評価の軽減規定がある住居用地や事業用地
相続税の計算方法は、筆者著書『よくわかる! 相続への対応 改訂増補版』第三章で述べたとおりです。相続により取得した財産の時価総額が同じ場合でも、相続人が納付する相続税額は、財産の評価額、債務金額、相続人数、生前贈与加算等により異なります。
相続税額に影響を与える主要な項目は次の通りです。
なお、相続税対策に関しては、同書の第六章に詳しく説明していますのでそちらを参照してください。
(1)財産の種類と評価
財産の評価方法は、相続税法及び相続税財産評価基本通達に規定されています。財産の評価規定では、換金性の高い資産(上場有価証券や貸付金等)は、ほとんど時価に近い評価となり、換金性の低い資産(土地、建物、非上場株式等)については、一般に評価の安全性を考慮し、時価評価額より低い価額で評価するようになっています。
また、宅地等のうち住宅用地や事業用地については、評価額の軽減規定があります。非上場株式の評価においても会社の態様により評価額は異なり、さらに納税猶予を受けられる場合もあります。
このように同じ財産でも、金銭の状態で保有する場合と他の財産に変えて保有する場合ではその評価額は異なり、産業保護や相続後の生活保護により租税負担が軽減されています。
(2)債務の金額
相続税の計算上、債務は全額控除されます。このため、債務(借入金)を増やし、不動産を購入した場合、不動産は相続税評価額で評価されるのに対して、借入金は借入残高で評価されることによって、相続税額を減少させることができます。
しかし、相続人にとって、資産は多いほどよく、債務は少ない方が望まれます。金融機関からの借入金により資産を取得した場合、確かに納付する相続税が減少しますが、多額の借入金が相続人に残ります。借入金については、相続人が一定期日までに全額返済しなければならず、その資金繰りも大変ですので、十分な配慮が必要となります。
(3)法定相続人
相続税の課税価格から控除される基礎控除額は、法定相続人の数で計算されます。また、適用される税率区分は、各相続人の課税遺産総額に応じて異なります。このため、法定相続人の数が増加すれば、基礎控除額が増加し、各人の課税価格が減少することで適用される税率が異なる場合があり、その分相続税の総額は減少します。
過去において、多くの孫等を養子とすることで相続税を軽減する節税策が横行し、課税の公平の観点から問題となる事例が多くありました。これに対処するため、相続税法が改正され、法定相続人の数に含まれる養子の数が制限され、また、孫を養子とした場合には、相続税の2割加算の対象とされました。
しかし、相続税法は養子制度を否定するものではなく、一定の場合には法定相続人の数に含め、また実子と同じように相続税の2割加算の対象とならない規定もあります。
被相続人の生前に購入した墓地、墓石等は非課税に
(4)非課税財産
生前に非課税財産を購入する場合と相続開始後に購入する場合とでは、相続税の負担額に差異が生じます。
例えば、被相続人の生前に仏壇、墓地、墓石等を購入した場合、これらは非課税財産となり、相続税の対象となりません。相続開始後に購入した場合には、相続税の計算上、債務でないことから控除することはできません。
また、生命保険金や退職金については、一定金額が非課税とされます。資産を現金で保有するか生命保険契約で保有するかで相続税額は異なります。
さらに、退職金に関しても、相続開始前に支給すると所得税が課税され、残りが相続財産となります。死亡後において支給されると、相続財産となり一定金額が非課税として控除され、残りが相続税の課税財産となり、税金の負担額が異なります。
(5)生前贈与
相続対策として、毎年、相続税の実効税率を超えない範囲で生前贈与を行う場合があります。この生前贈与は長期間続けると相続対策として有効な方法です。注意が必要なのは相続開始前3年以内の贈与財産と相続時精算課税贈与財産は相続税の課税財産とされることです。
この相続開始前3年以内の贈与であっても、居住用不動産を配偶者に贈与した場合の配偶者控除適用額、教育資金等の贈与のうちの一定額等に関しては、相続税の課税対象とならず、また贈与税も課税されません。
また、一般に、財産価値が年々増加する財産は早く贈与したほうが良く、反対に財産価値が年々減少する財産は、相続まで待つほうが税金負担は少なくなります。