大都市の「供給不足」と地方都市の「供給過剰」
昨年後半からの住宅政策は、1線級※都市は抑制、2線級安定化、3,4線級活性化を目指す「因城施策」、つまり、それぞれの都市(城)に応じた政策と呼ばれている。17年全人代政府活動(工作)報告でも、「三去一降一補」、すなわち3つ(過剰生産能力、住宅在庫、高いレバレッジ)の解消、企業コストの低減、貧困など経済の弱い部分の補強は重点政策として引き続き維持されることがうたわれ、その中で、住宅政策との関連で因城施策も明示されている。因城施策を受け、昨年後半〜本年初、1,2線級より3,4線級の市況が相対的に好調だったが、以下の点を考えると、必ずしもこうした状況が続くとは限らない。実際、17年に入り、大都市の住宅価格は再び上昇の兆しを示している。
※1線級(超高能級)都市は北京、上海、広州、深圳、2線級(高能級)は天津、重慶、成都、武漢、西安等21都市(多くは省都)、3,4線級(中低能級)はその他の地方都市。
①3,4線級、特に東北部や西北部の開発業者はなお大量の在庫を抱え、またこれら地域では人口流出が続き、供給超過の根本的解決には至っていない。
②1,2線級の供給不足はやや緩和するもなお続いており、潜在的価格押し上げ圧力は強い。
③1線級抑制、2線級安定化政策は基本的には維持される見込みだが、政策がさらに強化されるのはまったく所期の効果が出ない場合のみで、その可能性は低いと見られている。
さらに次のような中国特有の事情も勘案する必要がある。これらが、大都市の高水準な住宅価格をさらに押し上げる潜在圧力として横たわっている。
①政府は教育、医療、文化資源などを1線級等大都市に集中的に配置(都市化率は昨年57%、20年目標60%)しようとしている。
②富裕層が急速に増加し大都市に絶えず流入している(中所得層が14年全人口の37.4%と急速に拡大、社会科学院藍皮書)。
③一人っ子政策の下で生まれた若い夫婦は双方の親の援助を受ける場合が一般的で、表面的な数字以上にその実質購買力は高い。
昨年末、在庫面積の対直近6か月の月平均販売面積比は全国8.9か月、1線級7.2か月、2線級8.6か月、3線級12.4か月、特に上海、広州は6か月、「4小龍」と称される成長著しい2線級都市のうち、厦門(14か月)を除く、蘇州(6か月)、南京(3か月)、合肥(2か月)の在庫ひっ迫が激しい(業界では10〜14か月が合理水準と認識されている、上海易居研究院)。1線級都市について、住宅供給が0〜20%増加、需要が0〜20%減少した場合を仮定すると、各都市の需給比率(需要総面積/供給総面積、一般に、1.1以上が供給不足、0.9以下が供給過剰と認識されている)は1.2〜3.0でいずれの場合も供給不足、住宅購入抑制策を実施している1,2線級21都市全体で、供給15%以上増加、需要15%以上減少した場合に若干供給過剰になる程度だ(なお、3,4線級都市も含めると17年3月時点、何らかの住宅購入制限政策を導入しているのは少なくとも100都市に及ぶもよう、上海易居研究院)。
[図表1]1,2線級都市の需給比率
[図表2]新築商品住宅価格(前月比)
[図表3]大都市新築住宅価格(前月比)
中長期的観点からの政策期待
昨年末の中央経済活動(工作)会議(翌年の経済運営の基本方針を議論する重要会議)が「住宅は住むもので(用来住)、投機するもの(用来炒)ではない」としたことは有名だが、同会議は同時に「国情に合致し、市場規律に適合した基礎的で長期的に有効な制度建設研究を加速させる」とした。
業界の健全で持続的発展に政策重点をシフトさせる具体的な動きとして、不動産企業の債務リスクへの対応強化がある。上海交易所は昨年9月、資産負債等指標を基に、不動産企業を正常、要注意(関注)、リスクの各類に分け、債券発行の審査監督を強化する措置を導入した。不動産企業債券発行は昨年1.14兆元(前年比26%増、中原地産推計)、17年後半〜18年初に債務返済ピークを迎え(5440億元、オリエントキャピタル推計)、特に中小にとっては潜在的な流動性危機となるためだ。
業界にも以下のような声がある(1月4日付地産界)。
①購入抑制策といった応急措置ではなく、住宅消費と投資、住宅市場と経済成長、住宅在庫と需給変動との関係を総合的に見ることが重要。
②「長期的に有効な制度建設」の重点は不動産統一登記制度と不動産(房産)税(現在は上海と重慶のみ導入)の全国実施。
③各地域の状況に則した「因城施策」をもっと効果的にするため、中央政府はより多くの政策権限・責任を地方政府に委譲すること。
なお、特に②の不動産税の全国実施はここ数年の懸案で、17年全人代にも全国実施のための法案が提出されるとの予測があったが、結局提出は見送られた。ようやく回復が見え始めた景気に水を差すのではないかとの懸念が強く働いたものと思われる(4月13日付財新)。
昨年不動産業の成長率はGDP成長率6.7%より高い8.6%で、GDPシェアは6.5%だった。しかし、関連産業を含めると、そのGDPシェアは20〜25%(中銀証券)、高い推計では25〜30%(ムーディーズ・インベスターズ)に及ぶ。中国経済全体の行方を占う重要な鍵の1つとして、不動産市場に注目すべきだ。