人が適任です。受託者を株式会社とすれば、株主に相続が発生したときに遺産分割の問題に伴い、株式が分散して相続争いに巻き込まれる可能性があります。財産を管理する信託の受託者としての機能だけを考えるのであれば、持分のない一般社団法人を設立するのが適しています。一般社団法人の設立については、相続人が社員となり、その中から理事を選任します。さらに、社員の資格を定款に定めておけば、親族全員で信託財産を管理することが可能です。
3.法人設立の心配事
一般社団法人には持分の定めがないため、社員が法人の実質的な支配を持つことになります。従って、相続が終わった後、相続人(子供)同士で一般社団法人の社員の地位や理事の選出を巡り争いが生じることがあります。もともと仲が悪い相続人同士で設立する法人には、特に注意が必要でしょう。