前回は、企業成長のために削減してはいけない「必要経費5項目」について解説しました。今回は、企業の経営と会計における「税理士」の真の役割について見ていきます。

企業家なら「のどから手が出るほど欲しい」公的融資

会計の本質は、経営内容をトップに知らせることである。私はホームドクターのような立場で企業に寄り添うのが税理士の本当の姿であるとの信念を抱き、独立以降、この会計の本質に従って経営サポートを続けてきた。私がこの信念を抱いたきっかけは、公的立場での「企業診断」の経験に端を発している。

 

1964年、私は29歳の時に京都商工会議所の商工相談所で初めて公の職務についた。全国最年少の若さで当時始まったばかりの中小企業庁「小規模企業経営改善普及事業」の経営指導員として就任し、会計事務所創立までの10年間、主に公的制度である「設備近代化資金融資」や「マル経融資(小規模事業者経営改善資金融資)」を前提とした企業診断・審査に従事したのである。

 

マル経融資というのは、商工会議所などを窓口とした公的な融資を指す。要するに公の立場で小規模企業の診断をする役割で、月に10〜15件、10年間で2000件以上に及ぶ中小企業の診断・審査に明け暮れた。

 

民間の融資ではなく、あえて公的融資に申し込んでくるのは、ほぼ間違いなく自己資金が不足した小規模事業者だった。カネはないが欲はある(もちろんこの場合の「欲」とは前向きな経営意欲を指す)、そんなチャレンジ精神溢れる起業家がこぞって公的融資を申し込み、開業間もない時期で銀行などの一般的な資金融資に至る前の立ち上げ追加資金や成長資金の獲得に公的な支援を求めていたのである。

 

企業の「血液」である資金のなかで最も良い血筋は「資本金」である。なんといっても純血で返済の必要もない。次いで純血に近いのが国家の資金(公的融資)。大抵の場合、制度による低金利で長期借入が可能なので、借り手にとっては実にありがたい。以降は都市銀行、地域金融機関、最後の砦としてリース会社のローンやカードローン等という順序で血筋の純度は下がっていく。

 

自己資金に乏しく信用力もまだまだ低い小規模企業にとっては、やはり国家の良質な資金はのどから手が出るほど欲しいものである。だから、資金調達について研究熱心で野心的な企業家が公的融資に申し込む傾向が強かった。

融資見送りの理由は「税理士が書類を作らない」から

しかし、公的融資は年度予算枠が決まっている。国策として企業を育てるにあたり、「どの企業に資金を供給するのが最も相応しいか」という観点で応募企業を篩にかけなければならない。たとえば、設備近代化融資に申し込んできた企業が100社あったら、当時は優秀な10社程度をマークして企業診断にとりかかり、最終的に3社に決定するような狭き門だ。冷酷な選別といっていい。

 

なかでも最後の企業診断は心苦しく、候補先企業に足を運んで融資を実行するに値する人物か、成長が期待できる企業なのかを見極めるのに必死だったのを覚えている。

 

ところが、納得し難い理由で融資を見送らざるを得ない事案が少なからず発生した。提出が必要な過去3カ月分の試算表、過去3年間分の決算書が揃わないのだ。

 

経営者に理由を問い質すと、決まって「試算表と決算書が必要なのは重々承知しているが、いくら頼んでも税理士が作ってくれない」という答えが返ってきた。「いったい税理士は何をやっているのか」と、疑問に思った私が経営者に確認すると、事情が見えてきた。

 

これは半世紀も前の話で現在はほとんど解消されているが、当時の税理士は月々の会計処理は放っておいて、決算月に12カ月分の資料をまとめて取り寄せて決算作業を行っていたのだ。そして申告ギリギリのタイミングで経営者に決算報告を行い、「これだけの税金を払いなさい」と納税額を通知するといった具合だ。

 

税理士のいい分としては、「今は他社の決算・申告作成作業で手いっぱいだ。駆け込みで試算表や決算書を用意してほしいといわれても困るので、他社の作業が終わったら対応する」というものだった。

 

私は憤慨すると同時に、経営コンサルタントとして企業の経営を本当の意味でサポートするためには税理士免許を取得し、月次決算から年度末決算、税務申告まですべて対応できなくてはならないと確信し、税理士の道を志したのである。

本来、会計は企業経営に随伴すべきもの

このように、私は企業診断の世界から税理士業界に飛び込んだ、いわば〝場違い税理士〞だったので、業界の常識が非常識に思えることが多かった。決算月に後追いで1年分の会計処理を行い、息せき切って税務申告を行う。そんな場当たり的な会計になんの意味があるのだろうか。一方で顧問税理士は、税務署に申告するためだけに決算書を作成し、それだけの作業で毎月顧問料を受け取るわけである。

 

本来、会計は企業経営に随伴していなければならない。会計処理を同時進行で行い、見出された経営成績は即時に企業トップに知らせる。そうして経営者は経営状態や財務を把握し、次への計画の糧とするのだ。

 

申告作業とは、あくまで企業経営に随伴した会計の副産物、すなわち「従」であり、「主」は経営者に経営指標を提供することに他ならない。経営者に経営の羅針盤を渡すことこそが、会計の本質なのだ。

本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

石原 豊

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の企業の約7割は赤字という現実があります。 現在の日本企業の回復基調はあくまでも一時的なものであり、ほとんどの中小企業は根本的な解決には至っていません。また、人手不足や消費の冷え込みといった課題があるように…

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